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news commentary

無駄口はつつしみたまえワトソン君 

2007-10-20 15:44:09 | Weblog
ジェームズ・ワトソン(James Watson)の名前を久しぶりに新聞で見た。

フランシス・クリック(Francis Crick)と2人で1953年にDNAの構造が二重らせんであることを見つけ、1962年にノーベル生理学医学賞を共同受賞したアメリカの学者だ。

メディアが伝えるところによると、ワトソン君は近著 Avoid Boring People のイギリス版(Oxford University Press)が2007年10月22日から英国の店頭に並ぶのに先がけて、販売促進の目的でイギリスに渡った。

ワトソンの英国訪問に先立って、10月14日の『サンデー・タイムズ』がワトソンの紹介記事を掲載した。この記事の中で、ワトソンは、

「われわれの社会政策のすべては、彼ら(アフリカ人種)のインテリジェンスがわれわれ(ヨーロッパ白人種)のインテリジェンスと同じであるという事実に根拠をおいている。ところが、あらゆる検証がそうではないことを示している」

と発言したと引用された。記事はさらに、ワトソンは過去にも、皮膚の色を性欲と関連付けて、

「皮膚の色の濃い人々にはより強いリビドーがある」

という仮説を提示したことも紹介した。

そういうわけで、ワトソンはイギリスに到着はしたものの、英国で予定していたロンドンの科学博物館での講演やブリストルの行事参加などを、主催者から断られて、アメリカに帰った。帰りついたアメリカでは、ロングアイランドのコールド・スプリング・ハーバー研究所の理事会がワトソンを所長の職からはずし、同研究所はワトソンの発言と何のかかわりも持たないと声明を出していた。

批判の嵐の中でワトソンは発言の根拠となる証拠を示すことができず、結局、「弁解の余地のない謝罪」を公式に表明せざるをえなかった。

インテリジェンスとDNAの関連についてはよく分かっていない。そもそも、インテリジェンスとは何であるのかの定義が難しい。この文章の筆者もintelligenceをどう日本語に翻訳するか思い惑い、とどのつまり、インテリジェンスとカタカナ表記することで逃げをうった。ワトソン君にノーベル賞をもたらしたものはある種のインテリジェンスであろうし、彼に今回の失言をさせたのも彼が持ち合わせているインテリジェンスの一部によるのであろう。

トランジスターを生み出したウィリアム・ショックレーもノーベル賞を受けたが、この人のインテリジェンスもバランスに欠けていた。「インテリジェンスは遺伝子によって伝えられ、黒人は遺伝的に白人に劣る。しかし、黒人は白人に比べ出産率が高いので、これによって人類は進化するよりも、むしろ退化する」と主張した。さらに、遺伝的に劣る者が不妊手術に応じたら報酬を与えるというアイディアまで持ち出して、世間のひんしゅくをかった。

ワトソンもショックレーも、ある分野で業績をあげた人々なら別の分野でも同じような優れたインテリジェンスを持っているという信仰のばかばかしさの好例だろう。ノーベル賞は科学の世界では権威の象徴だが、ノーベル賞のもとなっているのはノーベルの作ったダイナマイトで、それは戦争に使われ、戦争からノーベルは利益を引き出した。

気楽にしゃべるとき、人はその人の本音であるところの偏見をふともらす。その点でお気楽な日本の政治家たちは、「こどもを産む機械」発言だけではなく、黒人とインテリジェンスの関係について、信じられないほどの気楽さで偏見を吐いている。

「日本はこれだけ高学歴社会になって、相当インテリジェントなソサエティーになってきておる。アメリカなんかより、はるかにそうだ。平均点からみたらアメリカには黒人とかプエルトリコとか、メキシカンとか、そういうのが相当おって、平均的にみたら非常にまだひくい」(1986年、当時の中曽根康弘首相の発言)

「日本人だと破産は重大に考えるが、クレジットカードが盛んな向こう(米国)の連中は、黒人だとかいっぱいいて、『家はもう破産だ。明日から何も払わなくてもいい』。それだけなんだ。ケロケロケロ、アッケラカーのカーだよ」(1988年、当時の渡辺美智雄・自民党政務調査会長の発言)

日本人の間では政治家はもともとインテリジェンスのある人たちがやる職業とはされておらず、また、日本の政治家の存在感は海外でさほど大きくない。そういうわけで、かれらの発言が国際的には大きな批判を巻き起こすことはなかった。

(花崎泰雄 2007.10.20) 
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