大橋むつおのブログ

思いつくままに、日々の思いを。出来た作品のテスト配信などをやっています。

高校ライトノベル・少人数戯曲『クララ……ハイジを待ちながら』

2017-03-14 16:28:49 | 戯曲

クララ
ハイジを待ちながら
    

大橋むつお


この作品は、小規模演劇部用に書いたわたしの戯曲です。小規模演劇部用に向いていると思います。長いのでプリントアウトしてお読みください


もし、上演される場合は、全国高校演劇協議会の規定に従って、作品の最後に書かれているわたしの連絡先まで、ご連絡いただき上演許可をとってくださいますようお願いいたします。



時   ある日所 クララの部屋
人物  
 クララ(ゼーゼマンの一人娘)     
 シャルロッテ(新入りのメイド)     
 ロッテンマイヤー(声のみ)


ヨーデル明るく流れる中、幕が上がる。中央にクララの椅子。
 あとの道具は全て無対象。
 クララがヨーデルに合わせ鼻歌を口ずさみながら取り散らかした衣装を片づけている。
 やがてつけっぱなしにしていたパソコンのモニターの大画面(客席)に気づく。



クララ: あ、つけっぱなし(スイッチをきろうとして)
 あ、そっちもつけてたのね。
 やだ、わたしってこんなに散らかしっぱなしで……え、アナタも似たようなものなの? 
 カメラ回してよ……ほんとだ、似たもの同士ね。もう一ヶ月……え、三週間? 
 まだそんなものかなあ……「ニコプンサイト」で知り合って、チャット始めて、すぐにボイチャ。
 カメラ付けたのは三日前……かな?(この間、ノックの音が数回するが、クララは気づかない)


