井伊影男の植物観察

植物の生き方の不思議さ、彼らのたくましさ、したたかさに触れる。しかし、観察者が井伊加減男だからなあ。

北海道の樹木ウォッチング・ドングリ雑学3・殻斗の役割

2021年05月31日 | 日記

カバノキ科の果苞(アサダ)

ブナ科の殻斗(ミズナラ)

 

門綱目科属種、生物の分類体系は階層構造になっている。

ブナ科もカバノキ科も「ブナ目」で、両者が近縁であることを示している。

カバノキ科の雌花序には多くの雌花があって一つ一つに小苞があって、果期にはそれが「果苞」となって風散布のための翼になる。

ブナ科の雌花は数が少なく、苞葉は「総苞」で、果期には殻斗となって幼果実を保護する。堅果は比べ物にならないくらいに大きく、哺乳動物の大事な餌となり、「動物の貯食散布」になる。

堅果は動物の餌になるだけでなく、昆虫にも狙われる。その完熟する前の堅果を保護するのが殻斗で、数少ない堅果を大事に育てようとする。

ドングリやトチノ実など大型の堅果は動物の重要な餌となるが、植物側の立場では「食べられ放題」は困る訳で、トチノ実は「サポニン」という毒成分をもち、ドングリの多くは「タンニン」という渋み成分で食べられるのを防ごうとする。

タンニンをもつドングリの殻斗は成長期には幼果実を保護するが、完熟期には成長を止め堅果の先端は裸状態になり保護の役割を放棄する。

クリ、ブナ、シイ(スダジイ、ツブラジイ)などはタンニンを殆ど含まないので、動物にとっては食べやすくなる.。それで、これらのドングリの殻斗は完熟期にも堅果全体を覆い、堅果を保護する。

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北海道の樹木ウォッチング・ドングリ雑学2・ドングリの背比べ

2021年05月30日 | 日記

「ドングリの背比べ」:「ドングリと松ぼっくり」(山と渓谷社)

 

「ドングリの背比べ」、「どれもこれも似たりよったりで、どれもこれも大したものではない。」とからかい半分の言葉とされる。

しかしそれは、ほんの一部のドングリしか見ていない、ドングリのことを良く知らない半端人間から発せられた言葉だと思う。

写真の「ドングリの背比べ」は狭い意味でのドングリで、ブナ属、クリ属は含んでいない。

それでも「大きいものあり小さいものあり」だし、「丸いものありスリムなものあり」で決して似たりよったりではない。

日本のドングリで一番大きいのはコナラ属のオキナワウラジロガシで直径で20~27mmある。一番小さいのは恐らくシイ属のツブラジイで長さで6~13mm程しかない。

結構バラエティに富んでいるし、ドングリはヒグマやリス類など哺乳動物の重要な餌である。現代の人間はあまり食べないが縄文時代には我々人類の重要な食料でもあった。

「ドングリの背比べ」と言う言葉は見直されるべきだろう。

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北海道の樹木ウォッチング・ドングリ雑学1・ドングリの定義

2021年05月29日 | 日記

ドングリ図鑑(子供向け:岩崎書店)

ブナは材としての評価は高くないが、ブナ科の樹木は日本の温帯林代表樹種として大切にされる。

ブナ林はその美しさ故に人気が高いだけでなく、ドングリをつけるブナの仲間の樹は日本の各地で「そ

の土地本来の森づくり」の主役とも言われている。と言う事で、ドングリの成る木は日本の森の中で大変大事にされてきた。

「ドングリ」という言葉は日本人なら誰でも知っているが、「ドングリとは何ぞや」を語ることは決して簡単なことではない。

理由はドングリが正式な植物学用語ではなく、きちんとした定義もないということだが、ドングリの正体を少し見ていく。

北海道でドングリの代表といえばミズナラ、果実は堅果である。堅果でもトチノキやツノハシバミの場合はドングリとは言わない。ドングリは堅果であると同時に「お椀」とか「袴」と呼ばれる付属品がつく。この付属品は元は雌花を保護していた総苞が変化したもので、植物学的には「殻斗(かくと)」という。

ブナ科の果実は全て「殻斗付きの堅果」で、ドングリの定義の一番はブナ科の「殻斗付きの堅果」と言うことになる。これが広義のドングリ定義。

ただこの場合、「子供のころから慣れ親しんだドングリのイメージに合わない」ものが含まれると言う人もある。「ドングリというのは堅果と殻斗の両方が見えるもの」というのが彼等の定義で、ブナ科でもブナ属、クリ属、シイ属を除くことになり、定義の範囲は狭くなる。図のドングリ図鑑はこの定義による。こちらは狭義のドングリ定義。

もう一つ、以前NHKで「日本一多くの木を植えた男」と紹介された横浜国大の宮脇昭教授の考えるドングリで、教授は「ドングリの成る木は日本の森を代表する木」と考えて、その意味で、ブナ科の木に加えてタブノキなども追加する。定義の範囲は広くなる。

私のドングリ定義は、第一の「ブナ科の果実すべて」である。「殻斗が堅果全体覆っていること」を理由にブナ属、クリ属、シイ属を除くのは、根拠薄弱と考える。ただし、感覚的には狭義の定義にも共感するところがある。

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北海道の樹木ウォッチング・ブナ4

2021年05月28日 | 日記

ブナの果実。ブナ科ブナ属。

果実は堅果。3稜のある狭卵形で2個、総苞の変化した殻斗に包まれている。

ブナの堅果と殻斗。

ブナの殻斗は堅果全体を覆っていて、熟すと4裂して中に2個の堅果を見せる。

堅果はソバの実に似るところから、「ソバグリ」、「ソバクルミ」の別名もある。

哺乳動物の重要な餌の一つで、古代人も食べていたという。ただし、三内丸山の縄文遺跡では重要な食料とは言えなかったらしい。渋みもなく食べる分にはいいが、豊作年が数年に1度で他は殆ど不作年であるため、食料として当てにならなかったものと考えられる。

ブナの実生。

ブナの北限は黒松内低地帯となっているが、植えれば小樽でも札幌でも立派に育っているし、実生も生じている。

分布域を北上させるとき津軽海峡(ブラキストン線)を越えるのにはカケスなど鳥の力があったという。黒松内低地帯を越えられない理由はやはり謎である。

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北海道の樹木ウォッチング・ブナ3

2021年05月27日 | 日記

ブナの雌花序。ブナ科ブナ属。

ブナは雌雄異花(雌雄同株)、葉の展開と同時に開花する。

雌花序は新枝上部の葉腋につき、上向きに咲く。雌花は径1cm程の球形で、線形の鱗片をもつ総苞の中に2個の花が包まれる。

ブナの雌花・アップ。

中央に3稜の子房(緑色)が2個見えている。その外側に4裂した総苞があり、その背面には線形の鱗片がつく。その総苞は後に堅果を包む「殻斗(かくと)」になる。

ブナの雄花序。

葉の展開と同時に開花するとされるが、雄花の方が若干早い。

雄花序は新枝基部の葉腋につき、長い花序柄があって下垂する。雄しべは12個あって葯は花被の外側に突き出る。雌花より早く開花し、花粉を出し終わると花序毎落下する。

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