礫川全次のコラムと名言

礫川全次〈コイシカワ・ゼンジ〉のコラムと名言。コラムは、その時々に思いついたことなど。名言は、その日に見つけた名言など。

「岩波新書の再出発に際して」(1949年3月)

2014-05-01 04:46:01 | 日記

◎「岩波新書の再出発に際して」(1949年3月)

 昨日は、「アテネ文庫刊行のことば」を紹介したが、本日は、「岩波新書の再出発に際して」を紹介してみよう。この文章は、岩波新書の青版の刊行が始まった際に、巻末に付されたものである。ちなみに、岩波新書の青版の第一冊は、大塚金之助の『解放思想史の人々』(一九四九年四月一〇日)である。

 岩波新書の再出発に際して
 岩波新書百冊が刊行されたのは中日事変の始まった直後から太平洋戦争のたけなわな頃におよぶ、かの忘れえない不幸の時期においてであった。日々につのってゆく言論抑圧のもとにあって、偏狭にして神秘的な国粋思想の圧制に抵抗し、限りなき現実認識、広い世界的観点、冷静なる科学的精神を大衆の間に普及し、その自主的態度の形成に資することこそ、この叢書の使命であった。
 われわれは、かの不幸な時期ののちに、いまだかつてない崩潰を経験し、あらゆる面における荒廃のなかから、いまや新しい時代の夜明けを迎えて立ちあがりつつある。しかも、当面する危機はきわめて深く、状況はあくまで困難である。世界は大いなる転換の時期を歩んでおり、歴史の車輪は対立と闘争とを孕み〈ハラミ〉ながら地響きをたてて進行しつつある。平和にして自立的な民主主義日本建設の道はまことにけわしい。現実の状況を恐るることなく直視し、確信と希望と勇気とをもってこれに処する自主的な態度の必要は、今日われわれにとって一層切実である。ここに岩波新書を続刊し、新たなる装いのもとに読者諸君に贈ろうとするのも、この必要に答えて国民大衆に精神的自立の糧〈カテ〉を提供せんとする念願にもとづく。したがって、この叢書の果すべき課題は次のごとくであろう。
 世界の民主的文化の伝統を継承し、科学的にしてかつ批判的な精神を鍛えあげること。
封建的文化のくびき〔軛〕を投げすてるとともに、日本の進歩的文化遺産を蘇らせて国民的誇りを取りもどすこと。
 在来の独善的装飾的教養を洗いおとし、民衆の生活と結びついた新鮮な文化を建設すること。
 幸いにひろく読者の支持をえて、この叢書が国民大衆の歩みとともに健康なる成長をとげることを心から切望するものである。(一九四九年三月)

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