このとき下手からメイドのシャルロッテがやってくる。


シャルロッテ: 失礼します。お嬢様……お手伝いしましょうか?
クララ: あ、いいのよ、いつもこうなんだから。
シャルロッテ: でも……あ、チャットやってらしたんですか?
クララ: あ、ナイショ、ナイショ!
シャルロッテ: あ、はい。はいです……フフフ。
クララ: フフフ……ま、見られたんじゃ、しようがないか。
 あ、この子、先週うちにやってきたばかりのシャルちゃん。
 メイドのコスがうらやましいほど初々しいでしょ!
シャルロッテ: (モニターに)わたし、先週からここでお世話になっている新入りのメイドです。
 お嬢様はシャルって縮めておっしゃいますけど。いちおう、そういうことでご承知おきください。
クララ: ほんとはシャルロッテさん。
シャルロッテ: あ……
クララ: で、シャルちゃん。わたし、ちゃんと人には敬称つけるんだから。
 よくお笑いタレントさんたちのことを呼び捨てにする人いるけど、わたしはキライ。
 人を粗末にすることは自分も粗末にすることなんですもんね。クララの生活信条!
シャルロッテ: あ、あの、お嬢様、チャットでリアルネームは……。
クララ: わたし、きちんとしたいの。むろん相手によりけりよ。
 この人は信じていい人。だから、リアルネーム。
 でもむろんファミリーネームは非公開。住所とかもね、わたし個人の信条でやってることだから。
シャルロッテ: この方のハンドルネームは?
クララ: アナタ。
シャルロッテ: アナタ?
クララ: 穴ぼこの穴に田んぼの田。
シャルロッテ: アハハ、おもしろいハンドルネームですね。
クララ: ウソウソ、普通の三人称のアナタ。わたしがそう決めたの。
 ほんとは別のハンドルネーム使ってらしたんだけど。わたしが、そう提案したの。
 もうもとのハンドルネーム忘れちゃった……いのよ。今さら言ってもらわなくても。
 もし、いつかリアルネーム教えてもらえたら、そのときはね。
ロッテンマイヤー:(声) シャルロッテ、お嬢様のおじゃまをしてはいけません。
シャルロッテ: はい、ロッテン……。
ロッテンマイヤー: どうかしたの?
シャルロッテ: いいえ、すぐにまいります。
ロッテンマイヤー: そうしてちょうだい。
 今夜は旦那様がお客様をお連れになってこられるます。
 ゼーゼマン家として恥ずかしくない、準備をしなくてはいけないんですからね。
二人: あ……!
ロッテンマイヤー: ゼーゼマン家は、由緒正しい……なにかございまして、お嬢様?
クララ: ううん、なんでも(シャルロッテをインタホンから遠ざけて)
 チャイルドロック外して、チャットやってんのはロッテンマイヤーさんにはナイショだからね。
シャルロッテ: はい、承知しました。
クララ: あの人に知られたら、お父様には百倍くらいに誇張して言いつけられちゃう。
シャルロッテ: はい、お嬢様。
ロッテンマイヤー: シャルロッテ!
シャルロッテ: はい。今まいります! じゃ、お嬢様。
 わたしで役に立つことがありましたら、いつでもどうぞ(モニターに)
 アナタ様も、お嬢様のことどうぞよろしく。
 で、さっきのおばさんの声は聞こえなかったってことで……(下手に去る)
クララ: 聞こえちゃった……でしょうね。
 聞いちゃったもの仕方ないわよね……そう、わたしはクララ・ゼーゼマンよ……。
 え、知らない!?(ズッコケる) あなた、『アルプスの少女ハイジ』知らないの? 
 ハイジは知ってるけど、クララは知らない……って?
 ほら、ハイジがフランクフルトの街でゼーゼマンて、わたしんち。
 そこにわたしの話し相手にって連れてこられて……そうそう。
 ハイジが夢遊病になったり、ペーターのお祖母さんに白いパンを持って行こうとして叱られたり。
 わたしが『七匹の子ヤギ』の話で、ハイジを慰めたり……。
 そう、ハイジにアルムの山に連れて行ってもらって、歩けるようになった……。
 なんだ、知ってるんじゃないの。え……でも、その子がクララだってことは忘れてた? 
 ううん、いいのよ、わたしって脇役だものね……。
 でもね、あなたも引きこもってるんなら、もうちょっと勉強したほうがいいわよ。
 だって、時間は腐るほどあるけど、人生の長さってさ。
 引きこもっていようが、ハイジみたいに飛び回っていようが変わりはないんだからさ。
 本くらい読みなさいよ。図書館くらいいけるでしょ……。
 え、コンビニには行くけど図書館なんか行ったことない……。
 図書館って税金で出来てるんだから、行って少しは取り戻さなきゃ損よ……税金なんて払ってない? 
 そんなことないわよ。あなたが使ってるパソコンだとかネットの使用料。
 スマホとかパケットとか、それこそ着てる服とか、吸ってる空気にだって税金かかってるんだから……。
 ごめん、責めてるつもりじゃないのよ。わたしって銀行員の娘だから、そういうとこシビアなの。
 (本をとりにいく)ほら、これなんかいいわよ『西の魔女が死んだ』
 わたしたちと同じ引きこもりの子の本なんだけど、とても……なんてのかなぁ、ファンタジーなの。
 最後なんか泣けちゃって、ジーンときちゃって……だめだめ、中味は自分で読みなさい。
 検索しなさいよ、どこの図書館にもあるわよ(かすかに電話の鳴る音)
 あ、それから、赤川次郎。これもいいわよ。ちょっとブルーな時でも軽く読めちゃって元気でるから。
 『三毛猫ホームズシリーズ』とか『三姉妹探偵団シリーズ』とか。
 古いとこじゃ、『探偵物語』『セーラー服と機関銃』とかおすすめよ。
 『杉原爽香シリーズ』なんかもいいわよ。年に一回でるんだけど、主人公が毎年歳をとっていくの。
 爽香が十五歳で始まって、今は四十前後……え、電話? 
 ハハハ……あれ鳴りやまないの。ちょっとね……それからね……(本を探す)えーと……これこれ。
 谷崎潤一郎、ちょっとハマっちゃったけど、出てくる女の人みんなマゾなんだもんね。
 たまに行った学校で「好き」って言ったら、みんなにどん引きされちゃった。
 え、アナタも知らない……じゃあ、これなんかどう『魔女の宅急便』 
 ううん、アニメじゃないの、原作よ原作。角野栄子さんの本でね、全六巻あるの。
 キキが結婚して子供たちが、旅立つまで、二十四年もかかってんの。
 なんか、爽香シリーズに似てるでしょ。もっとすごいの、エド・マクベインの八十七分署シリーズ。
 五十年も続いたのよ……う~ん、イマイチ……じゃあ『ワンピース』のお話でも……。
ロッテンマイヤー: お嬢様ですね、このいたずらは!?
クララ: さすが、ロッテンマイヤーさん。もう気がついた!?
ロッテンマイヤー: 二回もひっかかりませんよ!
クララ: え、わたしって、もうやっちゃってたっけ?
ロッテンマイヤー: ええ、三ヶ月と三日前。
クララ よく覚えてたわね?
ロッテンマイヤー: ええ、わたしの誕生日でしたから。
クララ: ああ、五十歳の……。
ロッテンマイヤー: いいえ四十九歳でございます!
クララ: 同じようなもんじゃない。
ロッテンマイヤー: いいえ、ものごとは正確に記憶しなければなりません。
クララ: はいはい。
ロッテンマイヤー: 「はい」のお返事は一回でけっこうでございます。
クララ: は~い。
ロッテンマイヤー: お嬢様!
クララ: はい!
ロッテンマイヤー: あ、そうそう、今の電話、お父様からでございました。
クララ: え、お父様!?
ロッテンマイヤー: お客様がおいでになる。
 けれど、ハイジや、お友達が来られたら、遠慮せずに遊びにいきなさい。
 そうおっしゃっておいででした。
クララ: はい。
ロッテンマイヤー: わたしも、そう望んでおりますので、では。
クララ: はい……はい(モニターに向かって)……。
 え、今のいたずらアナタも覚えてた?わたし、話したんだっけ?


