浜名史学

歴史や現実を鋭く見抜く眼力を養うためのブログ。読書をすすめ、時にまったくローカルな話題も入る摩訶不思議なブログ。

【演劇】東京芸術座『いぐねの庭』

2023-03-21 10:28:22 | 演劇

 昨日、東京芸術座の「いぐねの庭」をみた。2011年の東日本大震災から半年後の一軒の農家の様々な「事件」を描いたものだ。「いぐね」とは、家の周りを囲った屋敷林、北風や海からの風を防いでいる。「いぐねの庭」には、おそらく家族が家族を守るという含意があるのだろう。実際、家族に起こる様々な「事件」に対して、葛藤を生じながらも家族を守っていくというストーリーであった。

 東日本大震災が起きなくても、東北地方の農家には様々な矛盾があった。日本政府の一貫した農業切り捨ての農業政策の中で、農協や農林省の要請により、減反は言うまでもなく、養鶏とか養豚などの生産を促され、しかしそれが机上で計画されるために過剰生産となって農家を苦しめる。そういう矛盾の中に、東日本大震災が襲った。家族に死者がで、親族にもひとりぼっちになった少女が身を寄せる。

 近所には、農業生産に対して絶望する者もでてくる。政府の被災者救済策が救済となっていない現実。

 そこに、悲しみ、怒り、喜び・・・・・・家族が抱える葛藤の中に豊かな感情の表出がある。感情の表出は、最近なぜか抑えられているように思えるが、本来人間は豊かな感情をもつ存在であった。感情を思い切り表出することはとても大切なことだ。

 この劇の「事件」は、とてもドラマティックであった。「事件」は自然災害、政治、人が生きていることそのものから起きる。その「事件」に、家族全員が関わっていく。その動きに、観客は笑い、涙を流し、納得できるセリフに同感の意を示す。

 総合的にいえば、生きること、生き抜くことの大切さ、生きることは無条件で肯定されるということ。多種多様な「事件」は乗り越えるべき対象としてのみ存在する。

 この劇、スマートではない。ひとりひとりが生きるために、「事件」に全身でぶつかっていく。久しぶりに、「昔ながらの」劇を見た。

 

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