経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

日本、ノーベル経済学賞に輝く

2013年01月01日 | 経済(主なもの)
 2020年のノーベル経済学賞は、二人の日本人の頭上に輝いた。モトシゲ・イトウとススム・タカハシの両氏である。受賞理由は「デフレ脱出の経済政策の発見」によるもの。ノーベル経済学賞は、近年、人類の福祉への貢献が重く見られるようになり、今回は、日本経済の復活のみならず、世界各国に成長への方策を示した功績が高く評価された。

 二人は、2013年に経済財政諮問会議の委員に就任し、マクロ経済政策をリードして、15年にも及んだ日本のデフレ時代に終止符を打った。この2013年は、日米欧が様々なアプローチで長期不況に挑むという経済政策の実験が行われるような状況だった。そのうち、金融緩和が思うに任せず、緊縮財政を敷いた欧州が脱落し、積極的な金融緩和をしたものの、財政の「坂」が足を引っ張った米国も二番底に沈んだ。

 そうした中、日本は、日銀の一段の金融緩和に加えて、徹底した需要の監視を行い、財政当局が隠れて需要を抜くことを許さず、社会保障や地方財政のデフレ要因をテーブルに載せ、それを補う形で国の財政出動をコントロールしていった。1月の復興増税で、一時、消費が減退したものの、そのつまずきが薬となり、絶対に家計所得を減らさない方針が打ち出され、消費増と投資増の緩やかな循環を守り切った。これが功を奏して、成長を尻上がりに高めることに成功したのである。

………
 2020年代の今では、家計所得の安定が経済成長に決定的に重要であることは周知のものとなった。かつては家計より財政赤字を重大視していたが、時代遅れの思想として放擲されて久しい。これは、成長の原動力である設備投資は、消費需要を見ながらなされているという常識的な事実を、経済学の主流派がようやく認めたことによる。投資が需要に従うのは、利潤最大化の行動原理には反するが、政策の実験結果は無視できなかったのだ。

 むしろ、経済理論は、実験結果に整合的なものが考案されるようになり、需要安定がリスクを癒すことで、リスクがあるために最適水準より少なかった設備投資が回復するという解釈が確立した。リスクへの理解も深まり、リスクがあっても期待値に従って行動するはずという単純な見方は過去のものとなり、人生に限りがある人間は、残り時間で回復不能な大損を避けるため、小さな機会利益を敢えて捨てるものだという認識に至った。

 こうした行動原理は、バブル現象の解明にも応用された。目先の利益に貪欲なために、最適水準より少し多く投資する行動を取り、その需要が同様の行動を呼び集め、集まるうちは実際に利益が得られるものの、やがて集まる範囲に限界が来て崩壊に至ると考えられるようになった。ケインズの合成の誤謬における個々の振る舞い、H・サイモンの限定合理性の内実に光が当てられたのである。

 当然、政府の役割は、少な過ぎたり、多過ぎたりする投資行動が悪循環に陥らないように抗するのが仕事とされた。不況で投資率が低くなり過ぎれば、政府が社会保障を使って家計所得を維持し、好況で投資が行き過ぎれば、資産課税を強化してブレーキをかける。これが当たり前のこととなり、前時代の「財政再建を優先し、デフレでも一気の消費増税」という政策は、経緯を知らない今時の学生から、「昔の人は、なんで、そんな無謀なことをしたかったんですか」と聞かれる始末である。

………
 今から振り返ると、2013年の参議院選挙がターニングポイントだったように思える。諮問会議のアドバイスを受け、アベ政権は、選挙を前に「今の成長率なら、2014年4月の消費増税は1%アップにとどめる」と宣言した。中庸の政策は支持を集め、ノダ前首相の3%アップ方針に拘った元与党は再び敗北し、増税阻止で人気取りを狙った新興勢力は信用を得られずに終わった。