シャルロッテが吹きだしながらやってくる。


シャルロッテ: お嬢様、今の最高でしたよ。
クララ: シャルロッテ、あなた見てたの?
シャルロッテ: ええ、おっかしくって。ここまで来るのに、笑いこらえるの必死で。
クララ: でも二度目じゃね、インパクトないわよ。
シャルロッテ: いいえ、ロッテンマイヤーさん、三十秒はオロオロなさってましたわ。
クララ: え、すぐに気づいたんじゃないの?
シャルロッテ: いいえ、受話器たたいたり、電話線ひっぱったり。
 わたしはなんのことやら……でも受話器のポッチのとこにセロテープ貼ったり。
 よく考えつきましたわね。あれじゃ、いくら受話器とっても鳴りやみませんものね。
クララ: ハハ、そうなんだ。シャルロッテ、今度はもっとすごいこと考えてんのよ。
シャルロッテ: どんなことなんですか?
クララ: 新案特許よ。トイレの便座の一番下のとこにね、ラップを張っておくの。
 わかる?トイレで用を足そうとして一番上のフタを上げるでしょ。
 そして座って、なにをね、しようとしたら……。
シャルロッテ: まあ、それって……
クララ: シャルちゃんが最初にひっかかったら、かわいそうだから言っとくね。 
 あ、まだ実行するってとこまでは思い切ってないから。
 (モニターに)アナタも、そう思う「やりすぎ」だって……。
 う~ん……わたしの心の中にも、そう、心理的にね「いたずら倫理規定」ってのがあってね。
 今、審理中なのよね、ただ単なるドッキリの追求でもだめだしね。
 そこには審美的な要素もね、だから審理中……。
シャルロッテ: ウフフ……。
クララ: え、なにかおかしい?
シャルロッテ: だって、心理と審理と審美をかけたシャレでございましょう?
クララ: アハハ、あのね……。
シャルロッテ: わたし、もう行かなくっちゃ。
 ロッテンマイヤーさんに叱られます。おトイレ入るときには気をつけますね(去る)
クララ: ああいう子なの。フィーリングはいいんだけど、わたしのことソンケーしすぎ。
 偶然にゴロが合っても、わたしのウィットだと思ってくれちゃうの。
 あ、こないだのアナタのホメゴロシ、ちょっとムズイよ……え、相手には通じた?
 そりゃ、相手は専門のローリング族だもん「さすがはセダン。ゆっくり走ってもサマになる」
 通じて大爆笑でしょうけど、車のこと知らないと、ちょっとね……。
 なによ、ちょっと顔がたそがれてるわよ……え、「なんでもない」フフ……。
 こんなことばっかやってる自分が、ちょっと虚しくなってきたんでしょ。
 だめだよ。引きこもっててもハートのサスペンションは、ちゃんとチューンしとかなきゃ。
 いつかは、外へ出なくっちゃいけないんだから……そうね、今日はわたしがお話する番だったわね。
 (パソコンを操作する。ホリゾントに映像が出るといい)これがアルムのオンジのお家。
 後ろにあるのがモミの木。そう、「アルムのモミの木」よ。
 ここでわたし歩けるようになったの……すてきなわたしの思いで……いいえ、曲がり角。
 ジャンプ台……わたし、自分が歩けるようになるなんて思いもしなかった、ほんとよ。
 自分の足で立てることさえ夢だと思っていた……そう、みんなハイジのおかげよ。
 そこまではアナタも普通の人でも知ってるでしょ……。
 え……ハハハ、そんな学校の読書感想文みたいなこと言わないでよ。
 ハイジを育てたのはスイスアルプスの豊かな自然だった。
 その自然とそこに育つ心こそがクララを立たせ、歩かせた!
 そりゃそのとおりだけどね。あなたの国の憲法の前文みたいなものよそれって。
 平和を愛する諸国民の公正と真義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した……。
 で、国際社会に名誉ある地位を占めたい。アナタも覚えてんだここ……。
 え、ハハハ……停学になったとき課題で十回も書かされた。で、覚えちゃったんだ。
 なんで停学になったの……え、先生に「こんにちは」って挨拶しただけ……。
 なんで……側にいた友だちがタバコ喫ってた……それで、ソバテイ? おソバの定食? 
 おソバと五目ご飯がいっしょになってるような……え……同席規定……。
 タバコ喫ってる友だちの側にいただけで停学に。そうなんだ……。
 「喫うな、喫わすな、喫ったら離れろ」……なんだか火の用心の標語みたいね。
 あ、あのね、アルプスの自然は豊かじゃないの。ゆうたかないけど……わかる、これ? 
 あ、笑った! おやじギャグなんかじゃないのよ、韻を踏んだのよ韻を……。
 あのね、同じ音を重ねることによって、言葉や、文章にリズムが出てくるって、格調高い表現なのよ。
 さっきの偶然のゴロ合わせのほうがおもしろい? ええと、なんだっけ……。
 そうそう、アルプスの自然はゆうたかないけど、豊かじゃないの。
 つまり食えない国だったのよ……その「くえない」じゃないわよ。
 スイスって、したたかでくえない国だけど、それは食えない国だったから……。
 つまりね、昔は貧しくって食べていけない国だったの。そう文字通りよ。
 だから昔から男が体を売って……って、へんな想像しないでよね……。
 そう、一種の出稼ぎ。土木作業なんかじゃないわよ。傭兵よ、傭兵。外国に雇われて、兵隊になること。
 アナタの国にもいるでしょ、外国から来た人が介護士やら、看護師やってんの。あれの兵隊版。
 そう、かっこよく言えば外人部隊。時によっちゃスイス人同士が敵味方に分かれて戦うこともあったの。
 フランス革命にバスティーユ牢獄が襲撃されたとき、バスティーユを守っていたのもスイス人の傭兵たち。 え、世界史の授業みたい? 
 がまんして聞きなさい。この傭兵制度は千八百七十四年の憲法改正で、禁止されたんだけどね。
 あ、バチカンだけは例外。バカチンじゃないわよバチカン。
 ローマ法王がいらっしゃる世界最小の国。
 サンピエトロ大聖堂ってのがあって。
 今でもここの兵隊さんだけ、例外的にスイス人のオニイサンがやってるんだけどね。
 まあ、それだけスイス人傭兵って信用があったのね。
 で、ハイジんとこのオンジがね若い頃やってたらしいの。オンジって分かるわよね。ハイジのおじいさん。 へんくつモノで通ってたけど、オンジには、そういう背景があるのよ。
 でも、その心の奥には責任感と、人と自然に対する豊かな愛情があるの。
 ハイジにはそのオンジの血が流れてる……その心に支えられて、このクララは立って歩けるようになった。 ちょっとお茶を入れるわね……スイスの紅茶って、正直いってまずいわ……。
 ウェー(まずそうに舌を出す)……でもね、アルムの紅茶は別よ。なぜだか解る? 
 ミルクティーだからよ。アルムのヤギさんのミルクが入るとね……ガゼン別物になっちゃう。
 あまりの美味しさにうなっ茶う……ウウウ(幸せそうに、うなる)……分かる、今の?
 ……うなる前 よ。「なっちゃう」と「うなっちゃう」……そう、今のが韻を踏むってこと。
 あ、また笑った。アナタって、いつから引きこもってるの……ちがうよ、それは聞いたわよ。
