大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・アーケード・1《具足駆けと具足祝い》

2018-02-25 13:59:19 | 小説

・1
《具足駆けと具足祝い》

 

 相賀市は関東平野の要衝の地にあって清々しいほどに空が広い。

 その広い空の下に相賀城址があって、相賀市はその南西方向にナスビの形に広がっている。

 ナスビのヘタが相賀城であり、ナスビの真ん中を東西に白虎通りが走っており、白虎通りは西端の白虎駅手前で茶杓の先ほどに湾曲していて、その300メートルほどの茶杓の先が明治のころから商店街になっている。県下でも早くからアーケードが設置されてきたので、本名の『白虎通り商店街』よりも通り名である『アーケード』の方で知られている。

 そのアーケードをガチャガチャと赤具足の鎧武者が駆け抜けていく。

 南蛮胴の正面と六十二間の筋兜の前立てには六文銭があり、流行りの真田信繁にちなんだものであることが分かる。
 相賀の住人は具足の音には敏感である。準備中のアーケードの住人が箒や商品を手にしたまま東に向かう鎧武者に注目した。

「あ!」と、靴屋のふーちゃんが。
「おお!」と肉屋のりょうちゃんが。
「まあ!」と喫茶店のめいちゃんが。
「いよいよね!」と家具屋のみーちゃんが。
「やったねー!」と花屋のあやちゃんが。
「よし!」と西慶寺のはなちゃんが。

 そして開店準備に忙しい他のアーケードの人たちも、通勤途上でアーケードを行く人たちも驚きの表情で鎧武者を見送った。

 鎧武者は相賀城址の大手門を潜り、小さな桝形で横に曲がり、満開の桜の下三か所の石段を駆けあがると本丸広場にたどり着いた。早くから来ていた観光客は時ならぬ鎧武者の闖入を喜び例外なくスマホやデジカメを向ける。
 広い空を眉庇(まびさし)上げて一瞥をくれると天守に一礼し「エイオー、エイオー」の掛け声を高らかに発して元の道を戻っていく。

 アーケードに戻ると、あいかわらず人々の祝福を受けたが、鎧武者は規則正しい具足の響きと「エイオー、エイオー」の掛け声だけで応え、息も乱さずにアーケード西の外れの鎧屋の中に入っていった。

「すぐに解け」

 鎧屋の主人岩見甲太郎は、鎧武者と互いに一礼すると、ただちに、弟子のきららに手伝わせ鎧武者の赤具足を解きにかかった。

「たまら~ん!」

 鎧武者は具足を解くと、ただの高校生岩見甲に戻ってひっくり返った。
「こざね、兄ちゃんにコーラくれ!」
 甲は、店の三和土(たたき)に立っている妹に声を掛けた。
「やだ、これから入学式の手伝いだもん」
 こざねは、そう言うと制服のスカートを翻して出て行ってしまった。今日は4月の1日なのだ。
「やれやれ……」
 甲は、自分で冷蔵庫を目指そうとした。

「こうちゃん、まだ検分が終わってないから」
 きららが真面目な顔でたしなめる。

「甲、発手(ほって)はきつくなかったか?」
 甲太郎が胴の発手(下の縁)を見ながら尋ねた。
「あ、胸のところがゆるぎになってるから思ったほどじゃなかったです」
 姿勢を正して甲は答えた。
「肩上(わたがみ)にも緩みはないな……きららくん、錣(しころ)にも異常はありませんか?」
「はい、仕上げ寸法のままです」
「よし、では仮裏を外して陰干しにしよう。甲、もういいぞ」
「助かった!」

 脚を崩すやいなや、甲は冷蔵庫からコーラを取り出し、風呂場に駆け込んだ。

「2本も飲んじゃ毒ですよ!」

 シャワーを浴びて二本目のコーラを掴んだところできららに声を掛けられた。
「あ、ついね……」
 エヘヘと笑って麦茶のボトルと持ちかえる。
「でも、きららさん、飾り鎧に正式の検分しなきゃならないのかなあ」
「それが先生です。手は抜かれません。それに、こうちゃんの具足祝いも兼てるんだから」
 マジ顔できららが返してくる。こういうときのきららは融通が利かないので、甲は麦茶に持ちかえた。

