経済を良くするって、どうすれば

経済政策と社会保障を考えるコラム


 *人は死せるがゆえに不合理、これを癒すは連帯の志

政治家のための財政運営の基礎講座

2017年10月15日 | 経済
 政治家は新聞くらいしか読まないし、忙しい新聞記者は財政当局の説明をそのまま流す。日本の財政当局は金庫番的発想しかないので、マクロ経済を運営をする上で、緊縮なのか、放漫なのかも分からない内容だ。それゆえ、「アベノミクスは大規模な財政出動をしていて、バラマキをやめれば、財政再建はできるはず」といった、事実に合わない誤った言説が横行したりする。

 筆者も政治家に説明した経験があるが、政治家は思い込みが強く、誤った認識を正すのは一苦労だ。正直、頼まれても、遠慮したい。とは言え、誤った認識のままでは、この国のためにならないので、今日は、ポイントだけを、かみ砕いて書くことにしよう。選挙の行方はどうなるにせよ、終われば直ぐに、補正予算と来年度予算への基本方針を決めなければならない。何も分からないままデフレ予算にして欲しくない。

………
 アベノミクスが始まった2012年度予算の補正後の歳出額は100.5兆円、そして、4年後の2016年度は100.2兆円だから、実は、減っている。その間、税収の決算額は、消費増税もあり、43.9兆円から55.5兆円へと11.6兆円増えているわけで、当然ながら、財政赤字は縮小した。したがって、アベノミクスの本質は、金融緩和+緊縮財政だと、正確に認識する必要がある。良いも悪いも、まずは事実に立脚しなければならない。

 推移を詳しく見ると、補正後の予算規模は、リーマンショック対策でジャンプアップした2009年度から概ね100兆円で、長らく変わらない。2010年度、民主党政権は、前年度補正後より10兆円も少ない当初予算でスタートしたが、前年度がいかに例外的とは言え、一気に10兆円も減らせば、景気に影響しないわけがなく、案の定、年度後半に後退に見舞われ、慌てて4.4兆円の景気対策を追加した。

 こうした急ブレーキと猛アクセルは、やってはいけない財政運営の典型で、初めから、子ども手当でも実現しておけば良かったのだ。こうした需要管理への無知が、後々まで民主党政権の悪評に結びついている。おそらく、当事者は、何がどう悪かったのか、未だに理解していないと思う。反省がなければ、より良い運営にはならないのだから、他山の石にしてもらいたい。

 他方、アベノミクスは巧みだった。2012年度補正で10兆円の景気対策を打ち、100兆円程度に「戻した」だけだったが、「大規模」な財政出動をしているという印象を植え付けることに成功した。実際は、財政出動と言えるのは、その時くらいで、あとは、看板どおり「機動的」に抑制されている。酷いのは、2014年度で、たった0.9兆円の増だった。消費増税で8.1兆円もの負担増をしていたから、デフレ圧力で景気は悪化し、負担の痛みに対する恩恵の薄さが国民の消費増税への忌避感を強くしてしまった。

(表)



………
 では、今年度の補正予算はどうするか。2017年度当初予算は97.5兆円で、前年度補正後より2.8兆円少ないので、この分を追加しないと、デフレ予算になってしまう。おそらく、財政当局は、「景気も良好だし、他方で税収の上ブレは乏しく、赤字国債が必要」と見送りを勧めるだろう。しかし、デフレ脱却を第一の政策目標にするなら、歳出を縮小させる選択はない。ここで大事なのは、何に使うかだ。

 続いて、財政当局は、「補正予算は、そのとき限りのものだけ、建設国債で公共事業を」と言って来るはずだ。そこで一時金のバラマキで妥協したりするから、「政府はムダ使いばかり、身を切る改革が必要」という批判を浴びるのである。補正予算では、災害対応や地方交付税の措置も必要だから、政策的に使えるのは1.7兆円くらいだろう。それでも、消費増税の使途変更で実現するという、保育や教育の拡充分にはなるはずだ。

 結局、選挙後に与野党が協議すべき焦点は、バラマキ補正を廃止し、1.7兆円を財源として来年度当初予算に組み込むかになる。1.7兆円をどう使かうかの議論は、前向きで将来に希望の持てるものになるだろう。消費増税への忌避感、バラマキへの虚無感、人的投資への絶望感、いずれも一理はある。実際には、消費増税は不可欠だし、バラマキは限られ、人的投資も少しはなされているが、そう理解されないのは、財政運営のあまりの拙さによる。