 外に出なくなるのは結果にすぎないの。実際の引きこもりは、もっと前から始まってるのよ。
 人の話が心に響かなくなったとか……うん、そう。
 ひとの声がなんだかテレビから流れてくる声みたいによそよそしく聞こえちゃったりするの。
 あなたは……そう、よくわかんないか……いいわよ、思い出したら教えて。
 わたしはね学校から行った職業体験学習……うん、介護付き老人ホームに行ったの。
 たいしたことやってないのよ、お掃除したり、食事のトレーを運んだり……。
 うん、直接介護に関わることはやらせてもらえない、見学だけ。お話はさせてもらえたわ。
 でもね、通じないのよね……「おじいちゃん、おいしい?」とか「若い頃はなにやってたんですか?」
 精いっぱいの笑顔で聞いてもね、無視する人とか……むろん認知症の人もいるから仕方ないる。
 でも「おいしいよ」って笑顔で応えてくれたおばあちゃんの目の中にわたしが映ってないの。
 ペーターのお祖母さんの時みたいには心が通じないの。
 なんだかマニュアルどおりの笑顔で「おいしいわよ」そのおばあちゃん、三分の一も食べてないの。
 ソーセージなんか、いやな顔してた。
 でも、わたしったら、もらったマニュアルどおり「おいしいですか?」って。
 バカみたい……おばあちゃんは毎年のことだから、マニュアルどおり「おいしいわよ」
 ……え、そうよ三日間。うん、三日間でどれだけのことが分かるってもんじゃないんだけどね。
 ……ハイジならもっと……ううん、なんでもない。わたし、そこで見ちゃったの。
 そのおばあちゃん、トイレの帰りにこけちゃって、骨折したの。大騒ぎだった……。
 比較的しっかりしてそうなおばあちゃんだったから、ヘルパーさんたちにも油断があったんでしょうね。
 娘さんがとんできてね、娘さんたって、もう六十を過ぎてらっしゃるんだけどね。
 その娘さんが、言うの。
 要介護三の母なんです。一見しっかりしてるように見えてるけども。統合的な行動はできないんです。
 トイレに行って、パンツをおろして、そして座って、用を足したらウォシュレットのボタンおして、
 パンツをあげて、手すりにつかまって立ち上がってとか、いちいち言わなきゃわかんないんです。
 入所のときにそう申し上げたはずです。
 穏やかにはおっしゃってたけど、目は怒ってた。
 ケアマネさんやヘルパーさんはむつかしい専門用語つかって説明してた。
 でも、言い訳してんのはわたしにも解った……。
 娘さんは、おばあちゃんを後ろから抱きしめて「お母さん、ごめんね……」って、泣いてらっしゃった。
 そして一言「安心してください。訴えたりはしませんから」
 ……施設の人たちは、その一言でほっとしたのが、イヤなくらいわたしにも分かった。
 気がついたらわたし、娘さんを追いかけて「ごめんなさい、ごめんなさい……」って謝ってた。
 わたしって関係ないんだけどね、謝らなきゃって、居ても立ってもいられなくなったの。
 そしたら所長のオッサンに……おじさまに「余計なことは言うな!」って腕をひっぱられて
 ……で、そのことを感想文にそのまんま書いたら担任の先生に書き直ししなさいって。
 ……で、わたし、頭にきちゃって……これ見て! 
 ジャ~ン「体験学習感想文最優秀賞!」 うん、うそ八百のお涙頂戴の完全フィクション。
 笑っちゃうよね。
 そこからなんだか、大人と話すのがイヤになっちゃって、友だちにも谷崎潤一郎でどん引きされちゃった。 でも、不思議ね、こうやって話してみるとやっぱ違う。スルっと手からこぼれ落ちちゃうのよね。
 ……結局はアナタと同じかな……タワリシチ・アナタ……え、タワシじゃない? 
 ロシア語で「同士」……つまり、「お友だち」って意味。
 「タワリシチ」ちょっと時代錯誤だけど教養がね……ごめんあさ~っせ。
 ギャグよ、ギャグ。窓開けるわね、空気入れ替えなくっちゃ……。
 え……いいわよ、アナタのお話聞いてからでも……え、首を吊ったこと? 
 ないない、ないよそんなこと……アナタ……やったの?
 ……失敗……でしょうね、成功してたら、わたし、幽霊とチャットやってることになるものね。
 ……え、最初は肩が痛くなるの? 首じゃなくって……上からひっぱられてちぎられるみたいに……。   で……目の前が一瞬で真っ暗に……そこで怖くなって……そうなんだ……うん、いいわよ。聞く聞く。
 ……え、あなたって演劇部だったの。ステキじゃない!
 ……そっか、居場所が無かったのね、学校とかで、友だちとかも……それで演劇部でやっと
 ……え、予選で最優秀。やったー! で、本選は……そっか、残念だったわね。
 ……あ、井上むさしさんの本をやったの……そう、あれ、いい本だもんね。
 ……お客さんの反応は……そうよかったじゃないの……で、そっか、納得いかなかったのね。
 ……合評会でそんなこと言ったの……あの、順序立てて言ってもらえる。
 ……え、「作品に血が通っていない」「行動原理、思考回路が高校生のそれとちがう」なにそれ!?
 ……で、それを合評会でぶつけたの……え、「ここは、君が演説する場所じゃない」
 そんなこと言われたの!?……え、高校演劇って審査基準がないんだ。
 信じられないわ、それなら、まったく審査員の趣味とか傾向できまっちゃうわけじゃない。
 ……それも言ったの……そう、そしたら、ネットでそんなこと書き込まれたの!? 
 ひどい目にあったのね……それはもういい……そうよね、また来年がんばればいいんだもんね。
 ……ただ……ただ、なに?……そっか、人には言えなかったのね。少しはすっきりした。
 ……そう、うれしいわ、そう言ってもらえると……ハハハ。
 ……演劇部の後、ほかのクラブに……体育会系でクリエィティブ? それは、まだナイショ? 
 いいわよ……え、自殺防止の授業。そんなのがあるんだ!?
 アナタの国の学校でも、そんなアリバイづくりの授業があるんだね……で、お決まりは「命の大切さ」
 ハハハ、ハモちゃったね。それって「平和の大切さ」と同じくらい無責任でナンセンスよね。
 だって、目の前に首くくろうとしたアナタがいるのにね。
 アハハハ……それに気づかずに「命の大切さ」笑っちゃうわよね、そして……。
 空気入れ替えるね(窓を開ける。鳥の声)あ、ピーちゃんだ! あれ、見える!? 
 時々この窓辺にもやってくるのよ。鳥のことはよくわかんないけど多分インコ……。
 おいでピーちゃん、こっちだよこっち。ほら、エサあげるから、ピーちゃん!
 ……あ、行っちゃった。
 ……アルムのハイジのとこじゃ、牧場で、手をのばすだけで小鳥がやってきたものよ。
 ……うん、分かってるわ。あのピーちゃんは「あなたのほうこそ外に出てらっしゃい」って言ってるの。
 わたし、ハイジとアルムの自然のおかげで、こうやって歩けるようになった。
 ほら、もうスキップだってできるわ。去年の体育祭じゃリレーだって出たのよ。
 フフ、信じられないでしょ。
 人をを抜くことは、さすがにできなかったけど、順位をおとすようなことはなかったわ。
 持久走だって。ランナーズハイてのも体験したわ。
