あけましておめでとうございます。今年もどうぞよろしく。
多摩川や大阪南港など都市の市民が中心になった自然保護運動がはじまった1970年前後から40年になります。「環境優位の実現」や「自然との共存」「自然豊かな地域づくり」などの目標もかなり初期から唱えられてきました。しかし、これらの目標の達成のためのいきもの系のアプローチは適切なものだったかどうか。それがこのところ私の頭の中に居座る疑問です。
現在、いきもの系の旗印は生物多様性です。特に絶滅危惧種の保全が最重要課題です。しかし、トキやコウノトリなどの最も希少性の高い種ならばともかく、その下のランクの生物の場合はオオタカのように、たとえ絶滅危惧種であってもその保護、生息環境の保全は容易に実現しません。また、希少種を中心にした保護活動で守られる面積には限界がありますし、都市近郊の農地や樹林などの保全というテーマに必ずしも有効ではありません。
より多くの自然を守り、より多くの人が自然の恵みを享受できる、そうした社会を実現するには、生物多様性とともに生態系サービスやレクリエーション、学習、こどもたちの育ちの場などより多くの人の間で共有できる価値の重なりの中に可能性を見出す必要があります。
しかし、生物多様性と生態系サービスの共通指標づくりをテーマにした研究集会などに参加した印象では、こうしたテーマへのアプローチはどちらかいうと地球環境や都市政策の分野が主で、いきもの系からのアプローチはまだまだ少ないように思えました。
生物多様性と生態系サービスの関係は実際どうなっているのでしょうか?
話は変わりますが、20年ほど前から京阪奈丘陵に関心をもっています。京阪奈丘陵は大阪・奈良・京都という都市に囲まれた緑地であり、穂谷や高山は生物多様性のホットスポット、東には淀川水系の中で今も自然撹乱が起こる木津川があります。数々の研究が蓄積され様々な保全活動が展開されています。つまり関西レベルで重要な緑地と考えています。
この緑地の水系は、奈良、京都、大阪はそれぞれ個性をもっています。京都側は比較的小さな河川の集合体、丘陵地の出口に比較的大きなため池が作られ、木津川揚水などともに木津川沿いの農地を潤しています。奈良は奥に高原的な集水域があり、富雄川というやや大きめの河川に流下しています。集水域には大きな高山溜池があり、このためか枝谷にはあまり大きな溜池はありません。大阪は奈良と似た天野川や穂谷川の水系とともに、断層崖による奥行きの狭い山からの小河川群があります。水はもちろん重要な生態系サービスでありますが、こうした水系の違いは生物多様性とどのような関係をもつのでしょうか?
宝が発掘できるかどうかわかりませんが、今年は京阪奈に限らず自然の中を歩きながら「生物多様性と生態系サービス」という都市と自然の重要なリンクについて考えてみたいと考えています。そして都市の中に農地や自然をいかにして位置づけるか?を考えていきたいと思います。ところで、昨年サンデル教授のハーバード白熱教室は強固な原理のもつパワーを思い知らされました。自然保護の世界ではなかなかできないのですが、こうした基本原理の議論もしたいと思います。