風音土香

21世紀初頭、地球の片隅の
ありをりはべり いまそかり

倫理とプライド

2009-03-17 | 風屋日記
日本経済が大変な状況というのは改めて書くまでもないこと。
製造業は輸出停滞と減産、それに伴う余剰人員をどうするかを悩み、
地方公共団体の財政難によって中小建設業も青息吐息、
デベロッパーや不動産業に至っては、
サブプライムローンと同様の新しい金融商品である
REITが崩壊した影響をモロに受けて局地的崩壊を起こしている。

誘致企業頼りの地方経済はもっと深刻。
かつてとは違い、首都圏の不況の影響伝達のスピードが早い。
岩手でも○芝、ト○タ系の関○自動車、富○通、N○C、ソ○ニーなど
そうそうたる企業の関連会社や出先工場が軒並み減産。
失業率が月を追う毎に上昇している。
当然下請けの地元企業への影響は深刻になっているし、
他の業種においても消費は冷え、官需はもはやまったく期待できない。
昨年の中国餃子事件や地産地消の流れに乗って
(なにせ岩手は全国で4つしかない食料自給率100%を越える県)
食品製造、販売、生活用品などの小売りは悪くないようだが、
それでも中央資本の大型店による落下傘爆弾の影響は避けられない。

さてうちの会社もご多分に漏れず
次々に変わる状況と、それへの対応に追われる毎日。
幸いいくつかのいいお客様に今のところ恵まれているので
冷や汗を流しながら青くなって走り回るところまでは至ってないが、
それでもやはり今後の売上は不透明で来期は深刻だ。
100円単位、10円単位の経費節減のための工夫が問われている。

そんな中、ある部門長から
これまでの仕入先の他に新しい仕入先を開拓したいと提案があった。
今までの半額の仕入となり、経費は大きく節減できるし
競争原理の導入で旧来の業者への刺激にもなる。
しかもこれは仕入担当の一般社員からの提案だと言う。
それはいい。
いろいろ考えて工夫し、その意識が下にも浸透している。
その意識や提案をとても嬉しく感じた。
それに競争激化により売上単価がどんどん下がり続けている現在、
仕入値半額というのは正直言ってとても有り難い。

しかしその提案にあった新しく開拓したい業者というのが問題。
実は良からぬことをしていて処分までうけている会社であり、
品質は問題ないものの企業モラルに疑義を感じるのだ。
悩んだ。考えた。そして出した結論は却下。
なお噛み付いてくる部門長をとても嬉しく思い
(経費節減を自分のこととして噛み付いてくれるからね)
一般社員から2年で部門長まで一気に昇格した彼の高い意識と責任感に
改めて抜擢は間違いではなかったとの思いを強くしたが、
それでも私の判断は揺るぐものではない。

安ければ、そして品質が悪くなければ何でもいいわけではない。
安い仕入れ、より高い利益に目が向くのは当たり前だが、
それが絶対条件ではないと私は思う。
損をしてでも絶対に越えてはいけない線がある。
企業倫理、矜持を忘れず、プライドを持って仕事をしよう。
古臭い表現だが、お天道様に堂々と顔を向けられる仕事をしよう。
そう思った。

昨年続いた産地偽装事件をふと思い出した。
毒が入っているわけではないし、消費期限を改竄したわけでもない。
品質には何の問題もなかった筈だ。
それでもあれだけ大々的に報道され、逮捕までされた。
最初はうちの部門長のような小さな「工夫」だったかも知れない。
がしかし、倫理や矜持を忘れるとどうなるのか。
どこの会社でも産地偽装のような事件は起こりうることであり、
工夫や改善とは背中合わせなんだなとつくづく感じた次第。
コメント (8)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 初恋の人からの手紙 | トップ | 死語 »
最新の画像もっと見る

8 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Unknown (りら)
2009-03-17 12:48:48
>お天道様に堂々と顔を向けられる仕事をしよう。
まさしくその通りです。
利益が売上マイナス経費だと単純な理由から経費節減を考える利己的な会社が多い昨今、嘘をつかない経営方針を選択された事に間違いはありません。

