経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

資本主義の何が悪いのか

2012年01月29日 | 経済(主なもの)
 昨日、小塩先生の本を読んでいて、ちょっと気になったのは、年金の賦課方式と積立方式では、貯蓄が多くなる分だけ、積立方式がマシというくだりだった。別に、小塩先生に限らず、経済学者は、貯蓄が多ければ、投資が増え、成長が高まると、ナイーブに考えがちだ。ここなんだね、教科書と現実を分ける差というのは。

 例えば、日本にカリスマ的指導者が現れて、一気の消費増税に成功したとしよう。そうすると財政赤字が減って、政府が使う貯蓄が少なくなり、貯蓄が余ってしまう。このとき、国民が貯蓄をやめて消費を増やしたり、企業が政府に代わって貯蓄を使い、設備投資を増やすなら、何の問題もない。貯蓄=投資の均衡が保たれるからだ。

 しかし、どうだろう。政府が一気の消費増税をしたときに、国民が消費を増やし、企業が設備投資を増やすと、どれほどの人が信じるだろうか。むしろ、起こることは、その逆と予想するのではないか。これが現実なのだが、経済学の教科書に反する異端の考え方ということになる。ここが現在の経済学の限界というか、資本主義という思想の欠点と言えよう。

 どうして、貯蓄が余っても、それを有効に使おうとせず、合理的な行動を取ろうとしないのか、その理論的な答えは、9/18の「どうすれば経済学」に書いたりしているが、こういう先端的な主張をしても、不審に思われるだけなので、筆者は、普段、「増税は良いが、一気はダメよ」という、平凡な主張に丸めている。それでも、財政当局のような、教科書に染まったエリートは耳を貸さんがね。

 筆者は古い人間なので、公的年金が積立金の大増強をすると、実際に何が起こるかを経験している。1980年代から90年代前半、それをやったときに起こったのは、需要不足であり、大きな財政赤字を出し、公共事業で補ってやらなければならなくなった。貯蓄を増やせば、成長が加速するなんて安易なことは、とても言えないのだよ。

 経済のあらゆる問題は成長が解決してくれるが、その源泉は設備投資である。それを引き出すのに、「なんとか戦略」が次々に作られているが、モノの役に立っていないことは明らかだろう。貯蓄を使う側がそんな体たらくなのに、貯蓄を一気に余らせる消費増税に執心するのは、危険極まりない。

 設備投資というのは、実際、企業経営をすれば分かると思うんだが、需要リスクに強く影響される。需要の先行きが不安だと、途端に怖くて出来なくなるし、引き合いが強いと、バブルかなと思っても、つい生産力増強に応えてしまう。そんなものなのだよ。資本主義の何が悪いのかといえば、こういう不合理なことをしてしまうことなんだな。

 リスクによって不合理なことをしてしまうということは、リスクが取れる者にとっては、大きな利益を得られることも示している。だから、平たく言えば、カネを持つ者はますます富むというわけで、資本主義というのは、放置していると格差が拡大してしまう。金融規制も、法人税制も、社会保障も、リスクが起こす不合理を社会が包摂するものと言える。

 「社会保障は出来るだけ軽くして、資本主義のお荷物にならないようにする」という、そんなものではないのである。欠点を補う種々の仕組があって初めて、資本主義の長所である、設備投資を通じて生産性を高め、社会を豊かにするという機能が発揮される。経済学者は、合理性の見地から資本主義を賞賛することが多いのだが、筆者は合理性を重視するがゆえに、社会保障を擁護するのである。

(今日の日経)

※また無理をして、余計なことを書いてしまったな。

コメント (3)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 負担論の先鋭的な理解とは | トップ | 1/30の日経 »
最新の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
合理的でないのなら (通りすがり)
2012-01-29 18:14:34
素人質問で恐縮ですが
これまでに得られた様々なデータを参照して
「なぜ合理的に行動できないのか」や
「実際に合理的に行動できていない」
のを示すのが経済学に求められているのだと思うのですが、
経済学というのはそういうことは扱わないのでしょうか?
返信する
貯蓄投資バランス (KitaAlps)
2012-01-29 22:28:59
>・・先生に限らず、経済学者は、貯蓄が多ければ、投資が増え、成長が高まると、ナイーブに考えがちだ。

 マクロ経済学のご専門以外の経済学者がマクロ経済についてふれるときは、大体基本的な教科書に沿った「原理的な」理解で行うということでしょうか。こうした傾向は、教科書が書き換わらないと変わりませんね。(10年単位のスパンで考えれば)今回の世界同時不況を契機に「書き換わってゆく」と思うのですが。

>筆者は古い人間なので、公的年金が積立金の大増強をすると、実際に何が起こるかを経験している。1980年代から90年代前半、それをやったときに起こったのは、需要不足であり、大きな財政赤字を出し、公共事業で補ってやらなければならなくなった。

 こういう観点はまったく抜けていました。これが正しければ、80年代は非常に良く理解できるように思います。時間があれば、少し勉強してみたいと思います。



>こういう・・・な主張をしても、不審に思われるだけなので・・・・」

 ・・・。実は私もです。
 

返信する
合理的でない行動 (KitaAlps)
2012-01-29 23:06:33
通りすがりさんの「合理的でないのなら」というご質問について。横からですが。

 簡単に言えば、そうした研究は既に行われていると言えます。特にミクロの分野では・・・・。たとえば行動経済学といった分野です。しかし、それは(よく言えば)発展途上だと理解すればよいのではないかと思います。
返信する

コメントを投稿

経済(主なもの)」カテゴリの最新記事