 ……あれって、走り始めて三十分くらいたたないとやってこないのよね。
 最初の三十分までは「なんで……」ってくらいきついんだ。
 それ過ぎると、どこまでも、いつまでも走っていけそうな爽快感!
 ……そのくらいに、このクララは回復したの……人生も同じよね、ランナーズハイがある。
 アルムから帰って、三年くらいはそうだった……。
 でも気づいたの。リレーとかで走るのは、目的のゴールがはっきりしている。
 でも……でも、人生のゴールって自分で見つけなくっちゃいけないのよね。
 私たちにはそれが無いのよね……こないだね、アンがやってきたの。
 知ってる? アン・バーリー……あ、結婚する前はアン・シャーリー。
 そう『赤毛のアン』のアン。もう歳だけどね。わたし、娘さんのリラのほうが仲がいいの。
 ほら、この写真。こっちの娘さんのほうがリラ、かわいいでしょ。
 こっちのキリっとしてるおばさんがアン。長いこと学校の先生をやってたの。
 わたしもね、一時(いっとき)学校の先生になろうって思ったことがあるのよ。
 ……だってステキじゃない。でしょ。
 いつまでも若い子達の弾むような感性の中で泣いたり笑ったりできるなんて、それこそ永遠の青春! 
 わたしはハイジじゃないから、アルプスの自然から、自分で立ち上がる力は、もらえたけど。
 あそこはハイジの世界。わたしのゴール、わたしの世界は自分で見つけなくっちゃ。
 アンが言ってた……「今の学校はもう学校じゃない」って。
 ……先生は、授業と会議とパソコンばかりが相手。
 子供たちの相手をしている時間はほとんどないんだって。
 子どもの相手をしないっていうか、できない先生って、先生ってよべないわ。
 アンは言ってた「わたしは、いい時代に先生ができて幸せだったって……雲が流れていくわ……。
 アルムじゃね、あの雲はハイジを待ってくれるの……この街じゃ、あの雲はわたしを待ってはくれない。
 知らん顔して、流れていくだけ……え、あのハイジのブランコはどれくらいの長さがあるかしらって?
 フフフ、わたしも考えたわ。うん、ハイジの真似をしてみたの。
 ……ハイジって、なんでも知りたがって、くちぐせは「おしえて」だったものね……。
 で、わたし、計算したの。振り子の周期から、あのブランコの長さは三十七・八メートルだって。
 で、ハイジに教えてあげたの。きっと驚くだろうって思って。
 「わー、クララってすごい!」って、言ってくれるだろうって……ハイジはなんて言ったと思う?
 ……不思議そうな顔をしてね「なんで、そんなこと計算するの?」……ハハハ。
 ……ハイジはね、ただブランコに乗ってみたかっただけなの、流れる雲の上に寝そべってみたかっただけ。 雲がハイジを待ってくれている。その感動を表したのが「おしえて」だったの。
 わたしは、その「おしえて」を勘違いしていたの。
 だから、いっそうハイジの「おしえて」がうらやましい……え……うん、大丈夫。
 なんでも聞いて……アハハ、遠慮してたの?……アナタって、デリカシーありすぎ。
 気疲れするでしょ、いつもそんなじゃ……ああ、イジメにあったことがあるかって? 
 あなたは……あ、わたしから話さなくっちゃいけないわよね。
 結論から言うとね。いじめられたことはないわ。ハイジに会うまでは学校にもいけなかったし。
 ウフフ、ロッテンマイヤーさんにはしょっちゅう叱られてたけどね。
 あの人はただ注意してるつもりなんだけど、口調がきついのね(かすかにクシャミ聞こえる)
 ウフフ、根はいい人よ……学校に行ってからは……うん、あんまりお友達はできなかったな。
 だれもがハイジみたいに心を開いてくれるわけじゃない。
 だれにもハイジに対するみたいに心を開けるわけじゃない。
 でも、その代わりいじめられるようなこともなかった。
 こんな言い方ダメかもしれないけど、いじめって、根本のとこでは、相手に対する興味の現れだと思うの。 ただ、興味の表し方わかんないから……ね、わたしのいたずらも同じよ。
 ロッテンマイヤーさんとかが反応してくれるからやってんの……アナタは?
 ……いいのよ、言いたくなった時に聞かせてくれたら……あ、もう雲流れていっちゃった。
 さっきヒツジさんみたいな雲があったんだけどね……あれかなあ……。
 トドみたいになっちゃってしまったけど……わたしたちの心も雲みたいね。
 あっという間に流れて変わっちゃう。
 アルムの雲だって流れるんだけどね、ハイジは、雲がハイジを待ってくれてるように思えるわけ……。
 あの感性にはまいっちゃう。なかなかあんなふうにはね……。
 フフ、おちこんでなんかいないわよ。ただ、「ちがうんだ」って思っただけ。
 で、わたしは、わたし自身の「おしえて」を持てばいい。そう思い直したの。
 だからこれ……この本たち。まあ、大半は図書館から借りてくるんだけどね……。
 それにしてもすごい量? う~ん……でも二千冊くらいよ。服とかも多いから。
 あんまり、お部屋の中ゴチャゴチャにしときたくないの。ゴチャゴチャは、頭の中だけで十分。
 ……アナタの部屋って、よく見るとステキじゃない……ううん、そんなことない。
 ベッドの枕のほうに机があって、パソコンとかモニターとかすぐ側なんでしょ。
 床に一見散らかってるように見えてる服も、ベッドの足下から、キャミとか下着、ブラウスにベスト。
 ……で、ドアの横の壁に上着とかキャップとか。あ、そのジャケットとると鏡なんだ。
 起きたら順番に着て、最後は鏡で確認して出かけられる。機能的じゃない! 
 あなたって、印象よりも合理的な人なんだ……あ、今なに隠したの!?
 だめ、見ちゃったんだから、ちゃんと見せなさいよ……ステキ……それってダンスかなにかの衣装?
 ……そうか、さっき言ってたの、そうなんだ! 
 言ってたじゃない、演劇部の後入ったクラブがあるって。 
 体育会系だけど、クリエイティブなクラブだって……そうなんだ、ダンス部だったんだ!
 ……え、部員がみんなやめちゃってアナタ一人に……そう、それでもがんばろうとしたんだ。
 ……先生も忙しいもんね……授業と会議とパソコンだもんね。
 ……え、IDカード……先生が首からぶらさげてる……わたしも、あれキライよ。
 なんだかスーパーとかコンビニの商品の品質表示みたいでしょ……え、バーコード? 
 ナイショだけど、ロッテンマイヤーさんの彼もバーコードよ(ロッテンマイヤーのくしゃみ)
 ……頭じゃなくって、IDカードに……え、時々産地偽装してるみたいな先生も……。
 アナタってウィットの感覚いいわよ。もっと本とか読んで感覚みがくと……。
 アハハハ、わかった、わかったって。もうお説教みたいなこと言わないからさ。
 ……え、説教じゃなくって、新興宗教の勧誘みたい? はいはい、もう言いません。
 ね、ダンスのレパートリーどんなのがあるの?……あ、それわたしも知ってる。
 ユーチューブで覚えた!  
 ね、いっしょに踊ってみようよ……すごいもう、コスチュームに着替えたの!?
 ……うん、とてもステキよ。待って、サウンド、シンクロさせるから……よし、いいわよ!