「こうちゃん、めいちゃんが来てるわよ!」
 母が玄関の方から呼ばわった。

「あ、うん……」
 麦茶を一気飲みして玄関に向かった。喫茶ロンドンの娘の百地芽衣がニコニコ顔で立っている。
「おう、告白にでも来たか?」
「バカ、真面目な用事」
「ひょっとして、みんなでお花見とか?」
「ああ、それもありだね! じゃなくって、えとね、さっきこうちゃん具足駆けしてたじゃん」
「ああ、新造した鎧のテスト兼てだけど」
「ううん、立派なもんだったよ。でさ、みんなで具足祝いしようって話がまとまって」
「え、大げさな!」
「あさって、うちの店休みだから、十二時からうちで。OKだよね?」
「あ、ああ」

 まあ、なんでもネタにして騒ごうというアーケード仲間の魂胆なのだろうと鎧屋の甲は承知した。

 

 

 

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高校ライトノベル・通学道中膝栗毛・4『中ルートは香りの商店街』

2018-02-25 07:03:57 | 小説3

高校ライトノベル
通学道中膝栗毛・4『中ルートは香りの商店街』
        



 もう一つは中ルート。

 商店街のアーケードを通って行く。

 夏と冬は、もっぱら中ルートになる。
 暑さ寒さをしのげるのが理由の一つ。

 第一回でも言ったけど、都立希望ヶ丘青春高校に制服は無いけど、制服廃止前のセーラー服が女子の定番。
 セーラー服の冬の寒さは着てみないと分からないよ。
 裾が短い上にパカパカで、襟もとも大きく開いている。スースー空気が抜けて行って体温を奪ってしまう。
 女子の中には、セーラーの下にモコモコのセーターとか着る子がいるけど、あたしたちはしない。

 外見的に崩すことは絶対しない。

 フェリスとか女学館とか、セーラー服の名門校は、けして崩した着こなしはしないでしょ。ま、学校の指導が厳しいってことがあるんだろうけど、生徒自身に誇りがあるんだ。

 鈴夏と相談して、ネット通販でハーフコートを買った。昭和の女学校風で、とっても清楚。足許は黒のローファーとハイソで引き締め、首にはタータンチェックのマフラーを装着。装着なんだよね、間違っても毛糸のモワモワマフラーをグルグル巻きにして首の後ろで結ぶなんてことはしない。もう、なんちゅうか、学習院も顔負けって感じ。

 で、この格好で二人そろって商店街を駅に向かう。

 商店街を抜ける理由の二つ目は香りなんだ。

 朝の商店街は営業前。

 たいがいのお店は閉まっているけど、食べ物関係のお店は開店準備にいそしんでいるのだ。

 お惣菜のお店や蕎麦屋さんからはお出汁のいい匂い。魚屋さんは焼き魚、豆腐屋さんは油揚げを揚げる香ばしさ、ケーキ屋さんは甘いクリームの、もう開店しているパン屋さんは食欲そそる焼き立てパン、喫茶店からは挽きたてコーヒー、お寿司屋さんからは酢飯と、もう香りのバザールって感じ。

 帰りに通ると、これに天ぷら屋さんと肉屋さんの揚げ物の匂いが加わる。
 天ぷら屋さんは二種類で、練り物の天ぷらと普通の天ぷらとでは匂いが違う。あたしは、ごま油の天ぷらの匂いが好きだ。
 お父さんが、大阪には紅しょうがの天ぷらがあると言っていた。
「えー、それは信じらんない!」
 鈴夏は眉を顰めるけど、チャンスがあったら食べてみたい。あたしはショウガ大好き少女なのだ。
 これが最高というか、我が町の商店街のグレードを上げている匂いが、駅寄りの出口の方でする。

 花屋さんとお茶屋さん。

 食べ物の匂いもいいんだけど、お花やお茶の香りというのは心を気高くしてくれる。
「んー、分からなくもないけど、気高いかなあ?」
 鈴夏の感覚は、ほとんどいっしょなんだけど、こういうところにズレがある。
 まあ、神社のコマ犬みたいにそっくりじゃなくて、微妙に違いがある方が高校生らしくていいと思う。

