駒子の備忘録

観劇記と乱読日記、愛蔵コミック・コラムなどなど

『20世紀号に乗って』

2024年03月29日 | 観劇記/タイトルな行
 東急シアターオーブ、2024年3月24日13時。

 世界恐慌を脱出し、人々が再び自信と活力を取り戻し始めた1930年代のアメリカ。かつてはブロードウェイの花形舞台演出家兼プロデューサーだったオスカー・ジャフィ(増田貴久)は華麗で非情、そして誇大妄想気味。現在は多額の借金を抱え、シカゴの荒れた小さな劇場で芝居を打っていた。彼は世界一と言われる豪華客室を備えた高級列車「特級二十世紀号」に乗り込み、元恋人であり、現在はハリウッドの大女優リリー・ガーランド(珠城りょう)に偶然を装って出会う計画を立てるが…
 脚本・作詞/アドルフ・グリーン、ベティ・カムデン、作曲/サイ・コールマン、原作/ベン・ヘクト、チャールズ・マッカーサー、ブルース・ミルホランド、演出・振付/クリス・ベイリー、演出補・共同振付/ベス・クランドール、翻訳・訳詞/高橋亜子、音楽監督/八幡茂。1932年に書き下ろされた戯曲で、ストプレとして上演され、34年アメリカで映画化。その後ブロードウェイにて1978年にミュージカル化、2015年リバイバル上演。全2幕。

 宝塚歌劇雪組版の感想はこちら
 よく笑った、ということしか覚えていませんでしたが(笑)、そしてきぃちゃんのところを珠城さんがやる上演と聞いて素直に「無理では!?」と思いましたが、ともあれ観たくてチケット取りはまあまあがんばったつもりです…が、玉砕に次ぐ玉砕。嘆いていたら、心優しき相互フォロワーさんがお声がけくださいまして、無事の乗車とあいなりました。
 観るのがけっこう公演後半になってしまい、漏れ聞こえてくるのが好評ばかりだったので、ちょっと期待して行ってしまったのですが…みなさん、本当に心優しいんですね。私はダメでした、主に珠城さんが…みんな、他人に目につきやすいSNSではいいことしか言わない良識人なのかもしれませんね。聞けば増田さんファンは抜群にお行儀がいいそうな…でもここは私のブログなので、私は私の感想を書きます。素晴らしかった、最高だったと思う、という方はここでUターンしてください。あ、作品そのものはおもしろかったと私も思いますよ、でもそもそも映画はヒロインが主役なんでしょう? 雪組版も今回もオスカーを主役にしていますが、リリーは立派なヒロイン、大役です。そこがこうつらくっちゃ、そら全体もつらかろう…というのが、私の所感でした。
 言い訳しますけど、ここを読んでくださってきている方はご存じかと思いますが、私は珠城さんのファンなんです。でも私は好きな人にほど点が辛くなる、そういう自覚は確かにあります。でもね、好きだから心配で、過剰に期待し求めてしまうんですよね。だって全然知らない人が観たら「なんであんな下手な人がヒロインやってんの?」って言われかねないじゃん!って思っちゃうからです。イヤ歌えない人が出ているミュージカルなんてざらにあるよ、と言う方もいるでしょうが、歌上手しか出ていないミュージカル舞台もたっくさん知っているしそれがあたりまえであるべきだと考えている私としては、そこで「だからしょうがないよね」とは言いたくないのです…
 てかどうしてこういうオファーをするんだ、あるいは受けるんだ。そもそもタカラジェンヌは、特に男役は、現役時代は歌上手と言われていても退団後は苦労する人がとても多いと思います。おそらくキーの他にもいろいろ違いがあって、チューニングが大変なのでしょう。だいもんだって未だ完璧な出来ではない気がするし、最近こそなんでもござれなきりやんだって退団直後の『マイ・フェア・レディ』とか散々でした。トウコは私が退団直後を観ていないし、みっちゃんも全然観ていないので語れませんが、みりおちゃんも未だに苦労していると思います。なのに大作ミュージカルにばっか出るんだよなあ、『王様と私』も正直めっちゃ心配しています、私。
 逆に娘役スターは、現役時代に歌の印象がそんなにない人でも、卒業して外部に出るとめっちゃ上手っ!と驚かされることが多々あります。これまたキーの問題で、要するに現役時代はものすごく高いところを無理して歌わされていたんでしょうね。そして男役は無理して低いところを歌ってきた…だから高音が弱い。ある意味、自然なことです。
 でもプロなら研鑽してしいし、歌えるようになってほしいし、そうなってから大作ミュージカルに出てほしいんですよ…それは決して望みすぎなことではないと思うんですけれど……しょぼん。

