礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

赤間勝美は親子二代の線路工夫であった

2020-11-07 01:13:55 | コラムと名言

◎赤間勝美は親子二代の線路工夫であった

 大森実著『日本はなぜ戦争に二度負けたか』(中央公論社、一九九八)から、「19 三鷹、松川事件のデッチ上げ証言」の章を紹介している。本日は、その二回目。

 これまた手際よいスピード検挙と超特急裁判で、五〇年〔昭和二五〕十二月六日に行われた福島地裁の第一審判決では死刑五名、無期懲役五名を含む有罪判決二十被告の中、十六名が共産党員、三名が民青同盟員であった。
 判決理由は、これら被告による国鉄労組福島支部の二つの共同謀議と、国鉄労組福島支部と東芝松川労組間の連絡謀議の、計三つの共同謀議による列車転覆致死傷害罪であった。
 赤間勝美(十九歳)が、別件の婦女暴行容疑で逮捕されたのは九月十日のことであった。不良仲間からの聞きこみ捜査で、赤間が転覆事件を予告して触れ歩いていたという容疑によった。
 有名な「赤間自白」の当人が検挙されたのだが、この「赤間自白」をツルにして列車転覆の破壊行為と共同謀議の容疑者が次々に検挙されていく。
 赤間勝美は、満鉄の線路工夫であった父親に連れられて中国から帰国、本箱地の小学校の高等科二年を卒業して、福島保線区の線路工夫になった男。親子二代の線路工夫であった。
 赤間は、下山総裁失踪日の国鉄第一次整理で首を切られたが、その二日後の七月七日の「伊達駅事件」で逮捕された。首切り不満分子が伊達駅長を襲った事件であったが、赤間は国鉄労組福島支部から一万円の保釈金を立て替えてもらって釈放されると、福島市内の村山パン店に就職していた。
 問題の「赤間自白」は、逮捕後、福島署の捜査課次席だった玉川〔正〕警視と福島地検の山本〔諫〕検事に犯行を自供したもので、その内容は次の通りであった。
「八月十五日(列車転覆の二日前)午前十一時前ごろ、国労福島支部に行くと、会議室で六人が密談中でした。阿部(市次、一審死刑判決、福島支部書記)から、明日は虚空蔵〈コクゾウ〉の祭りで人出が多い、列車の脱線転覆をやっても誰がやったか分からない、君も行ってくれと誘われました。保釈金を立て替えてもらった恩義があるので、行くと答えました。各人が秘密を守り、アリバイを確実に作ることの他に、脱線計画の話がありました。
 阿部から、福島支部からは本田昇(一審死刑判決、福島支部執行委員)と高橋晴雄(一審無期懲役判决、同執行委員)が行くが、人数が足りないので東芝松川工場からも二、三人来てもらう。脱線作業の道具は松川組が持ってくる、と告げられました。十六日夜十二時ごろ、永井川の信号近くの農協の後ろで待てと言ったのは本田でした。
 十六日夜十二時ごろ、約束地点で本田、高橋と落ち合い、現場(転覆)まで十キロほど歩きました。現場に着いても、松川組が到着していなかったので、松川寄りに歩いていくと、松川組の二人がスパナ一挺とバール一本を持ってやってきました。
 二十五メートルある外側レール一本と、次のレールの外側の犬釘を八分通り抜き取りました。反対側の内側レールの犬釘やチョック〔止め木〕を十五メートルほど抜き取り、継ぎ目板は一個所、完全に外したので十分な措置ができたと思いました。仕事は三十分ぐらいで終わり、松川組と別れて帰りました」
「赤間自白」に基づく、破壊工作者と共同謀議者、七人の一斉検挙が行われたのは九月二十二日であったが、松川組の佐藤一〈ハジメ〉(一審共同謀議で死刑判決、松川に派遣されていた東芝鶴見工場・執行委員長)と浜崎二雄〈フタオ〉(一審共同謀譏で十二年懲役判決、東芝松川工場青年部宣伝部長)は、赤間勝美が、玉川警視から見せられた写真を確認したことによった。
 十月四日、浜崎二雄の自白に基づいて、東芝松川労組の共同謀議容疑者として杉浦三郎(一審死刑判決、松川組合長)、太田省次(一審無期懲役判決、同副組合長)、大内昭三(一審懲役七年判決、同青年部員)の他、二名が逮捕され、同月八日には、大内昭三の自白により、菊地武(一審懲役七年判決、同青年部文化部長)が逮捕。さらに同月十七日には、東芝松川労組側のアリバイ工作者二名も逮捕された。
 また、十月二十一日になると、太田省次の逮捕をツルにして、国鉄福島労組と東芝松川労組の連合・共同謀議容疑者として武田久(一審無期判決、国労福島支部執行委貝長)ら四名とアカハタ福島支局長・本田嘉博が逮捕された。【以下、次回】

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