埼玉県高校・障害児学校教職員「九条の会」

教え子をふたたび戦場に送らないために

埼玉県高校・障害児学校教職員九条の会2021年度総会・学習会が開催されました

2022-02-01 17:38:51 | 活動報告
 1月30日(日)、埼玉県高校・障害児学校教職員九条の会2021年度総会・学習会が埼玉教育会館2階大ホールで開催されました。昨年度は新型コロナウイルス感染拡大のため総会を延期し、「お知らせと提案」文書の発送をもって行動提起に代えたため、2020年2月2日、総会と映画会(「主戦場」)を別所沼会館で開催して以来の総会となりました。

経過報告と活動方針を提案する小沢事務局長

 

 総会は、
  (1)代表世話人あいさつ
  (2)議長選出
  (3)経過報告・活動方針
  (4)意見交流
  (5)諸連絡
 という日程で進められました。意見交流では4人の方々が発言し、今井さんは大宮ろう学校事件60周年の集いを話題にしながら、働く者の人権を守り、そうすることで教育も豊かに充実されていくのであり、その根拠としての憲法の大切さを、小林さんは少青年期に受けた沖縄平和学習の体験にふれながら憲法を大切にし、守り抜いていく決意を、榎本さんは昨今の国会や県議会の動きの中で「従軍慰安婦」や「強制連行」といった用語がかき消されていこうとしている歴史修正主義の危険性について、関原さんからは保留になりかけた佐渡金山の世界遺産登録の申請が安倍元首相の一言でひっくりかえされた現政権の異常さについてそれぞれ思うところを述べられました。総会の最後に以下の活動方針が承認されました。

○活動方針
 ①岸田内閣や改憲勢力を包囲するため、職場・地域の草の根からの改憲反対の世論をつくり、明文・解釈両面からの改憲攻撃について学習と話し合いをおこないます。
 ②「九条の会」の輪をもっと大きくし、ゆるぎない改憲反対の多数派を形成します。
 ③交流集会を開き、お互いの経験に学びあい励ましあいます。
 ④「集団的自衛権行使」「戦争法」による「戦争する国づくり」に反対する緊急のとりくみに参加します。
 ⑤「憲法改悪を許さない全国署名」に積極的にとりくみます。

○当面する諸行動
 ・2月11日(金) 2.11集会 講演「憲法改定の本質とわたしたちの課題」(金子勝さん)
 ・5月3日(火) 憲法集会(総がかり実行委員会 有明公園予定)
 ・6月5日(日) オール埼玉総行動1万人集会(北浦和公園)
 ※『憲法手帳』を作成し、九条の会会員及び埼高教組合員に配布します。また、九条の会会員に憲法リーフレット及び「憲法署名」を配布し、学習とともに憲法をまもり、いかす運動に積極的にとりくみます。(『憲法手帳』『憲法リーフレット』等の配布は3月頃を予定しています。

小澤隆一さんの講演はズームでの実施となりました。

  第2部学習会の講演は10分間の休憩ののち、関原さんの司会ではじまりました。小澤さんは直前まで会場におこしになる予定でしたが、オミクロン株の急拡大の中、学年末を迎える大学での期末処理の時期にあたり、やむなくズームでの実施となりました。

 小澤さんは2015年国会で「戦争法」反対の意見陳述を述べ、前管首相によって日本学術会議の任命を拒否された6人のうちの一人です。講演は昨年の衆院選後の各党の動向を中心として改憲策動をめぐる情勢の分析、自衛隊明記、緊急事態条項、教育無償化、敵基地攻撃能力など、現在のキーワードとなる事項についての解説、中長期的な展望を加えた、当面する喫緊の課題についてお話がありました。

 ※なお、今回は小澤さんご好意により、講演会のレジメをこのブログに掲載する許可を得ました。巻末にアップします。当日、画面では読みにくかった等の方はぜひご覧下さい。

    ※
 当日は会場参加29名、ズームでの参加23名、計52名の参加者がありました。当日参加できなかった方々からも多くの募金等が寄せられました。かつてなく改憲の危機に直面する年を迎え、年明け最初の集会として有意義な集まりとなりました。

