生産と競争

2017年8月29日
僕の寄り道――生産と競争


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生産と競争――なんとなくそんなタイトルを付けてみた。最初は生産と略奪にしようかと思ったけれど、略奪ではうまく言い表せない思いに対して直截すぎて遠い。思いと言ってもたいした思いではないので、タイトルはどうでもいい。

山あいの集落から歩いて戻る道すがら、沢沿いにちょっとひらけた土地があり、農地になっていないのは地表がコンクリートで覆われているからだ。古い廃墟らしくひび割れた隙間から夏草が生い茂っている。かつては工場のようなものがあったらしい。

人の気配がない山里の廃墟は寂しく、雨上がりに鳴き始めた蝉の声に僅かな生気があって慰めになる。そのささやかな慰めに混じってもう少し血の通った甲高い声が聞こえ、赤いトタン屋根の長細い建物内からそれらは聞こえてくる。中にはニワトリたちがいて鶏卵を産み続けているらしい。

道路際にある鶏舎脇を通ったら地面から柱で持ち上げられて高床式になっている。ネズミやイタチなどの侵入を防ぐためか、舟の舫い綱、電柱の地支線、高床式倉庫の柱に見られるようなねずみ返しの工夫が施されている。

清水の珈琲屋さんによると由比の蜜柑は猿の群れに襲われて甚大な被害を被ったと言い、興津川上流のたけのこ農家はニホンジカに畑の作物を食い荒らされて困っていると言う。大枚はたいて電気柵を設けているのでここでも獣害は深刻なのだろう。

そして人間もまた生産者の大きな敵となる。同じ人間なのでもっともたちが悪い。この事例だけは略奪でも良いような気もする。人間同士でも生きるために奪い合わなければならないという意味で競争に含めてしまうと、現代社会の様相ずばりなので気分が悪い。


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