 来年度予算を1.7兆円増やしても、補正後という本当の歳出規模で見れば、まったく膨らんでいない。加えて、保育と教育の拡充のために消費増税を敢行しなければならないという、切迫した理由も失われる。2年後、財政再建だけのために純増税をするか否かは、物価上昇などの経済情勢で判断すれば良い。あるいは、消費増税と福祉拡大をセットで行うかだ。補正のトリックで誤魔化さず、真の姿を表に出してこそ、国民の理解は得られよう。

……… 
 一方、財政再建は大丈夫なのか。実は、今年度の税収は、前年度決算額より、かなり増えることが予想される。その額はおよそ2.7兆円である。したがって、歳出を前年度並みにする以上、財政収支はGDP比で0.5%も改善する。これだけすれば、十分ではないか。万一、「景気が良いから、補正をしないで財政再建」なんてことをすると、合わせてGDP比で1.0%もの緊縮財政になる。こういう需要管理を考えない財政運営をしたりするから、「景気は回復すれど、実感は伴わず」に陥るのである。

 次に、2018年度は、どんな財政運営にすべきか。一般歳出を前年度比0.5兆円に抑えることが既定方針になっており、他方、税収は、成長率が今年度と同じ名目2.5%なら、約1.5兆円の増収が見込める。差し引き、財政収支は、約1兆円、GDP比で0.2%弱の改善になる。財政再建は、いつまでに達成するかより、足下で着実に改善していることが重要だ。そして、今年度のように、税収が成長率以上に伸び、GDP比0.3%超の収支改善となれば、2019年度の歳出増に振り向けるのも一案となる。

 このように、財政運営の基本方針は、成長の果実を、財政再建と福祉充実にバランス良く配分するものでなければならない。世の中に蔓延する閉塞感は、際限の見えない財政再建、最低限の対応だけの福祉・教育という、展望と希望のなさから来る。日本をダメにしたのは、無暗に緊縮するしか能のない財政である。これを改めるだけで、かなり将来は明るくなる。マクロの経済運営さえ間違わなければ、着実に成長するので、ミクロの「成長戦略」の方は、好きにしたら良い。

 さて、日本には、もう一つ改革しなければならないことがある。それは少子化の克服だ。これには、大規模な再分配が必要になる。普通の発想なら、消費増税をして財源を確保ということになるだろう。しかし、公的年金を使えば、新たな財政負担なしでできる。それは、なぜなのか。どうするのかについては、稿を改めるとしたい。政治家がお手軽に理解できるほど、簡単ではないのでね。


(今日までの日経)
 日本の製造業に綻び、不正相次ぐ。街角景気に勢い。日経平均21年ぶり高値。企業型保育所2万人分増設。機械受注、外需も復調。


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3 コメント

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話をするべき先が違うのでは? (WATERMAN1996)
2017-10-16 07:25:26
以前からブログ記事を読ませて頂いていますが、話をするべき先は政治家ではなく財務省の官僚ではないですか?
変えるべきは増税が評価されるといった財務省の行動原理だと思います。安倍政権は近年まれに見る長期政権ですが、政治家は時代時代で変わるのですから、それより財務省を変えるべきでしょう。
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Unknown (Unknown)
2017-10-16 21:39:25
政治家にしろ官僚にしろ、エリートほど中々考えを改めようとしませんからねぇ。その点、我々庶民のほうが柔軟な頭を持ってると思うのですが、いかんせんネットの時代になっても、大半の庶民は大手新聞やTVなどのデタラメメディアを主要情報源としていて、未だに財政哲学が変わらないのがいけないですねー。
返信する
Unknown (Unknown)
2017-10-16 22:02:07
この手の話聞くとみんな財務省のせいにしたがるけど、企業の言うこと聞いて法人税下げる代わりに消費税上げてるのが問題なんだからそこを批判しつつ財務省も批判しないと意味ない気がするんだよなぁ・・・
財務省がクソなのは事実だし政治家もアレなのは事実、ただそもそも再分配をしたくない企業が要求してる所もあるんだからそこを批判しないとね
でないと財務省ばっか叩いてるリフレ派みたいになっちゃいますよ
ここらへんはもうワンセットで批判した方が良い
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