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シブミ


トレヴェニアン 菊地光訳             早川書房

 日本趣味満載の冒険小説の金字塔、ということだが、前半は当たっているが、後半は当たっていない。確かに日本的な哲学?を身につけた主人公が活躍するが、この小説は冒険小説かと問われれば、小生は疑問に思う。
 ニコライ・ヘルは今はバスク地方に住んでいる。バスク独立運動の英雄が友だちだ。趣味は洞窟探検。独立運動の闘士で親友のル・カゴと二人で未到の洞窟に入る。日本庭園があるお屋敷に庭師と愛人と住んでいる。
 実はニコライは今は引退したが、凄腕の暗殺者。日本古来の秘技「裸‐殺」を身につけ、徒手空拳で確実に相手を殺す。
 ニコライはプロシア貴族の父と、革命に追われたロシア貴族の母との間で上海で生まれた。父はすでに死んでおり、母も死ぬ。ニコライは上海に進駐してきた日本陸軍の将官岸川に育てられる。囲碁の達人である岸川に碁の手ほどきを受け、古武士の心を持つ岸川に日本の禅の奥儀「シブミ」を伝授される。
 戦争が激しくなり岸川はソ満国境へ転戦。敗戦。岸川はシベリアに抑留される。ニコライは日本へ脱出。岸川の友人で囲碁の師匠大竹7段の家に内弟子として住み込み碁の上達に励み、さらなる「シブミ」の会得に精進する。
 岸川はシベリアから送還。戦犯として巣鴨の刑務所に収監される。恩人岸川に面会に行ったニコライは、岸川の現状をみて、刑務所内で重大な事件を起こす。GHQに捕らわれ、拷問を受け3年間独房に閉じ込められる。そんなにニコライにCIAが接触。釈放を条件にある使命を課す。
 と、まあ、本書の主人公ニコライ・ヘルの生い立ちは以上だ。かなりキャラが立った主人公といえる。
 物語は、ニコライが50を過ぎ、バスクに隠遁してから始まる。そのニコライを一人のユダヤ人の娘が訪ねて来る。ミュンヘンオリンピックでイスラエル選手団がアラブ過激派に殺害された事件があっただろう。ユダヤ人娘ハンナの伯父はあの事件で息子を殺された。伯父は報復を決意。ハンナも実行グループだ。ローマ空港でアラブ過激派を銃撃してメンバー二人を殺害する。ところがハンナたちグループも何者かに銃撃され、ハンナ一人が生き残る。アラブの石油利権を独占するアメリカの企業集団「マザー・カンパニー」がCIAを手先に使ってハンナたちを襲わせたのだ。
 マザー・カンパニーとCIAに仇討ちをするため、ハンナはニコライに会いにきたのだ。
 と、こう紹介するとアクション満載の冒険活劇と思うかもしれないが、アクションがあるのはほんの少し。上巻のほとんどは少年ニコライが上海で、日本でいかに育ったか。父ともいえる岸川との心の交流。そしてものすごく悲しい別れ。師大竹との師弟愛。外見は西洋人、内面は日本人のニコライが終戦直後の日本でいかに生きたか。と、いった、少年の成長の物語である。
 下巻の多くはニコライとル・カゴの洞窟探検に多くのページを割いている。冒険小説を期待して読むと期待はずれだが、数奇な運命な一人の西洋人の一代記として読むと、名作といえよう。
 このニコライの若いころの仕事を描いた「サトリ」が、ドン・ウィンズロウによって書かれている。読まなくては。



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