 

 《参加者の声》

  従軍慰安婦、徴用工などかつての歴史をなかったものとしようとする動き、特に県教委の求めに応じてリーフレットをつくるなど、酷いことになっているのだなアと……この酷いことになっていることそのものを教材にして学習を子どもたちとすすめたらどうでしょうね。最近高校生や大学生は矛盾に立ち向かい始めてますよ。(M.I)

 4人の意見交流は学ぶことが多かったです。1 障害者にとって平和の中で生きることの意味、2 小中学校の頃の学びが平和を守る力となっている、 特に沖縄のガマでの実体験、ひめゆり学徒から実体験聞き取り、3 強化と改訂への攻撃、従軍慰安婦→慰安婦、連行→徴用、県が作成したリーフレットに対抗すべく、生徒と具体的対話を重ね、「憲法を守ろう」の風を吹かせていく、4 憲法改正ができない世論を作っていくことが大事、改憲を許さない行動を一人ひとりがつくっていくこと、私もその一人!!(M.E)

 画面の文字は見えませんでしたが、憲法会議のパンフレットと現憲法条文の冊子を参照しながらきけたので、だいたいわかりました。前から知っていたつもりでいたことが、よくわかってなかったなと反省。政府が「敵」という概念を持ち、そういう表現を使うのってすごーく子どもぽいですよね。(K.S)

 「九条の会」に参加し、改めて現在の日本で起きている非常事態に気付きました。戦後70年が経ち、暮らしが移り変わり、戦争を知っている人も少なくなり、語られなくなったことは国民自身が戦争について考える機会がなくなってきたということです。政府がそんな国民をたきつけ、「国を守るために戦争をする!」と言わんばかりの姿勢は本当に危険で、教育で子どもたちに何をどう伝えるかが、今後の日本の課題でもあると感じました。(無記名)

 総会での4人の発言どれも良かったです。大宮ろう学校事件のことを学んだ数ヶ月前のことを思い出し、沖縄戦を小学校で学んだという話からは改めて平和学習の意義を確認できました。榎本さんの従軍慰安婦リーフレットについては「多角的・多面的に」と自分たちで資料をつくり、授業にしていったという実践から、同じ社会科教員として学ぶものが多かったです。(ぜひ、その資料欲しいです!)名護市長選を憲法改悪の流れの中でどうとらえるか、関原さんの話にはこれからの運動がいかに大事か、頑張っていこうと思いました。

 小澤さんの話からは憲法改正によって改憲派が何をねらっているのか、改悪によってどんな危険性があるのか、具体的にわかりました。特に緊急事態条項の「災害」が自然災害だけでなく、軍事的な意味合い(危険性)もあること、憲法26条の教育に関する部分で「教育内容の決定権は教師にある」こと(これは学習指導要領の位置づけと共にさらに学びたいです!)敵基地攻撃能力が莫大な軍拡につながることなどは目からウロコでした。ありがとうございました。(F.F)

 

○小澤隆一さんの講演会のレジメ

<埼玉県高校・障害児学校教職員九条の会総会・学習会 於:埼玉教育会館 20220130>
                        改憲策動の新局面とわたしたちの課題
                                  小沢隆一(東京慈恵会医科大学・憲法学・九条の会事務局員)
はじめに
・安倍・菅政権から岸田政権へ 引き継がれ強まる改憲策動
・発議可能な改憲派3分の2を許さないために 2022参院選が正念場