 宣言の際には、増税時に乳幼児への月額8万円の手厚い給付を実施することも約束された。これは、イトウ教授の「子育てを支援することも将来への投資」という考えに呼応し、年金制度を改革して、「若者が納めてきた保険料は、老後でなく、子育ての今、引き出せる」ことにしたものである。社会保険の枠組であるから、財政赤字は膨らまないし、自分の保険料だから、自助の一種である。老後の給付は、仕事を続けて取り戻せば良いだけだ。

 こうして日本経済がデフレを脱すると、税収は急増した。資産価格の上昇と利子課税があるために、所得税と法人税が増し、物価が下がらなくなって消費税も伸びた。法人減税は先送りになったが、企業は、収益が急増し、設備投資増で減価償却費も得られたので、満足だった。その上、地方税の回復で交付税が節約でき、失業対策費のみならず、生活保護や犯罪まで減って、歳出削減も難なくできた。

 消費増税は、2年ごとに1%アップの計画に遅れることになったが、経済の好循環が始まり、誰も財政破綻など心配しなくなった。そして、若者雇用の増大と子育て支援によって、結婚が増え、出生率が大きく上昇し、「日本は未来の希望を取り戻した」と賞賛された。人口減少はすぐには止まらなかったが、それは日本の環境技術の高さと相まって、地球と福祉を両立する人類の次のライフスタイルとまで持ち上げられている。

………
 ノーベル経済学賞の授賞式で二人は、こう語っている。「この栄誉は、日本人全体のものです。なぜなら、今回の成功は、我々が政策を示したからではなく、これを信じてくれたから、現実にできたのです。人々は、財政破綻の不安を煽る当局の脅しにも焦らず、ムダを減らせば増税は無用という甘い誘いにも乗らず、まじめに一歩ずつ進む道を選びました。経済成長は、生産性を高める日々の工夫と努力から生まれます。政策は、それをやり易くするものでしかありません。この世界をより良い場所にするため、どうすれば一人ひとりの力を最大限に引き出せるのか、経済学は、この原点へと立ち返ったのです。」

※この物語は初夢であり、実在の人物や組織とは関係ありません。初夢が一気の消費増税による日本経済の破滅でなくて良かったよ。めでたし、めでたし。

(今日の日経)
 世界の5割経済圏、沸きあがる中間層。九州に高精度レーダー。物価上昇は何が起点に。復興増税スタート。人民元上昇1%どまり。駒崎浩樹・20人未満の保育園は待ちが出る盛況。荻上チキ・いじめで小さな抵抗。人口自然減が最大の21万人、出生数は最少の103万人。

※人口減は10年前から分かっていたし、団塊ジュニアが出産適齢期を過ぎる前に打開しなければならないことも明白だった。結局、少子化対策より財政再建を優先し、若い世代の苦境を放置して、みすみすチャンスを捨ててしまった。人口減が現実になっても、「本格的な少子化対策は消費税を10%に上げてから」という方針が今の日本のリーダーの価値観を示している。「チャンスは常にある。見出すのは情意だ。」

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3 コメント

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Unknown (WATERMAN1996)
2013-01-01 13:08:24
※人口減は10年前から分かっていたし、団塊ジュニアが出産適齢期を過ぎる前に打開しなければならないことも明白だった。結局、少子化対策より財政再建を優先し、若い世代の苦境を放置して、みすみすチャンスを捨ててしまった。人口減が現実になっても、「本格的な少子化対策は消費税を10%に上げてから」という方針が今の日本のリーダーの価値観を示している。「チャンスは常にある。見出すのは情意だ。」

↑の件について。
誰一人も「大臣、あなたは本当にそう思っているのですか?それで取り返しが付かない事になる可能性について考えましたか」と問わなかったのでしょうか?
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Unknown (Unknown)
2013-01-03 21:21:09
初めて投稿します。ROM歴三年です。今日のはとても読みがいありました。長編で読みたいです。
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Unknown (Unknown)
2013-01-03 21:23:13
失礼いたしました、先ほど投稿したものですが、こちらのブログ拝見するのは初めてでした。ですがすっかり魅了されました、これからさかのぼって読みます。
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