経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

財政の崖と痛い経験

2013年01月03日 | 経済
 財政の崖が回避されて、NY株は急騰したが、しょせん、崖が危惧される前に戻っただけである。しかも、崖とは関係なく、社会保障税が上がっていることは見逃せない。所得を2%カットするわけで、米国の2%前後とされる潜在成長率からすれば、1年分の所得増を抜くようなものだから、決して小さくない。

 日本は、昨年4月に年少扶養控除を廃止したが、その後、勤労者世帯の消費は失速した。また、この数年、毎年10月の年金保険料の2%アップのあと、11月から1月の消費が振るわないように思える。こういう痛い経験はムダにしたくないものだ。まあ、世間では、痛い経験だったと思われていないだろうが。

 筆者は普通の経済学の信奉者なので、日本のエリートと違い、所得を抜けば消費は減るものと見てしまう。特に、需要減少に伴う金利低下が望めない状況では、消費減を補う投資増が期待できないから、デフレ促進の効果は一層強力だろう。最近はIMFもそんなことを言っているから、筆者の見方は独自のものではない。

………
 日経の社説は相変わらずだね。年間で3000~4000億円程度の効果しかないTPPに期待し過ぎだ。法人減税も、日本より低い欧州は不振に喘ぎ、日本と変わらない米国はマシな状況にある。筆者は疑り深いから、一点張りは危ないなと思ってしまう。また、日経の掲げる規制緩和は、どれも市場拡大には財政的な裏づけが必要なものばかり。日頃の社会保障の抑制論と、どう折り合いをつけるつもりなのか。

 今日の日経には、経済財政諮問会議の委員になる小林善光さんの年頭直言も出ていたね。円高の背景には需要不足によるデフレがある。米国の消費減退で金融緩和期待が出る前に、日本の需要回復の道筋をつけておかないと、また円高に戻りかねない。金利はゼロなのだから、需要増による物価上昇期待を作らねばならない。

 今度の諮問会議は、マクロに特化している。規制緩和などのミクロは経済再生本部の仕事だし、社会保障改革は国民会議の分担だ。原発政策は規制委員会の基準待ちである。そもそも、1/1のFTが書いているように、新規原発には経済性がない。レガシーコストをどう始末するかだけが本当の政策課題である。

 小林さんも、経済政策全般について、いろいろと言いたいことはあろうが、ここは覚悟を決め、当面の需要管理に徹してもらいたい。各種施策を需要面で評価し、統合していくのが、1997年の「痛い経験」から学んだ、本来の諮問会議の役割である。くれぐれも、「財政再建の長期的な課題を議論しましょう」などという官僚の誘いには乗らないようにね。

(今日の日経)
 衛星打ち上げ半額。財政の崖回避、歳出削減2か月凍結。NY株上げ幅一時270ドル。円下落87円台。社会保障税は4.2%が6.2%に、所得5万ドルなら1000ドル負担増。成長率1%下押し・西村博之。社説・名目GDPピーク1997年度、2011年度は9%下回る。富士重が米生産能力3割増。初夢・守ったはずの農業も衰退、地震の警戒宣言で混乱。

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2 コメント

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Unknown (WATERMAN1996)
2013-01-07 06:26:44
新規原発に経済性がないというのは一概に言えないでしょう。
そもそも経済性が無いのであれば、なぜ中国やインドといった新興国が原発の導入に積極的なのでしょうか。
火力偏重では化石燃料を大量に購入しなければならないという問題が天秤の片側にあるので、原発に経済性とは天秤の傾きを睨みつつ評価するべきことでありましょう。
今後50年、無尽蔵に化石燃料が取れると断言できるならば、間違いなく原発に経済性はないと言えるでしょうが。
エネルギー問題は、50年後100年後まで見据えて論じる問題だと思います。
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Unknown (Za)
2013-01-07 15:50:13
温室効果ガスの削減のことを考えると、原発にも利点はあるのですけれど。
また再稼働にしても、今回の事故は地震が直接の原因ではないのに、断層が近いからダメとは、釈然としないものがありますが。

それはさておき、経済性でも安全性でも水力発電がベース発電としては最有力なのですが、だれも水力発電のためにダムを作ろうとは言わないですね。
まあ、作るのに20年はかかるので、そんな設備投資は昨今民間企業では(電力元売各社でも)難しいわけですが。
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