1. 2021衆院選と改憲をめぐる動き
(1)2021衆院選 各党の公約
【自民党】
*時代の要請に応えられる憲法制定に尽力
*敵基地攻撃能力の保有も含め、抑止力を向上させる新たな取り組み
*国内総生産(GDP)比2%以上も念頭に防衛関係費の増額 をめざす 
【公明党】
*憲法9条は堅持。自衛隊の存在明記は引き続き慎重に議論。
【日本維新の会】
*憲法に教育無償化や統治機構改革、憲法裁判所を明記
*防衛費のGDP1%枠を撤廃。テロやサイバー・宇宙空間への防衛体制強化
→ 自衛隊明記の9条改正と緊急事態条項創設の改憲案取りまとめ表明(2022年1月12日)
【国民民主党】
*変化に対応する人権保障の更新。同性婚や子供の権利保障、 首相の衆議院解散権の制限、臨時国会の召集期間などを検討 
【立憲民主党】
*衆議院の解散権の制約などの憲法議論を進める。
*憲法9条への自衛隊の明記は、憲法の基本原理などに反し反対 
【共産党】
*前文を含む全条項を厳格に守り、平和的・民主的条項の完全実施を求める。
【社民党】
*憲法の理念を暮らしに生かすことが最優先

(2)選挙結果
・改憲勢力3分の2 維新と国民民主の接近 維新を先導役にした改憲世論形成

(3)憲法審査会(2021年12月16日)での各党の主張
〇 自民党(下村博文) 憲法改正は、国民の関心と期待がますます高まっている。みんなで案を作って、国民に提示をする原案を作成。四項目は、今後の議論のためのアイデアを提示したもの。 国民への提示は国会の責任。 
〇 日本維新の会(馬場) 教育無償化、統治機構改革、憲法裁判所の三項目の憲法改正原案を取りまとめ。 各政党が具体的な憲法改正項目を速やかに提案すべき。 
〇 公明党(北側) 論議すべきは、①緊急事態において国会の機能をどう維持するか、②デジタル社会における人権の保障と民主主義、③地球環境保全の責務。 週一回の定例日には憲法審査会を開催すべき。 
〇 国民民主党(玉木) コロナ禍で明らかになった緊急事態における法の支配の空洞化= 緊急事態条項の議論をすべきだ。分科会方式などを検討すべき。 
〇 立憲民主党(奥野総一郎) 議論を行うが、特定の憲法改正案を前提とし、改憲ありきであってはならない。 
〇 日本共産党(赤嶺) 多くの国民は、改憲を政治の優先課題とは考えておらず、憲法審査会は動かすべきではない。求められているのは、憲法に反する現実をただし、憲法を政治に 生かすための議論を

(4)改憲に前のめりな姿勢を強める岸田首相
 -「改憲は本年の最大テーマ」(年頭所感)
〇 施政方針演説(1月17日)でも改憲に1項目を起こして強調
「先の臨時国会において、憲法審査会が開かれ、国会の場で、憲法改正に向けた議論が行われたことを、歓迎します。 憲法の在り方は、国民の皆さんがお決めになるものですが、憲法改正に関する国民的議論を喚起していくには、我々国会議員が、国会の内外で、議論を積み重ね、発信していくことが必要です。 本国会においても、積極的な議論が行われることを心から期待します」。
〇 「緊急事態において国会の機能をいかに維持するかは重要な論点」(1月20日・代表質問への答弁)