明るい曲が流れ、クララはモニターのアナタとともに踊る。
 ダンス部に入ってもらってバックダンスをやってもらってもいい。
 歌って踊り終えて、なぜか涙ぐむアナタとクララ。


クララ: ああ、おもしろかった。またやりましょうね。
 どうしたの、どうして泣いてるの?
 ……え、わたしも……ほんと変ね、こんなに楽しいのに、こんなに友だちなのに……。  
 ちょっと暑い。こっちの窓も開けるわね……。
 トドの雲もどこかにいっちゃったんでしょうね、方角から言えばこっちのほうなんだけど……あ、飛行船! わあ、あんなに低くゆっくりと……。
 シャルちゃん。ロッテンマイヤーさん。飛行船よ、飛行船! テラスから、お庭に出てみて。
 今、教会の上のあたりだから……あ、アナタには見えないわね(カメラの向きを変える)
 ……どう、見えた? ツェッペリンね……昔はもっと大きいのがあったそうよ……。
 あれの何倍も大きいのが……追いかけてみたらって……うん、いつかはね……。
 追いかけていって、きっと乗せてもらうわ。
 雲は流れて行ってカタチを変えてしまうけど、飛行船はカタチを変えないわ。
 検索したら、乗り方だってわかるし……それに、今日は大事なお友達が来るんだもん。
 ……え、なんか言った?……なんでもない……へんなの。
 飛行船、グルーっと、この街を一回りするのね。まるで、わたしのことを待ってくれているみたい……