 今日の帰り道は中ルート。

 お肉屋さんで揚げたてコロッケを一つづつ買う。一個60円なり。
 お屋敷街の100円自販機も安いんだけど、この60円にはかなわない。
 どうしてお肉屋さんのコロッケっておいしんだろ? 家で揚げてもこの味には絶対ならない。

 洋品屋さんのショ-ウインドウに二人の姿が写る。

 完全装備の女子高生二人がハフハフと歩きコロッケ。昔の女学校では禁止だったんだろうけど、こういう外し方はイケてると思う。

 歩きスマホよりもよっぽどいいな。そうは思いませんか?
 

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高校ライトノベル・新 時かける少女・7〈ナンヤティンナイサ部〉

2018-02-25 06:56:55 | 時かける少女

新 かける少女・7
〈ナンヤティンナイサ部〉
 



 エリーとナンヤティンナイサ部を作った。

 ナンヤティンナイサというのは沖縄の方言で「なんでもできる」という意味で、要はなんでもアリってな意味。
 大方は放課後ぶらぶら好きなことをやってるわけで、帰宅部にニュアンスは似ているけど、アクティブという点で違いがある。

 大概は、下校途中ファストフードの店なんかで、ダベッているだけなんだけど、なにかに引っかかったり面白いと思ったら実行に移すところが帰宅部とは違う。

 最初は、ソーキそばが、なぜソーキというかから始まった。フィシーズメーカーのエリーが大盛りの二杯目にかかったときに「なんで、ソーキって言うの?」というあたしの質問から始まった。エリ-は説明できなかった。本土で言えば「ラーメンを、なぜラーメンと呼ぶのか?」の質問と同じで、当たり前すぎて分からない。

「ソーキっていうのは、梳きのなまりなんだわ。ブタのアバラ使って出汁とるでしょ。そのアバラが櫛に似てるんで、櫛で梳くの梳きが、ね、なまったのよ」
 と、店のオバアチャンが教えてくれた。
「オバアチャンのお店のソーキそばって、沖縄で一番美味しいわね!」
 そう言うと、オバアチャンは正確、かつ正直に教えてくれた。
「うちより、まーさいびーん(おいしい)ところはあるよ」
 で、オバアチャンに教えてもらった、那覇中のお店を回った。那覇以外のお店もあったけど、高校生の行動半径で行けるところで絞った。

「いろいろあるのは分かったけど、あたしの主観では、あのオバアチャンのお店だな」

 と、意見の一致を見てから、俄然アクティブさが増してきた。

 琉球新報と沖縄タイムスは沖縄の新聞の90%以上を占めており、本土の新聞と大きな隔たりがあることを知ると、その「なぜ?」を調べる。

 で、分かったのは、簡単な法則。

 沖縄で、全国紙をとると、朝刊が読めるのが夕方になってしまい、新聞としての意味がないから。

「な~るほど」

 と、思ったけど、全国紙(ちなみに、あたしんちはS新聞だった)に比べると、内容や数字がかなり違う。基地問題や、デモの記事が多く、デモなんかの参加人数は全国誌と大きな開きがあった。
 新聞に凝っている間は、学校の図書館に通い詰めた。ネットで、沖縄の新聞と全国紙の比較をやった。その姿が、とても勤勉そうに見えたので、社会科の先生が「新聞部を作ろう!」と言い出したのには閉口した。
 エリーは、沖縄の新聞の特殊性は知っていたようで、あまり驚かない。でも全国紙でもAとS新聞などに大きな開きがあることには、びっくりして喜んでいた。
「一度、電車に乗ってプロ野球がみてみたい」
 本土には当たり前にある鉄道も球団も無いことに気づくのに少し時間がかかった。こういう?の間を面白いと感じられるのは、ひとえにエリーの人柄の良さだろう。

 名護市長選では移設容認派の市長が当選したが。石垣市の市長選と県知事選挙が控えている。
「これって、一つにはオスプレイの安全性の問題なんだよね」
 と、あたしが言うと、エリーは、ソーキそばのノリで、こう言った。

「じゃあ、一発乗って確かめてみるか!」

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