芥川龍之介は「好色」という作品を書いた。主人公は平中である。平貞文という人物なのだが、平好風の三人の子の真ん中であったので「平中」と呼ばれる。
この男、「色ごのみ」で、宇治拾遺物語にもでてくる人物のようだ。芥川は、その平中を描いた。
平中は、「侍従」を見かけ、何としてでも我がものにしようと企むのだ。今までの女は「文」(ふみ)を最高でも三度出せば「靡(なび)いてしまう」という、いわば平中はもてる男だった。ところが、「侍従」だけは靡かない。
ある日、「侍従」から「文」がきた。平中が「唯見つとばかりの、二文字だに見せ給へ」と送った「文」の「見つ」というところだけが切りとられて「薄葉」に貼り付けてあった。会う、という返事を欲しいという平中の手紙(「文」)への皮肉な返事であった。
それから二月ほどが経った夜。「侍従」のもとへ忍んでいった。その時の雨の描写、さすが芥川である。
雨は夜空が溶け落ちるように、凄まじい響きを立てている。路は泥濘というよりも、大水が出たのと変りはない。こんな晩にわざわざ出かけて行けば、いくらつれない侍従でも、憐れに思うのは当然である、
と案内を請うた。「女の童」(めのわらわ)から「今に皆様が御休みになれば、御逢いになるそうでございますから」と言われ、「侍従」の居間の隣らしいところに腰を下ろした。平中は待った。すると「誰か懸け金を外(はず)した音」が聞こえ、平中は暗闇のなか、隣室に入った。手探りで進んで行くと、
平中の手は偶然にも柔かな女の手にさわった。それからずっと探りまわすと、絹らしい打衣(うちぎぬ)の袖にさわる。その衣の下の乳房にさわる。円円とした頬や顋(あご)にさわる。・・・・
平中はもう悦びのあまり震えだし、ささやこうとしたとき、「侍従」から、
お待ちなさいまし。まだあちらの障子には、懸け金が下してございませんから、あれをかけて参ります。
と言って、その部屋から出て行ってしまう。平中は逃げられたのだ。
そのあと、平中の友人、義輔と範実の会話が入る。平中は迷惑をかける男だとか、天才だとか、平中の人となりを評するのだ。
平中は「侍従」に恋い焦がれる。しかし相手にしてくれない。ならば「侍従」の「不浄」を知ればあきらめられるかもしれないという気になる。
すると、「女の童」がやってきた。童が持っていた蒔絵の箱を奪う。そこには「侍従」の「まり」というといい感じなのだが、漢字で書くと「糞」である。それが入っていると思って奪ったのである。
「沈」(じん)の香りの水のなかに、「香細工」の「まり」が入っていたのである。平中はそれをなめ、固体を口に含んだ。
そして平中は仏倒しに倒れ、半死状態になる。
以上があらすじであるが、平中はそれで亡くなったのかどうかはわからない。面白い話でもあり、バカみたいな話でもある。こういう話しをああだこうだと批評してもつまらない。そういう話であった、というだけで終わりにしたい。
この男、「色ごのみ」で、宇治拾遺物語にもでてくる人物のようだ。芥川は、その平中を描いた。
平中は、「侍従」を見かけ、何としてでも我がものにしようと企むのだ。今までの女は「文」(ふみ)を最高でも三度出せば「靡(なび)いてしまう」という、いわば平中はもてる男だった。ところが、「侍従」だけは靡かない。
ある日、「侍従」から「文」がきた。平中が「唯見つとばかりの、二文字だに見せ給へ」と送った「文」の「見つ」というところだけが切りとられて「薄葉」に貼り付けてあった。会う、という返事を欲しいという平中の手紙(「文」)への皮肉な返事であった。
それから二月ほどが経った夜。「侍従」のもとへ忍んでいった。その時の雨の描写、さすが芥川である。
雨は夜空が溶け落ちるように、凄まじい響きを立てている。路は泥濘というよりも、大水が出たのと変りはない。こんな晩にわざわざ出かけて行けば、いくらつれない侍従でも、憐れに思うのは当然である、
と案内を請うた。「女の童」(めのわらわ)から「今に皆様が御休みになれば、御逢いになるそうでございますから」と言われ、「侍従」の居間の隣らしいところに腰を下ろした。平中は待った。すると「誰か懸け金を外(はず)した音」が聞こえ、平中は暗闇のなか、隣室に入った。手探りで進んで行くと、
平中の手は偶然にも柔かな女の手にさわった。それからずっと探りまわすと、絹らしい打衣(うちぎぬ)の袖にさわる。その衣の下の乳房にさわる。円円とした頬や顋(あご)にさわる。・・・・
平中はもう悦びのあまり震えだし、ささやこうとしたとき、「侍従」から、
お待ちなさいまし。まだあちらの障子には、懸け金が下してございませんから、あれをかけて参ります。
と言って、その部屋から出て行ってしまう。平中は逃げられたのだ。
そのあと、平中の友人、義輔と範実の会話が入る。平中は迷惑をかける男だとか、天才だとか、平中の人となりを評するのだ。
平中は「侍従」に恋い焦がれる。しかし相手にしてくれない。ならば「侍従」の「不浄」を知ればあきらめられるかもしれないという気になる。
すると、「女の童」がやってきた。童が持っていた蒔絵の箱を奪う。そこには「侍従」の「まり」というといい感じなのだが、漢字で書くと「糞」である。それが入っていると思って奪ったのである。
「沈」(じん)の香りの水のなかに、「香細工」の「まり」が入っていたのである。平中はそれをなめ、固体を口に含んだ。
そして平中は仏倒しに倒れ、半死状態になる。
以上があらすじであるが、平中はそれで亡くなったのかどうかはわからない。面白い話でもあり、バカみたいな話でもある。こういう話しをああだこうだと批評してもつまらない。そういう話であった、というだけで終わりにしたい。