・自民党改憲案の問題点・危険性をどれだけ広められるかがカギ

2.自衛隊明記 9条改憲
<自民党憲法改正推進本部「憲法改正に関する議論の状況について」(20180326)より>
自衛隊の明記について
【現行憲法下における自衛隊の位置付け】
 9条2項は、「戦力の不保持」と「交戦権の否認」を規定し、「徹底した平和主義」を志向するものであり、日本国憲法の大きな特徴の一つであると言われてきた。
 この条項の下、憲法制定当初は国連による国際平和の実現や我が国の安全の確保が想定されていたが、冷戦による国連の機能不全に直面したわが国は、この「徹底した平和主義」のもとでの現実的対応として、①防衛の分野では「専守防衛」の枠内で自衛隊を創設し、国と国民を守るための諸法制を着実に整備するとともに、②国際貢献の分野においても、憲法の枠内で武力行使を伴わない支援活動に自衛隊を活用することにより、特に近年積極的に役割を果たしてきた。
【憲法改正の必要性】
 このような自衛隊の諸活動は、現在、多くの国民の支持を得ている。他方、自衛隊については、①合憲と言う憲法学者は少なく、②中学校の大半の教科書(7社中6社)が違憲論に触れており、③国会に議席を持つ政党の中には自衛隊を違憲と主張するものもある。そのため、憲法改正により自衛隊を憲法に位置づけ、「自衛隊違憲論」は解消すべきである。
 自衛隊を憲法に位置付けるに当たっては、現行の9条1項・2項及びその解釈を維持した上で、「自衛隊」を明記するとともに、「自衛の措置(自衛権)」についても言及すべきとの観点から、次のような「条文イメージ(たたき台素案)」を基本とすべきとの意見が大勢を占めた。

第9条の2 前条の規定は、我が国の平和と独立を守り、国及び国民の安全を保つために必要な自衛の措置をとることを妨げず、そのための実力組織として、法律の定めるところにより、内閣の首長たる内閣総理大臣を最高の指揮監督者とする自衛隊を保持する。
② 自衛隊の行動は、法律の定めるところにより、国会の承認その他の統制に服する。
(※第9条全体を維持したう上で、その次に追加)

[9条1項・2項維持論に関するその他の意見]
 なお、上記の「条文イメージ(たたき台素案)」に対しては、①端的に「自衛権の発動」について言及すべきとの意見や、「必要な措置をとることを目的として」などのより簡潔な表現を工夫すべきとの意見があったほか、③そもそも、これまでの政府解釈のキーワードである「必要最小限度の実力組織」の表現を盛り込むべきとの意見もあった。
[9条2項削除論]
 9条2項を削除・改正した上で、陸海空自衛隊を保持し、自衛権行使の範囲については、安全保障基本法で制約することとし、憲法上の制約は設けない。また、シビリアンコントロールに関する規定も置く。これにより、「戦力」や「交戦権」などの9条を巡る積年の懸案を解消すべきとの意見もあった。
(1) これで9条2項は死文化
・「必要最小限度」という言葉が落ちた
・「必要最小限度」という言葉が残っても意味を持たない当初案

(2)「内閣の首長たる内閣総理大臣」という言葉にご用心
・首相に統帥権を 日米軍事協力にとって必須の体制

(3)「自衛隊の任務・権限は変わらない」、「全面的な集団的自衛権は行使しない」はウソ

3.緊急事態条項
  64条の2 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、衆議院議員の総選挙又は参議院議員の通常選挙の適正な実施が困難であると認められるときは、国会は、法律の定めるところにより、各議院の出席議員の三分の二以上の多数で、その任期の特例を定めることができる。
  73条の2 大地震その他の異常かつ大規模な災害により、国会による法律の制定を待ついとまがないと認める特別の事情があるときは、内閣は、法律で定めるところにより、国民の生命、身体及び財産を保護するため、政令を制定することができる。
② 内閣は、前項の政令を制定したときは、法律で定めるところにより、速やかに国会の承認を求めなければならない。

(1)64条の2の「奇妙な想定」
・選挙間近を想定しているはず。 選挙ができないほどの非常時なのに国会議員が国会にそろっている。

(2)すでに法律がある大規模災害対策や感染症対策
・災害対策基本法 大規模地震対策特措法 感染症には新型インフルエンザ等対策特措法
・災害対策基本法109条「災害緊急事態」の際の「緊急措置」

