経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

アベノミクス・成長の原動力を喪失

2015年11月01日 | 経済(主なもの)
 消費増税後、アベノミクスを支えているのは在庫増だと皮肉っていたら、その在庫増さえ失われたようだ。これから消費が緩慢ながら回復するとしても、今度は投資財の在庫の整理が足を引っ張るため、次の10-12月期で成長を確保するのは、そう簡単ではない。「2四半期連続のマイナス成長でも、次こそは」などと、先に目を逸らしたりせず、2年続きの緊縮財政は大失敗で、金融緩和や法人減税の効なく、アベノミクスに景気後退をもたらしたと、心に刻むべきときである。

………
 今回は、鉱工業指数の在庫のグラフを見てみよう。2014年4月の消費増税を境に、消費財の急激な在庫増によって、全体として在庫は上昇し、いったん緩やかになったものの、今度は投資財の在庫、中でも設備投資を映す資本財(除く輸送機械)の急増によって一段と高まり、この7-9月期に至って、ようやく止まった。主役が交代しつつ、在庫を膨らませて、アベノミクスの成長を支えてきたのである。

 在庫は伸びが止まるだけで、GDPにマイナスとなる。おそらく、7-9月期の在庫の寄与度は-0.15程度にはなるだろう。そして、この数か月の投資財の生産の急減ぶりからすれば、10-12月期には在庫の整理が進むと予想され、成長の足を引っ張ることになる。消費財の生産の上向き傾向が期待させるように、消費が底入れして緩やかに回復するとしても、これを相殺するように働くはずだ。  

 7-9月期GDPは、鉱工業指数の資本財(除く輸送機械)の出荷が前期比で-2.3も低下したことからすると、4-6月期と同様、設備投資がマイナス寄与になるのは避けられまい。公需と外需については、プラスマイナスなしというところだから、あとは、消費が在庫と設備投資のマイナスをどれだけカバーできるかになる。これは、後で説明するように、寄与度+0.25程度にとどまりそうだ。したがって、本コラムも、多くのエコノミストの見方と同様、概ねゼロ成長としておく。

(図)



………
 その消費だが、9月の家計調査の結果が出て、二人世帯の季節調整済指数は、7-9月期の実質消費支出(除く住居等)が前期比+0.4となった。これから推察すると、消費総合指数も同じ程度と思われ、消費のGDPの寄与度は+0.25程度にとどまるだろう。9月の家計調査の数字は、大きめの下落であったが、たまにあることで、信頼性うんぬんの問題ではない。むしろ、移動平均的に眺めることが大事であり、1月頃を消費増税後のリバウンドの丘に、緩やかな沈降状態になっていると読むべきだ。

 商業動態の小売業も、丘から下った点は類似しており、ここ3か月ほどの水準が家計調査より高めであるに過ぎない。商業動態には、夏の観光シーズンの外国人の爆買いが含まれ、値上がり気味の物が対象であることを勘案すれば、さして不自然には感じられない。ここは、二つの統計の差異を気にかけるよりも、共通する傾向から、増税後のリバウンドの時期が終わり、成長の推進力の不足が露呈してきたことを感じ取りたい。

 他方、職業紹介状況については、9月の有効求人倍率、新規求人倍率ともに+0.01と順調に伸びており、ここまで、成長の屈曲は見られない。ただし、9月は求職者数の減が効いており、有効、新規いずれの求人数も季節調整値が減少していることに注意が必要だ。8月の毎月勤労統計の速報で、常用雇用がマイナスになった「異変」をお伝えしたが、確報ではプラスに修正されたものの、鈍化は見受けられた。11/9の9月毎勤で確かめたいところだ。

 同じ雇用関係の統計でも、労働力調査の就業者数の季節調整値には、屈曲が認められる。9月は前月比+24万人で、大きめの増となったが、これも移動平均的に眺めると、消費動向と同様、春先以降、伸びが鈍っていることが分かる。家計調査の消費が低いとする批判や、求人倍率は好調という主張に紛らわされ、他の統計が示唆する成長の屈曲という経済運営における失敗を見逃してはいけない。

