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news commentary

グロテスクな政府答弁

2015-08-05 23:43:13 | Weblog

日本国首相・安倍晋三氏は米国議会で次のような趣旨の演説をしている。

「日本はいま、安保法制の充実に取り組んでいます。実現のあかつき、日本は、危機の程度に応じ、切れ目のない対応が、はるかによくできるようになります。この法整備によって、自衛隊と米軍の協力関係は強化され、日米同盟は、より一層堅固になります。それは地域の平和のため、確かな抑止力をもたらすでしょう。戦後、初めての大改革です。この夏までに、成就させます」

「一昨日、ケリー国務長官、カーター国防長官は、私たちの岸田外相、中谷防衛相と会って、協議をしました。いま申し上げた法整備を前提として、日米がそのもてる力をよく合わせられるようにする仕組みができました。一層確実な平和を築くのに必要な枠組みです。それこそが、日米防衛協力の新しいガイドラインにほかなりません」

これが米国向けのお約束。聞かされた方は、NATO規約第5条の「締約国は、ヨーロッパ又は北アメリカにおける一又は二以上の締約国に対する武力攻撃を全締約国に対する攻撃とみなすことに同意する。したがつて、締約国は、そのような武力攻撃が行われたときは、各締約国が、国際連合憲章第51条の規定によって認められている個別的又は集団的自衛権を行使して、北大西洋地域の安全を回復し及び維持するためにその必要と認める行動(兵力の使用を含む)を個別的に及び他の締約国と共同して直ちに執ることにより、その攻撃を受けた締約国を援助することに同意する」に似たお約束を安倍氏がしたと思い込んだことだろう。

そういう事情だから、日本と密接な関係にある他国に対する武力攻撃が発生したとしても、これによって日本の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険があるケース以外は、密接な関係にある他国に対する武力攻撃の発生といえども、日本に対する攻撃とはみなさない、と安倍氏が日本の議会で言っていることを、日本事情に詳しくないアメリカの庶民が聞けば、安倍首相の「二枚舌」外交に不快感を持つことだろう。

日本でも少なからぬ人々が、逆の意味で安倍氏の二枚舌に怒っている。アメリカに尽すために、日本の市民に適当なことを言っているのだ、と疑っている。

ミサイルを兵器ではなく弾薬の類の消耗品であるとする、中谷防衛大臣の珍説が、この間の事情をよく表している。これまで日本政府は海外に出た自衛隊のロジスティックス業務から武器(弾薬を含む)の輸送を排除してきた。それが今回の安全保障関連法案では、武器はだめだが弾薬なら輸送ができることになる。防衛大臣は、ニーズが出て来たからと、その理由を説明した。正直なことだ。

そこで野党の議員が弾薬は武器ではないのかと、まっとうな質問をした。防衛大臣は「弾薬は武器ではない。消耗品である」と答弁した。

野党議員と防衛大臣のやりとりが進むにつれ、この消耗品のリストは際限なく広がっていった。「手榴弾」「爆弾」「ミサイル」「核ミサイルの核弾頭部分」も武器ではなく、弾薬類で消耗品であると防衛大臣は答弁した。

発射装置は直接、人を殺傷しない。殺傷するのは消耗品の弾丸類だ。弾丸類は発射装置がないと飛んで行かない。二つ合わせて武器なのである。また、日本の宇宙開発用ロケットは兵器ではない。宇宙開発のロケットは爆薬などの兵器を搭載していないからである。小学生でもわかる理屈だ。

いい年をした大人が、それも国会の院内でこんなことを言い張っているのは、きっと腹に一物あるからだ、と聴いている人は疑いをもつ。

ところで、ミサイルが兵器ではなく消耗品だとすると、かつての人間魚雷・回天は兵器だったのだろうか。消耗品だったのだろうか。

(2015.8.5  花崎泰雄)


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