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とつぜんリストラ風雪記 28

とつぜんリストラ風雪記 27

 2005年2月。NP社に入社。JR尼崎駅から南に歩いて10分ほどのところ。パソコン用の電源装置などを作っている会社。この会社に購買係として採用された。最初の3ヶ月は試用期間。
 電子部品の購買仕入れが仕事である。小生がK電気で27年間やってきた仕事。小生のスキルが100パーセント生かせる仕事である。NP社も工場を見れば、ものすごく整理整頓が行き届いている。きっちりした会社だ。きっちりしすぎているぐらい、きっちりした会社だ。

2005年2月18日(金)
 週明けの21日からNP社に出勤。それに備えて、朝に出勤シュミレーションを行う。9時始業に間に合うために、何時に家を出て、何時の電車に乗ればいいか知るため。NP社の前まで行って、すぐひき帰す。帰りしなにかかりつけの、Tクリニックに立ち寄る。提出用の健康診断書を作成してもらう。

2月19日(土)
 通勤用に新しいカバンとクツを買いに三宮へ。

2月21日(月)
 NP社へ初出勤。1月15日にMK産業をクビになって、1ヶ月と少し間が開いた。ブランクを作らないのを目標に就職活動したが、これぐらいであれば許容範囲か。
 この日は資料をあてがわれ、これに目を通すべしとの指示。小生は会社を何社も渡り歩いたから、よく判るが、新しい会社に入ってまずやらされるのがこれである。会社案内やら、就業規則、作っている製品のカタログ、取引先の資料、などなど。正直、さして面白い読み物ではない。こんなもん半日も読むとだいたいのことは理解できる。読むところがなくなる。あとは終業時間まで退屈地獄。
 どうしてこんなことになるのか。ようは総務人事と現場の連絡が悪いのである。人事募集は総務でやる。総務はいつどういう人が入社するかを知っている。採用する部門だから当然だ。ところが、このことを現場に連絡するのが遅くなることがある。会社の都合に、新入社員本人の都合など、様々な要素で何日にだれが入社するかはぎりぎりまではっきりしない。入社日が正式に決まると、現場に連絡が行くのが数日前、はなはだしきは前日ということもあるだろう。
 新入社員を迎え入れた現場としても困る。何からしてもらったらいいか判らないのだ。小生の場合は購買係として採用されたのだから、購買をやることは決まっている。具体的にどのような購買を担当するのかが決まっていなかったようだ。決まっていないからといって、遊ばしておくわけにも行かない。で、とりあえず資料をあてがっておいて、時間稼ぎをして、その間、何を担当してもらうか考えているわけだ。
 
 
 実は新入社員を迎える現場の人間の立場になれば、手間がかかって決してありがたくない。来てもらってすぐ実戦できる人ならば大歓迎だが。小生もK電気で同じ経験をした。
 まだ景気が良かったころ、毎年新卒の新入生が入社してきた。資材部に配属予定の新入りが来る。課長が新入りを小生のところに連れてくる。「雫石くん、今度資材部に来る××くんや。めんどうみたってや」
 新入社員が来ることは知っていた。しかし彼らのめんどうを見るようにいわれるのは当日なのだ。今年は他の部員がめんどうみればいいのにと思っていたが、小生が当たってしまった。
「なにしてもらお」
 隣でチンと座っている大阪府立Y工業高校出身の新入りくんを横目に、小生は考える。工業高校を卒業したばかりの子に何さしたらええやろ。何ができるんやろ。何ができひんねやろ。もちろんそんな子に本番の仕事を任せられない。適当な仕事をやらす。小生は自分の仕事にかかる。しばらくすると「あのう、雫石さん、終わりましたけど」こういう子はまだまし。
 ふと横を見ると新入りくんがボーとしている。「なにしとんねん」「あの、もうやることないんですけど」「だったら早くいえ、きみがボーとしている時間も会社は金をはろとんやで。会社での時間はタダちゃうで」
 こんなエラソーなことをいうが、正直、この時は小生は困っている。何をしてもらうか考えなあかん。で、手を止めて、彼に簡単な仕事を教えて、やってもらう。すぐ終わる。また小生の手が止まる。新入生のめんどうを見ていると、自分の仕事の能率は大幅に落ちる。困ったもんだ。こんなことを何年もやっていて、考えた。資材部に配属される新入生にぴったりの仕事がある。
 残品整理である。一つのオーダーが終わると、そのオーダーで使用しなかった電子部品が工作から資材に返却されてくる。最初の設計どおりにモノを作ると残品はゼロのはず。ところが製作途中で設計変更になるときもあるし、様々な理由で残品が出る。工作は箱にガサッと詰め込んで、ドサッと資材に持ち込む。この中には次のオーダーに使える部品がたくさんある。これの整理を新入生にやってもらう。
 半導体、コンデンサー、抵抗、コネクター、スイッチ、コイル、リレー、機構部品など種類ごとに分類して整理してもらう。新入生には、現物、整理用の箱、電子部品のカタログを渡しておく。彼らはカタログを見ながら、部品一つ一つを、それが何かを判断して、分類していく。未整理の残品は山ほどある。資材部の人間が手があいたら整理しようと思って、倉庫の奥に積み上げてある。新入生の仕事はいくらでもある。「これなんだか判りません」と聞きに来るが「きみが判断して分類してくれ」といって簡単には教えない。彼は頭を悩ませながら、カタログ首っ引きで仕事をする。
 こうすると、小生の手を取られる事はない。もちろん、一日の最後は、小生が新入生の仕事を点検して、分類間違いがないかチェックする。さらに、使えるもの、使えないものを判断して、使えないものは産業廃棄物とする。だから、日中は手を取られないが、残業時間が通常よりも多い。
 このことは新入生にとって非常に良い勉強になっている。資材部員にとって必須科目は部品をおぼえること。電子部品の特性、性能、装置のどのユニットに使われるか、などはベテランになってからおぼえればいい。まず、その部品が何で、どの部品と仲間か、そしてその部品の型名。これを早急におぼえなければならない。最低限、これができないと資材の仕事はできない。そのためには、この残品整理という仕事は大変に良い勉強になる。実物を手で触りながら、カタログを見る。電子部品をおぼえるのに最適の仕事ではないだろうか。
 小生もK電気に入社した時は、そうして仕事をおぼえた。麻雀で盲牌というワザがある。目で見なくても指で触っただけで、その牌が何かを判るワザ。小生は盲コネクターができる。K電気で最もよく使っていたコネクターはヒロセというメーカーのコネクターだった。そのヒロセのサミコンなら、目をつぶって手で握っただけで型名がわかる。形状でオスかメスか判る。大きさでピン数が判る。ヒロセのコネクターの型名の命名の法則を知っていれば判る。

 今回は少し寄り道をしてしまった。しかし、今、求職活動中の方々も、いずれ再就職を果たされるわけで、そうなると「新入社員」という立場になられるわけで、そうなった時に参考に少しでもなれば幸いだ。
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