雫石鉄也の
とつぜんブログ
のぼうの城

和田竜 小学館
豊臣秀吉の天下統一の総仕上げ小田原攻め。関東を支配する北条氏は敗北したが、唯一、落ちなかった北条側の城がある。武州忍城。
攻め手の総大将は石田三成。城方の総大将は城代成田長親。石田軍2万。忍城侍五百、百姓領民から女子供までかき集めても2千。2万VS2千。ところがこの成田長親、ただ者ではない。
面白かった。痛快、爽快な戦国エンタティメントであった。ところが、小説としての出来は決して上手ではない。ストーリーは一本調子。話は実に都合よく展開する。登場人物も類型的。勝気で美人なお姫様。凡庸な当主。やたらと強い家老。フェアプレーに徹する敵将。で、ありながら、面白く読まされてしまった。これは、ひとえに主人公成田長親のキャラ立ちのたまもの。
彼を長親と本名で呼ぶ者は、ごく限られた者だけ。みんなは、のぼう様と呼ぶ。百姓たちまで、本人に面と向かって、のぼう様と呼ぶ。のぼう、でくのぼうの「でく」を取って「のぼう」
この者、侍でありなが、農作業が趣味。農作業を手伝いたがるが、不器用なため手を出されると、百姓は迷惑。馬に乗れず、槍を使えず、武も勇も智もない。ないないづくしの侍である。ところが彼は、だれにも負けないものを持っていた。人気、人望。家中の侍たちから、領民百姓たちまで、「のぼう様」といって彼を慕う。
この、侍落第の、のぼう様が秀吉の信頼厚い石田三成の軍勢2万を、いかにして撃退したか。このあたりは実に痛快である。
成田家の3人の家老。正木丹波守、柴崎和泉守、酒巻靱負。当主の成田氏長、奥方の珠、姫の甲斐姫、百姓たち。豊臣方の石田三成、大谷刑部、みんな好人物で好感が持てる。石田軍の長束正家が一人で憎まれ役を務めていた。もう一人ぐらい悪役がいた方が良かったかな。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )
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気にならない、ことはないのですが、読みたい本の順番は『スリーピング・ドール』、『武士道シックスティーン』、『深海のYrr』よりも下かな。
とはいえ、図書館で借りることが前提なのでこのランキングは変動する可能性大ですけどね。
「スリーピング・ドール」はいま読んでます。
今回は逆で、映画を観て満足してしまい小説は読んでません。
のぼう様の役者さんが実に印象的でした。
木偶の棒で、無力な男と思いきや…
珍しく映画の印象を壊したくないから読まない…という作品です。
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