電脳六義園通信所別室
僕の寄り道――電気山羊は電子の紙を食べるか
駄菓子屋放浪記 5
駄菓子屋放浪記 5
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子どもにとってニッキとは、猫におけるマタタビのようなものだったと思う。そうでなかったらニッキに対する執拗な執着の思い出がまるで依存後遺症のように鮮烈に残っているはずがない。
ニッキの香りがして色がついた甘い液体をニッキ水という。柔らかい透明容器に入れられたニッキ水には、内径が1ミリに満たない中空のビニールパイプが差し込まれており、ストローのようにして吸うとわずかずつ吸い上げられ、ニッキの香りとかすかな甘さが口の中に広がるのだった。そういうちまちました快楽を長いこと楽しめる秀逸な駄菓子がニッキ水だった。
子どもにとって口に入る甘さと香りは快感物質そのものであり、それを長時間ちまちま楽しめる道具は麻薬の吸引具に似ており、麻薬と言わないまでもニッキは子どもにとって洋酒や煙草のような嗜好品だったのだと思う。
郷里静岡県清水市の駄菓子屋ではもっと凄いニッキの売られ方がされており、そのひとつはニッキを塗って染み込ませた紙だった。そのニッキ紙様を買うと子どもたちはありがたくぺろぺろと舐め、味が薄くなると口に入れてぺちゃくちゃと噛み、味がなくなるとペッと吐き出した。外国人野球選手がくちゃくちゃと噛んでは茶色い唾を吐き出していた噛み煙草に似ている。
もうひとつはずばりクスノキ科の樹木の根を乾燥させて短く切り揃えたもので、赤い紙を巻いて数本ずつ束ねニッキ棒という名で売られていた。その棒を囓るとニッキの味がするのであり、囓りながら歩く子どもたちは、おとなのくわえ煙草姿にに似ていた。
昭和のおとな達は咥え煙草や噛み煙草や煙管を使ったシケモクなどで煙草という嗜好品を愉しみ、昭和の子どもたちは咥えニッキや噛みニッキやビニールパイプを使ったニッキ水で嗜好品としてのニッキを楽しんでいたわけだ。
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先日、うちの近所の無人販売で売ってました。
紙は一時期良く食べましたね。