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とつぜんSFノート 第30回


 コピーライター時代、某クレジット会社のPR誌の仕事で、取材旅行したことがあった。取材旅行といっても「旅の特集ページ」の取材だから、観光地巡りである。最初は四国一周だった。2回目は中国地方一周である。
 このPR誌、自動車会社のマツダが協賛企業となっている。新幹線で広島まで行き、マツダの本社へ行く。マツダのエライさんにあいさつのあと。取材に使う車を借りる。車はマツダ・コスモ。UFOのような平べったいコスモ・スポーツは初代だが、その真っ赤2代目コスモAPが今回の旅のパートナー。風景写真をとる時は必ずコスモを入れるという条件だ。
 カメラマンと二人旅だが、運転は小生が行う。新発売されたばかりのピカピカの新車である。広島の町に走り出すと、さすがに目立って少々恥ずかしい。借り物の車である。絶対事故は起せない。落輪、接触、といった小事故もダメ。安全慎重運転である。あんな気を使って運転したのはあの時が一番だ。
 実は、小生、ロータリーエンジン車は初体験ではない。ファミリア・ロータリークーペに乗っていたこともあった。コスモはさすがにファミリアとは比べ物にならない良い車だった。馬力はコスモはファミリアより20馬力ほど高かったのではないか。静かで安定していて、そして速かった。コスモもファミリア同様、乗っていて速いとは感じなかった。他の車が遅いだけ。ロータリーエンジンはそれだけ、静かで振動が少なく滑らかに回るということだ。ただガソリンはよく食った。取材旅行中、毎日のようにガソリンを入れていたと記憶する。また、ガソリンを入れるたびに洗車していた。写真撮影しなければならないため、汚れていてはいけない。
 原爆ドームなど広島市内を撮影取材。宮島へ渡る。狭い島内には鹿がたくさんいた。厳島神社の撮影に行くが干潮であった。あの大鳥居、満潮の時は、鳥居の足もとが海の中にかくれていてきれいだが、干潮の時は、足もとが出て、カキやらなんやらいっぱい付いて、非常に汚い。旅行最終日にまた広島にコスモを返しにこなくてはならないから、その時にもう一度撮影する。それでもダメなら、借りネガという手がある。いろんな写真のネガを持っていて、それを貸す商売がある。もちろん著作権などの手続きは済んでいる写真だ。そこから厳島神社の写真を借りてきて誌面に使う。もちろん、現地で撮影した写真を使うのがベストである。極力、借りネガはさけたい。ただ、天候の都合などで、現地で撮影した写真が使えない場合がある。一ヶ所で何泊もして天候待ちしてじっくり撮影できるほど潤沢な予算はない。
 広島市内のビジネスホテルに泊まる。次の日は岩国で錦帯橋を撮影。そのまま山口市まで走って、市内を撮影取材。山口はかっては大内氏が治めていて「西の京」といわれている。山口で宿泊。
 早朝出発。秋吉台に向かう。まず、秋芳洞に入る。秋芳洞をひとめぐりして、秋吉台のドライブウェイにコスモを向ける。この秋吉台のドライブウェイが素晴らしかった。秋芳洞入り口付近の土産物屋が並んでいる道を過ぎ、カーブを曲がると、パーとカルスト大地が広がっている。羊の群のような石灰岩が点在する中を走る道は実に気持ちよかった。
 萩に到着後、日のあるうちに撮影。指月公園で萩城を撮影。隣の菊ヶ浜の海岸で海をバックにコスモの撮影をする。
 この時、コスモの横に女性を二人ほど立たせたいとカメラマンがいった。どっかでモデルになってくれる女の子を探してくれという。しかたがないので、小生が、そのへんを歩いている二人連れで、できるだけきれいな子に声をかける。
「お嬢さん、モデルになっていただけませんか」とても小生のキャラとは考えられない、非常に古典的なナンパ言葉を二人連れに声をかける。これが意外なことに「いいですよ」と快諾。コスモの前や後ろ、横に立ってもらって何枚か撮影。考えてみれば、このコスモ、ナンパするのは適した車だ。かっこいいし、静かだし。こっちは男二人、相手は女二人。小生はコピーライターの肩書きの名刺を渡してあるし、カメラの機材はプロ用だから、本物のPR誌の編集だと思うだろう。なんせ本物なんだから。コスモは5人乗りだから、もうちょっと撮影におつきあい、といってホテルにでも連れ込んでけしからん写真を撮ろうなんて、これぽっちも思わなかったのである。第一時間がない。このあと料理の撮影をしなくてはならない。撮影終了後住所を聞く。もちろん、できあがった雑誌は彼女たちに送った。横浜から来た女子大生だったと記憶する。
 この時、彼女たちにモデルを頼んだのは小生だが。小生、カメラマンなる人種と何度かペアで仕事したことがあったが、彼らはシャッターを押すこと以外はなにもしない。前回もそうだったが、運転はずっと小生。カメラマンは助手席で寝てる。旅行中の会計から、その他事務仕事、取材対象との折衝、時間管理、そしてモデルの調達まで、何から何まで全部コピーライターがやらなければならない。
 翌日、萩を出て津和野へ向かう。萩から津和野までの道が大変に快適だった。津和野を撮影取材のあと、一路広島へ。厳島神社の撮影をして、マツダ本社でコスモを返し、大阪へ帰る。


コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )
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コメント
 
 
 
コスモ! (海野久実)
2012-04-27 22:00:03
「コスモ」って、田中光二さんの小説を思い出しますね。
最初は中古のセリカに乗っていた主人公が宝くじに当たって、コスモを買う。
いろいろ改造したその車でパープル色のGTRを追いかける。
合ってますか?
「白熱」だったかなー
けっこうはまって読みましたね。
 
 
 
海野久実さん (雫石鉄也)
2012-04-28 15:47:42
田中光二さんは大好きで、デビュー以来おっかけをやってました。
私が実行委員長をやった星群祭にはゲストで来ていただき、ご本人ともお会いしました。
田中さんのカーアクションは、ほとんど読んだかな。
「白熱」「ビッグラン」「キツネ狩り」「パンツァー特急」みんな面白かったですね。
 
 
 
あれ? (海野久実)
2012-04-28 18:11:33
ちょっと気になって検索してみると「白熱」の主人公は最初、チェリーに乗っていたんですね。
で、宝くじに当たってセリカをターボ仕様にチューンアップしてGTRを追う。
と言うのがストーリーらしいですね。
コスモは出てこない。

よく考えたら、この作品を読んだのと同じ頃に田中光二さんがエッセイで、今、気になっている車がコスモだというようなことを書いてらっしゃたのでした。
 
 
 
Unknown (川越敏司)
2012-04-28 18:12:20
関係ないところですいません。今日、ようやくSFマガジン6月号を手に入れまして、雫石さんの作品が選評に取り上げられていましたね。マグロの寿司がネタのモノ。

作品はもう公開されていましたか?
 
 
 
海野久実さん (雫石鉄也)
2012-04-28 21:44:01
そうですね。確か、田中さんの小説にはコスモは出てきませんでしたよね。
確か「白熱」はセリカ、「ビッグラン」はスカG-R、「キツネ狩り」はフェアレディ2000(と思われる)ではなかったかと記憶します。
 
 
 
川越敏司さん (雫石鉄也)
2012-04-28 21:46:38
「鮪の鮨」はまだアップしてません。5月4日にアップする予定です。
 
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