経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

経験的事実としての経済

2013年05月02日 | 経済(主なもの)
 経済評論家から東大教授まで、「脱デフレには賃金アップ」と言うのを聞くと、実態的な経済が共有認識に至っていないのだなあと思う。多くの場合、「設備投資増→雇用増→所得増→消費増」となるのだから、いきなりの賃金アップを構想しても虚しい。さらに、その設備投資もまた、実現させるには、順序というものがある。

 それは、「金融緩和→輸出増・住宅増・財政増→需要増→設備投資増」である。ポイントは、経済学の教科書にはない、金融緩和から設備投資増までの間に「はさまっているもの」である。こういう理解があると、経済の動向に対する眺望は格段に良くなる。反対に、この理解がないと、「金融緩和をしてるのに、なぜ景気は回復しない」と首を捻るばかりとなる。

………
 例えば、米国経済で言えば、リーマンショック後は、大胆な金融緩和をしても、住宅バブルで投資が積み上がっていたから、なかなか効かなかったし、製造業が弱体化していたので、金融緩和でドル安になっても、にわかに輸出は増えなかった。それらがようやく癒えて、今の回復局面がある。もっとも、足元では、バーナンキ議長が金融緩和をして財政出動を可能にしているのに、保守派が財政の崖を仕掛けて、ブレーキがかかっているわけだが。

 日本経済も、金融緩和をしたところで、米国次第で円安にならねば意味がないし、住宅も度重なる経済対策の先食いで動きは鈍い。加えて、隙あらば緊縮の財政運営で公的需要を不安定にしているから、景気が良くなるはずもない。今は、円安、駆け込み住宅取得、震災からの復興事業と三拍子揃っているから、上向きなのである。

 このような「夾雑物」の点検は、経済を占う上で欠かせない。円安になっただけで、本当に設備投資が国内回帰するのか、住宅は駆け込みが一巡すれば落ちるのではないか、今年度の補正を見送って財政需要を減衰させるのではないか、そんな具合に確かめる。異次元の金融緩和で「期待」を高めたから、景気は良くなるとナイーブに考えてはいけない。

 最近、「期待」という言葉が膾炙しているが、まったくリアル感がない。金融緩和で、直接、期待を変えられるのは、金融業者くらいであり、設備投資の判断を担う経営者は日銀総裁の意向など気にしない。経営者の期待を形成するのは、需要の動向だからである。基本は、需要に合わせてだが、仔細に見れば、底入れしただけで打って出たり、需要が崩れると見るや、すかさず落としたりする。その感度こそが経営者の才覚である。 

 よく金融政策にはタイムラグがあると言われる。それが2年もかかると言われると、「今の景気回復は、アベノミクスでなく、震災直後に白川日銀総裁が金融緩和をした効果なの?」と茶々を入れたくなるが、「夾雑物」が在ることを示してもいる。2年というのは長すぎで、金融緩和から輸出や住宅が出るのに数か月、需要増を見て設備投資の実行まで半年というところだ。

………
 経済におけるモノの順序というのは、経験的な事実である。例外もあるし、将来も同じとは限らない。また、経営者が需要動向で期待を形成するなんて、合理的行動をバックボーンとする経済学の理論からは外れておる。理論先行の昨今では昔話でしかないが、「定式化された事実」から理論を紡ぎ出そうとしていた時代もあったんだがね。

 例外になると思われた、財政の崖後の米国経済も、今朝のニュースでは製造業景気指数が低下したようで影が差した。ジンクスからは逃れられないのかな。特異な動きを見せた日本の家計消費も、今後、指数の伸びが鈍り、収入増を待つ形となると、従来の枠組で説明はつく。経験を定式化し、例外や特異に注目しつつ、先を読みたいものである。

(今日の日経)
 iPS細胞で創薬、18年にも量産。円安で工場は戻るか。中国景気に減速の影、統計より実態弱く。途上国が海外で国債。百貨店、高額品好調も衣料品伸び悩み。都市に積極出店。ビアレストラン出店再開。コンビニ出店合戦。サウジ原油2か月連続下落。経済教室・柳川範之。

※統計を信じている人はおるまいが。※需要堅調な非製造業は出店という設備投資競争だ。

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