………
 7-9月期GDPがゼロ成長となると、2015年度の成長率は1%を割る公算が強まり、2014年度の-0.9%成長のリカバーさえできなくなるだろう。原油安メリットはGDPの1%以上とされるから、それ以外の金融緩和や企業減税は、設備投資の低迷からしても、まったく成長の推進力にならなかったことになる。そもそも、中長期の経済財政の試算で財政当局が「宣言」しているとおり、財政赤字を、GDP比で2014年度に1.3%、2015年度に1.4%も、一気に改善するのだから、このデフレ圧力で成長が折れるのも当然だ。

 しかも、実際の財政のデフレ圧力はもっと大きい。財政当局が税収の伸びを過少に見積もっているからである。10/30の日経夕刊は、「補正、3兆円を超す規模」として、税収の上ブレは1兆円超としたが、2014年度決算の税収を名目成長率の見通しで単純に伸ばし、消費増税の平年度化分を足しただけで、上ブレは2.5兆円にもなる。詳しくは稿を改めるが、所得税の成長分を超える増収は、実績だけで0.6兆円に上り、企業の2桁増の業績見通しからすれば、法人税は更に1兆円は行く。

 これだけの緊縮財政によって、財政再建は大成功でも、景気後退に陥れられたアベノミクスは一敗地に塗れた。「税収の上ブレは1兆円超」の言葉にごまかされ、成長の原動力となるべき補正予算を、前回並みでしかない3兆円規模で組むようでは、来年夏の参院選は危うい。良くも悪くも、「成長して再分配に使う」と明言する政治家は少ないから、そんな安倍政権がどうなろうと構わないというのが財政当局の隠れた心境かもしれない。
 

(今日の日経)
 ミニ保育所に補助金、出生率1.8へ新設促す。ヘッジファンドの運用低迷。

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6 コメント

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Unknown (名無し)
2015-11-01 14:15:48
補正予算の額を見てガッカリしました。GDP600兆円計画で緊縮財政を改めると期待していた私がバカでした。もうこの内閣は見限ります。まぁ後任もどうせ緊縮財政なんでしょうが。
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成長できるのですか? (せらお)
2015-11-02 09:39:53
こちらのコラム「も」という感じなんですけれど
果たして日本って、成長「できる」んですか?

労働者人口が、毎年々々、どれだけ減って行くかを考えると
「どう、おだやかに経済を縮小させることができるか」
だけが、日本の取りうる道になると思うのですが。

あるいは「すべての女性が、当然のように正社員的な労働者として」「暮らす」方向に
社会的な投資を(本気で)集中するくらいしか
労働者人口を減らさない方法は無いと思うのですけれど

やはり補正予算は、土木工事などに、重点的に振り分けるべきなんでしょうか。。。
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Unknown (asd)
2015-11-02 10:15:53
成長の源泉は労働力ではなく、需要ですからね、現代は。

まあ労働人口減少というより人口減少という意味では長期的にはヤバイですけど、だからといって経済縮小というシナリオは現状ではありえません。現行貨幣制度で経済縮小させるということは社会破壊や大量虐殺と同義だからです(現行貨幣は経済膨張前提で造られているシステムのため、経済縮小させると社会が回らずそうなってしまうのです)。経済縮小をやりたいのなら貨幣改革が絶対に必要となりますが、インフレデフレも総需要も全く分かってない国民が今すぐできる事業とは言えないでしょう。
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Unknown (asd)
2015-11-02 10:27:25
>>名無しさん
なんやかんやで民主主義ですからね。トップが変わろうが財務省がどうだろうが、結局は国民自身の財政観次第だと思いますよ
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Unknown ()
2015-11-02 17:06:42
政治家や官僚どもが満足に需給管理もできないせいで20年ゼロ成長。どう見ても人災不況なのに「日本はもう何やっても成長しないんだよ」という都市伝説が社会に蔓延り、それがデフレマインドを補強している。
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Unknown ()
2015-11-02 17:20:57
まぁ確かに国民も問題ありですな。普段、格差問題を取り上げ新自由主義的な政策を嫌ってるかと思えば、財政を拡大することにも否定的だし矛盾した主張をしている人々ばかり。
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