 ヒロインは、とある女優のオーディションの伴奏ピアニスト、の代理、として現れます。まず歌詞を忘れた女優のプロンプをし、次に音を外した女優を正しい音で歌って導き、さらには曲そのものをアレンジして朗々と歌い上げてしまう…それがオスカーの目にとまり、華やかな芸名が与えられて、女優への道が開ける。そういうお役じゃないですか、リリーって。
 でもこの、音を外した女優のために歌ってみせる音が、もう正しくないんだもん。珠城さんに出ない音がある、常に半音下がる音があるのなんてファンはみんな知っていて、私だって愛嬌だと思って愛してきましたが、ここで歌えないのは駄目じゃん。しかも声量がない。だから自信なさげに聞こえる。なのでこの場面の説得力が全然ない。あ、駄目じゃん…とこの時点で目を覆いたくなりましたよ、私…いや、耳を塞ぎたくなる、が正しいのか…
 ミルドレットは着込んでいたダサダサの服や帽子を脱いでいく。美しく波打つブロンドが現れ、ショートパンツだけどほぼダルマみたいに腕も脚も出た赤と青のデーハーなお衣装に
なり、舞台は劇中劇『ヴェロニク』に突入していく。そら珠城さんはスタイルが良くて美しく、真ん中力があり、華もありましたよ。でも声はやっぱり出ていない。マイク音量、もっと上げちゃったら? 音量が弱いから余計に頼りなげに聞こえて、一躍スターダムに駆け上がった女優!って説得力が全然出せてない。おまけに、腕も脚も綺麗でしたが膝が美しくなくて、私はしょんぼりしました…これはルッキズムに当たるのか? バレリーナは脚のために決して正座しないと聞くけれど、あの膝はなんなんだ、学生時代のスポーツの名残なの? 女優としてやっていくためには今後も脚を出す機会はまあまああるものだと思うんだけれど、あれはなんとかなるものなのかしら…
 あとはこれは個人的な好みもあるけれど、胸はないならもっと詰めた方がお衣装が映えるしスタイルのバランスもより良くなる、と思いました。ほとんどないんだもん、単に美しくないよ…ヘルシーでいいとか清潔感がとか色気云々の問題ではなくて、ただ胸が足りない、と私は感じたのです。
 そして…さらに続けて申し訳ございませんが、私は珠城さんの芝居もよくわかりませんでした。これも声のせいもあるのかなあ…男役として出していた低い声はむしろ無理して出していたもので、それにこっちの耳が馴染んでいるだけなのかもしれませんが、素の珠城さんの声ってまあまあヘンじゃないですか。イヤ私はそこも好きなんですけれどね、ヘンな声スキーなので(まったく褒めているように聞こえないことでしょう、ホントすんません)。でもなんかあの声で早口でつっかかるようにキンキンしゃべられると、どうもなんか変に無理しているっぽく聞こえるんですよね…
 つまりリリーって、ハリウッドの人気女優として群がるマスコミやファンに見せる顔と、プライベートになってポンコツ・ボーイフレンドのブルース(渡辺大輔。絶品!)に見せる顔と、彼すら追い出してひとりになったときに見せる本音の顔と、があるわけじゃないですか。その演じ分けが、なんか全然わからなかったんですよね。オスカーと対峙しているときなんかはリリーとしてナチュラルな部分も多くあったはずなんだけれど、珠城さんリリーのナチュラルさをあの発声からでは私は感じられなかった、というか。なのでなんか、だんだんオスカーにほだされていって…とか焼けぼっくいに火が点いて…とか本当は映画でなく舞台がやりたいしそれをわかってくれる人がいて嬉しい…とかの感情の変化や揺らぎみたいなものが、観ていて全然追えなかったんですよね。お友達のおかげで、ほぼオペラ要らずで表情まで追えるような6列目から観ていたにもかかわらず…!
 なので、「わー、全然ダメだ。みんなはこれで大丈夫なの?」と勝手にハラハラしながら全編観たんですよ…あげくオチが雪組版とちょっと違ったのでなおさらトートツに感じられて、それでも最後はむりくり大団円ハッピーウェディングなわけで、まあ早速ウェディングドレス着ちゃって珠城さんよかったねえぇ…などと見送るしかなかったのでした。
 しかしカテコで娘役お辞儀ができていないことにまたイラついてしまい…ドレス着るんだからそこも学んで! くれあ姐さんに今すぐ教わって! と思いましたよ…女優は美しくいることも仕事なのよ!?
 思えば私、『天翔ける風に』も駄目だったんですよね…どうしよう、卒業後2連敗…? あ、『8人の女たち』はちょうどいい胡散臭さだったんですけれどねえぇ……

 私がアイドルとしての姿をまったく存じ上げない、舞台で観るのもお初な増田さんは、それはもう素晴らしいミュージカル・スターでした。歌も芝居もダンスも上手い、そして大ナンバーのあとそのまま演技、とかも難なくこなす体力お化けでした。すごいなあぁ!
 オスカーの部下、オリバー(小野田龍之介)とオーエン(上川一哉)もあたりまえですが任せて安心の上手さで、安定感しかない…! ただ三人とも似たような茶系のスーツ姿だったので、宝塚歌劇ならここはブルー、グリーン、紫のスーツとかで遠目にも識別しやすいようにしたろうな、などと考えてしまいました(衣裳/前田文子)。
 プリムローズ(戸田恵子)も素晴らしいマダムっぷり、可愛らしいボケ老婦人っぷりと安定の歌唱で、これまた抜群でした。アンサンブルもみな達者で、素晴らしい座組だったかと思います。
 なので、ホントいろいろ気にしすぎて楽しめなかった自分を恨めしく思います…いいよいいよ、可愛いよがんばってるよ綺麗よー、と褒めそやしてみることが私はできなかったのです。くうぅ…ホント、私の問題だと思っています。でも私はもっと安心して、たとえ中身のないスクリューボール・コメディだろうと(オイ)もっと深いところで鑑賞したいんだー! 雪組版よりラブロマンスとして、お芝居として深い、みたいなことを語る有識者さま方の感想ツイートを見ると、そこまでとても読み取れなかった自分が不甲斐ないのでした…しょぼん。
 でも、しつこいですが未だファンのつもりではあるので、またおもしろそうな作品に出てくれればいそいそと出かけたいと思っています。とりあえずなんかもっと渋い、小さいハコでのストプレとかどうかな…向いてると思うんだけどな…
 ところでお衣装や私服のスカートはもう見慣れましたが、プログラムの稽古場写真のお稽古スカート姿にはなんかときめきました…(笑)りょうちゃん、として周りから愛されているようなら何よりです!











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