このとき口笛が聞こえる。


クララ: あの口笛……ハイジだわ……ハイジが、ハイジが……。
 カメラもどすわね、わたし着替えなくっちゃならないから。
 だって、この服はアルムで初めて立てたときに、ハイジとお揃え。
 お父さんに買ってもらったままだもの。なにか新しい服でなくっちゃ……。
 ハイジは、昔のままよ。あの「わたしはアルプスの子です」って、全身で自己主張してるみたいな。
 ハイジは完成された子だもの……わたしは……。
ロッテンマイヤー: お嬢様。ハイジが、ハイジが来ましたよ!
クララ: わかってる、さっき口笛が聞こえたから。
ロッテンマイヤー: じゃ、お早く。
クララ: 今、服を探してんの……
ロッテンマイヤー: ハイジは忙しい子ですから、お早く!
クララ: 分かってるわ、ロッテンマイヤーさん……


シャルロッテがやってくる。


シャルロッテ: お嬢様、お手伝いいたしましょうか?
クララ: ありがとう、適当にひっぱりだして見せてくれる。
シャルロッテ: ……これなんか、いかがでしょ、シックなブルーでお嬢様にぴったりかと。
クララ: ありがとう。でも、もすこし明るいものでなくっちゃ、ハイジに負けちゃうわ。
シャルロッテ: ……じゃ、これは?
クララ: それじゃまるで郵便ポスト。
シャルロッテ: じゃ、こっち。
クララ: わたし、サンタクロースの孫じゃないのよ。
シャルロッテ: ……じゃ、思い切って、こんなのは?
クララ: いいけどナントカ48(フォーティーエイト)みたい。
 ちょっとセンスがね、わたし的じゃない。
シャルロッテ: じゃ、こっち!
クララ: もっとズレてる、それじゃおみゃんこクラブじゃないよ。
シャルロッテ: じゃ……思い切って、こんなの!
クララ: あら、ミリタリーね。   
シャルロッテ: お気に召しまして?
クララ: ……あ、それって日本の陸上自衛隊。
 専守防衛ってなんだか引きこもりのイメージ。
ロッテンマイヤー: お嬢様、ハイジ先に行きましたわよ。
シャルロッテ: お嬢様……
クララ: 大丈夫。わたしの家の前の道って一本道だから、交差点につくまでに間に合えばいい。
シャルロッテ そう、じゃ急ぎましょ!
クララ: うん!シャルロッテ ……これなんか……お嬢様……?
クララ: ……シャルちゃん、それ脱いで。
シャルロッテ: え?
クララ: わたしの新しい人生の再出発。
 一からやり直しますって気持ちでメイドのコスなんかいいと……思っちゃった!
シャルロッテ: こんなの、まるで一頃のアキバですよ。
クララ: あんなマガイモノじゃない。だって、シャルちゃんは本物のメイドなんだもの。
 わたしメイドインクララになる。お脱ぎなさい!
シャルロッテ: お嬢様……。
クララ: 脱げ!
シャルロッテ: きゃー!


クララ、シャルロッテを追いかけ回す。やがて捕まえて、シャルロッテに馬乗りになり、服をぬがせようとする。


シャルロッテ: や、やめてください。
 ……お嬢様は、お嬢様は、シャルロッテでもなく。ハイジ様でもなく。お嬢様なんですから。
 クララ・ゼーゼマンでいらっしゃるんですから……クララ……。
クララ: わたしは、わたし……クララ・ゼーゼマン……。
シャルロッテ: はい、クララ……で、いらっしゃいます。
 なにもコスチュームなんかでごまかすことなんかありません!
クララ: そう、そうよね……クララはクララのままで……。
シャルロッテ: はい、さようでございます。お嬢様はお嬢様であるままで……。
クララ: ありがとうシャルちゃん。そうなんだ、簡単なことだったんだ。
 わたしはわたしのまんまで……ありがとう、このままで、あるがままのクララでいくわね!


駆け去るクララ。ほっと胸をなで下ろすシャルロッテ。


シャルロッテ: お嬢様……


クララ、駆け戻ってくる。


シャルロッテ: お嬢様……
クララ: 髪の毛ぐらい梳(と)かしていかなくっちゃね。
 (鏡に向かい、髪を梳かす。まわりを見渡して)ごめん。後のことはお願いね。
シャルロッテ: はい、お嬢様!
クララ: じゃ、行ってくるね、シャルちゃん。
 ロッテンマイヤーさんも、バーコードの彼氏によろしく!