  災害緊急事態に際し国の経済の秩序を維持し、及び公共の福祉を確保するため緊急の必要がある場合において、国会が閉会中又は衆議院が解散中であり、かつ、臨時会の召集を決定し、又は参議院の緊急集会を求めてその措置をまついとまがないときは、内閣は、次の各号に掲げる事項について必要な措置をとるため、政令を制定することができる。
一 その供給が特に不足している生活必需物資の配給又は譲渡若しくは引渡しの制限若しくは禁止
二 災害応急対策若しくは災害復旧又は国民生活の安定のため必要な物の価格又は役務その他の給付の対価の最高額の決定
三 金銭債務の支払(賃金、災害補償の給付金その他の労働関係に基づく金銭債務の支払及びその支払のためにする銀行その他の金融機関の預金等の支払を除く。)の延期及び権利の保存期間の延長

(3)いつでも武力攻撃時に適用可能な緊急事態条項 こんなものはいらない むしろ危険

4.教育充実
(1)「教育無償化」の看板を下ろした果てに

 26条 1項・2号は現状のまま
 ③ 国は、教育が国民一人一人の人格の完成を目指し、その幸福の追求に欠くことのできないものであり、かつ、国の未来を切り拓く上で極めて重要な役割を担うものであることに鑑み、各個人の経済的理由にもかかわらず教育を受ける機会を確保することを含め、教育環境の整備に努めなければならない」。
 89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の監督が及ばない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。

(2)教育への国家介入の企みがのぞいている
・現行26条における権利と義務の「連鎖構造」 二つの「国民」・二つの「義務」
・子どもの教育を受ける権利―親の教育を受けさせる義務&教育内容の決定権(親からの直接の負託による教師の教育内容決定権(限))―(社会・国家の)教育条件整備義務
・「子どもの権利First」で貫かれている現行26条
・この連鎖構造が分断され 国家・権力による教育への介入が正当化される

5.「敵基地攻撃能力」論の危険性

イージス断念の挙句に…
  自民党は、2020年6月30日、「ミサイル防衛に関する検討チーム」(座長・小野寺五典元防衛大臣)の初会合を開き、「敵基地攻撃能力」の保有に関する議論を始めました。それに先立ち政府は、候補地とされた秋田や山口の住民・自治体も強く反対してきた陸上配備型迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の配備計画を撤回しましたが、同時に安全保障戦略を見直して、9月中に方向性をまとめることにしました。自民党の動きは、これに呼応するものでした。
「敵基地攻撃能力」の検討は、これまで何度か自民党が政府に提言してきましたが、採用されてきませんでした。しかし、安倍元首相は、「イージス・アショア」計画断念後の記者会見で、「政府も新たな議論をしていきたい」と述べて踏み込む姿勢を示しました。政府、自民党の「転んでもただでは起きない」執念深さにはあきれるとともに、より危険な方向に舵を切ろうという姿勢に、強い不安と憤りを禁じえません。

「敵基地攻撃能力」論の本質
  「敵基地攻撃能力」とは、弾道ミサイルの発射基地など、敵の基地を直接、攻撃できる能力と解されています。これは、敵が攻撃に「着手」したあとに反撃するものであって、攻撃がないにもかかわらず敵基地を攻撃する「先制攻撃」とは違うと説明されています。しかし、何をもって日本に対する攻撃の「着手」とするのか不明確であり、国際法違反の「先制攻撃」とどう区別するのかは、結局のところあいまいです。自民党のなかで取りざたされている「敵基地攻撃能力」という言葉の「自衛反撃能力」へのすげ替えも、問題を糊塗するものにほかなりません。
これまで、日本政府は、相手基地への攻撃は米軍にゆだね、自衛隊は、攻撃的な武器をもたずに防衛に専念して、「敵基地攻撃能力」は、政策的に保有しないとしてきました。ただし、敵基地攻撃を可能にする巡航ミサイルやF35ステルス戦闘機の取得、「いずも」型護衛艦の空母化などをなし崩し的に進めていることは見逃せません。今回は、そうした既成事実の上にたって、従来の方針を正面から転換しようというのです。「敵基地攻撃能力」論は、安保法制による集団的自衛権行使容認とともに、将来の9条改憲への布石として持ち出されてきているのです。
  この問題についての政府の立場として、よく引き合いに出されるのが、1956年に当時の鳩山一郎内閣が国会に示した見解です。それは、「たとえば誘導弾等による攻撃を防御するのに、他に手段がないと認められる限り、誘導弾等の基地をたたくことは、法理的には自衛の範囲に含まれ、可能である」(1956年2月29日衆院・内閣委)というものです。しかし、この「他に手段がないと認められる限り、法理的には自衛の範囲」という論法は、何でもその中に包みうる融通無碍(ゆうずうむげ)なものです。この見解の翌年には、岸信介首相が「自衛のためなら核兵器の保有も可能」という見解(1957年5月7日参院・内閣委)を示していますが、これらは自衛権論を抽象的に論じることの危うさを物語っています。