迷ったら難しい方を選ぶと人格が向上しますから。

正直な商売は、お客様にも喜ばれます。部下にも信頼されます。誰にも後ろ指されることなく土俵の真ん中で勝負する事が大事だと思います。

生意気を書いてしまいましたが、すみません。
返信する
>りらさん (風屋)
2009-03-17 18:53:19
赤福は、あの事件で数ヶ月の営業停止を受けた際
社長が従業員達に向かって
「営業は出来ないが絶対に人員整理はしない。
 みんなで頑張ろう」
と言ったそうです。
それがウワサになり、再評価されて、
営業再開を果たした時には長蛇の列ができ、
お店始まって以来の利益を出せたと聞きました。
理念や思想は人やお金以上の大切な会社の資産だと思うのです。
返信する
同感です。 (川島孝之(表参道の小さな広告屋から))
2009-03-20 01:18:44
当方、零細広告制作会社ゆえ、
お取引先からの「値下げ要求」は厳しいですが、
クライアント、広告代理店、我々、外部スタッフ、印刷 …
みんなが少しずつでも利益を出して
“続く”関係であることが大切です。

何事も“正直”であること。
理不尽なことはしない。理不尽な要求をしてくる仕事は断る。
(精神衛生上もね!苦笑)
経費は減らしても、気持ちは減らしちゃいけないと思っています。
返信する
>川島さん (風屋)
2009-03-20 12:28:03
>気持ちは減らしちゃいけない
さすがコピーライター、名言ですね。
でも今回はシェアが大きくなかったから
そういう結論に至れたのかも。
もし当社の仕入れの5割以上占めるような
仕入が半減するのなら
どんな結論を出したかわかりません。
カッコいいこと言ってても
もしかしたらその程度なのかも知れませんよ(^^;
返信する
トラックバックしました。 (川島孝之(表参道の小さな広告屋から))
2009-03-21 01:13:19
続けておじゃまいたします!

この記事を、私の「3/20付けブログ」で引用&参考に
させていただきました。

お互い、「カッコつけ」かもしれないけれど(苦笑)
倫理と論理以外に、「なんとなく怪しい、気が乗らない」
というのも重要な判断基準です。

そう思ってしまう(正しい感なのか、偏見なのかはともかく)
状態では、仕事の進行もすっきり行かないもの。

風屋さんや、現場担当の方が「強く望めば」、
また条件にあう会社が現れますよ。
返信する
>川島さん (風屋)
2009-03-21 17:47:30
TB&コメントありがとうございます。
うちの会社も、かっこいい事を言っていられる
余裕のある状況ではないんですけどね(^^;
即断ではなく、迷ったのはその証拠。
これからも迷ってばかりかも知れませんね(笑)
返信する
同感ですね。 (Dancho)
2009-03-21 17:56:28
風屋さん、こんばんは。

このエントリー…改めてじっくり拝読させていただきました。素晴らしいと思います。
そして、川島さん同様、全く同感ですね。

安ければ…品質が良ければ…顧客は必ずその製品を買う…とは、実は限らない。
逆に、良いものだったら高くても買う場合だってある。

今のご時世で問題なのは、やっぱりモノを作る方も売る方も、モラルだと感じるんですよね。
モラルの低下がいかにも見えると、それは信頼されなくて当然のこと。買ってもらうためには何でもありの姿勢が見えては、風屋さんのご判断は私は正しいのでは…と思います。

私は少なくとも、そういう気持ちで、今の仕事…燃え尽きるまでやっているつもりです(それで「浦島太郎状態」になっているという状況です、はい。)。
燃え尽きちゃった後のことは、何にも考えていませんが…。
返信する
>Danchoさん (風屋)
2009-03-21 20:32:47
とはいえこのご時勢で
最大限原価をさげるというのは大命題。
大儲けしようというのではなく
社員やその家族の生活を守るために
赤字を出すわけにはいかないのです。
そんな時に自分の理念を押し通し
堅苦しく判断していいものなのかどうか、
とても難しい問題でした。
正論だけがいつも正しいのか
これからも迷い続けることになるでしょう。
返信する

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

風屋日記」カテゴリの最新記事