駆け去るクララ。しばし呆然のシャルロッテ。


ロッテンマイヤー: シャルロッテ!
シャルロッテ: 行かれましたよ、今度こそ、今度こそ……。
ロッテンマイヤー: ああやって、時間をかせいでいらっしゃるのよ。
 ハイジが交差点まで行って行方が分からなくなるまで……。
 そして「間に合わなかったわ」って戻ってきては、この繰り返し。
シャルロッテ: そんなことありません。
 さっきはセーラー服でしたけど、今度は……今度は、ご自分のまんまででかけられましたから。
 ね、そう思われるでしょアナタ様も(片づけようとする)
ロッテンマイヤー: 放っておきなさい、それくらいご自分でできるようにしていただきます!
シャルロッテ: だって(アナタにむかって)ねえ……。
ロッテンマイヤー: それに言っとくけど、わたしがお付き合いしている方はバーコードなんかじゃありません。
 あるがままに堂々と禿げていらっしゃいます。わたしがご意見申し上げてね!
シャルロッテ: プフフ……
ロッテンマイヤー: シャルロッテ!
シャルロッテ: はい!


祈るようなまなざしで、クララの椅子を見つめ、気持ちをふりきるようにして、シャルロッテ退場。
 開幕の時のヨーデル急速にフェードイン。その高まりに比例して、クララの椅子きわだつうちに幕。

【作者情報】《作者名》大橋むつお《住所》〒581-0866 大阪府八尾市東山本新町6-5-2
《電算通信》oh-kyoko@mercury.sannet.ne.jp


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高校ライトノベル・信長狂詩曲(ラプソディー)・12『不登校のスケバン』

2017-03-14 06:46:44 | ノベル2
信長狂詩曲(ラプソディー)・12
『不登校のスケバン』



 信長という姓は山陰地方に多く見られ、広島県尾道市から岡山市の間に集中してみられる。信永氏、延永氏からの転化だといわれ、けして冗談や気まぐれで付いた苗字ではない。これは、そんな苗字で生まれた信長美乃の物語である。


 ランチタイムライブ→ランチライブ→ランライブ


 この名称の短縮ぶりでも分かるように、美乃たちダンス部の本館玄関前のライブは好評だった。学校内にとどまらず、滝川とB組の明智が映像を撮って編集。それを毎回動画サイトに投稿し、アクセスは鰻登りだ。昨日などは、地元の商店街の商店会長が見学に来て「ぜひ商店街のイベントに出て欲しいと、要請があった。毎日同じメニューでは面白くないので、美乃は部長の宇子と相談して、五人のリーダーを指名し、曜日毎の責任者にした。同じクラスの森蘭は月曜のリーダーに選ばれて喜んでいた。月曜なら、土日のほとんどを練習にあてられ、他のリーダーよりも有利だから。清洲高は、こうやって表面上は落ち着くと共に、明るい学校というイメージになりつつあった。

 美乃の目は、他のところに向いていた。

 この連休頃まで、校内を仕切っていたロクデナシたちのその後だ。

 たいていの者は「支配者が信長美乃になった」と思い、美乃の好みに合わせた普通の高校生になっていた。むろん成績までは急に伸びるものではないので、授業に積極的だったり、小テストなどで良い点をとった者には声をかけるのを忘れなかった。
 ただ、この元ロクデナシたちの数は多く、とても対応しきれない。その情報を集めてくるのが、いくつものクラブを渡り歩いた末にダンス部に腰を落ち着けた木下藤子だった。
 小柄で身軽だが、ダンスはあまり上手くはない。しかし、なんとも言えない愛嬌があり、見かけによらず声が大きく機転が利くのでMCとして重宝がられている。そして諜報に長けていた。
「今日は某が、小テストで過去最高点でした。そして……」などと、情報をくれる。元ロクデナシたちのメルアドはたいていつかんであり、その都度おめでとうメールをうち、校内で見かけたら、必ず声をかける。彼ら彼女達は習慣で人間関係を力でしか評価しないので、友だち言葉ではあるが、少しだけ上から目線の態度で接する。時間をかけて、普通の付き合い方にも慣れてもらおうと思った。

 そんな中、心配な二人がいた、荒木夢羅と筒井夢理の元スケバン姉妹。

「近頃顔見ないなあ、なにか情報ない藤ちゃん?」
 美乃は、木下藤子に聞いた。藤子の顔がめずらしく曇った。
「このごろ学校に来てないの……」
「コテンパンにやっつけたせいかな……やりすぎたかな?」
「ううん、あれは必要なことだったのよ。あの二人は清洲高のワルのシンボルだったから」
「……でも気になるのよね。こんなことで引きこもるようなタマじゃないし、姉妹で苗字が違うのも気になるし」
「今は、あの二人に関わっている時期じゃないと……」
 藤子の心配が、なんとなく察せられたので、それ以上は触れなかった。

 美乃は、学校が落ち着き始めると、再び電車通学に切り替えた。なるべく沢山の生徒と接しておきたかったから。

 その日の帰り、A駅で夢羅と夢理を見かけた。ちょうど電車を降りたところなので、途中下車でつけてみることにした。

 そして、二人の意外な面を見ることになってしまった……。

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