具体的にどのような想定が…
  それでは一体、「敵基地攻撃」とはどのように行使されるのでしょうか。河野太郎外相は、日本共産党の井上哲士参院議員に答えて次のように述べています(2020年7月9日参院外交防衛委員会)。
  「一般論として申し上げれば、敵基地攻撃のためには、他国の領域において移動式ミサイル発射機の位置をリアルタイムに把握するとともに、地下に隠蔽されたミサイル基地の正確な位置を把握し、まず防空用のレーダーや対空ミサイルを攻撃して無力化し、相手国の領空における制空権を一時的に確保した上で、移動式ミサイル発射機や堅固な地下施設となっているミサイル基地を破壊してミサイル発射能力を無力化し、攻撃の効果を把握した上で更なる攻撃を行うといった一連のオペレーションを行うことが必要である」。
 これらからは、①移動式ミサイル発射機や地下ミサイル基地を把握するための衛星や無人偵察機による偵察の強化、②レーダーや対空ミサイルの無力化のためのものを含む膨大なミサイルの保持が必要なことがわかります。要するに、「敵基地攻撃能力」の保持は、宇宙の軍事利用も含めた攻撃型兵器の途方もない軍拡なしには成り立たないものです。人々がコロナ禍で苦しむ中で、大軍拡を引き起こす「敵基地攻撃能力」の保持は、断じて許されません。ミサイルを増強しあうことで生じる国家間の対立は、コロナ対策の国際協力にとっての阻害要因にもなるでしょう。

軍事同盟のない北東アジアを展望して
自民党や政府は、「敵基地攻撃能力」論の根拠として、「日本を取りまく安全保障環境がいっそう、厳しくなっている」ことを挙げています。
防衛省によると、北朝鮮や中国は、この間、弾道ミサイル開発を進め、既存のミサイル防衛体制では迎撃できない可能性があるとみられています。こうした北朝鮮や中国のミサイル開発は、「敵基地攻撃能力」論に絶好の口実をもたらしていますが、両国のこうした動きの意味は、在日、在韓の米軍とその攻撃能力の存在、すなわち北東アジアにおける軍事同盟体制の重圧抜きにはとらえられません。
ミサイル開発とミサイル防衛、「敵基地攻撃」による終わりなき軍備の拡張という負の連鎖を断ち切るためにも、北東アジアにおける軍事同盟体制の解消こそ、今こそ切実に求められているのです。

むすび-私たちが今直面している課題とその展望
・9条改憲阻止とアジアの平和実現の密接不可分な関係
・北朝鮮の非核化のためには 国交正常化・朝鮮戦争終結・平和条約が格好
・朝鮮戦争終結で軍事同盟体制(米韓+日米)と在日米軍基地の必要性(正当性)は消滅
 アジアの平和にとっての辺野古新基地阻止、南西諸島の軍事化阻止の意義
・北の非核化は米の核戦略見直しで 核兵器禁止条約の実効化の重要性
・9条改憲阻止、アジアの平和実現・軍事同盟体制打破、核兵器廃絶は「一繋がり」の課題
・「兵器爆買い」をやめさせ、消費税に頼らない暮らしと福祉、教育充実の税財政に
・「憲法改悪を許さない全国署名」を大いに広げ 参院選で改憲NOの国民の意思を

 


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