3月も下旬を迎え、
日増しに暖かな陽気に包まれて、
木々は一斉に芽吹き、
見る人の心を和ませる。
そんな春の訪れを感じさせる季節が
やっと、やってきたと言うのに、
赤い鼻緒のジョジョはいて、
おんもに出たいと、
春が来るのを心待ちにしていた
みいちゃんの姿もなく、
膨らみ始めたつぼみから少しずつ、
はじき始めた桜の花を、
立ち止まり眺める余裕のない
大人たち。
一句、
「いつになく 様子が違う 春景色」
春の日の春日村に、
変わり者の親父がいる。
巷で大騒ぎの厄介な流行り病は、
「高齢者が、感染しやすい」
と聞いて、親父は開き直った。
じたばたしたところで、
どうせいくのなら、
ぐずぐずしないで、みんなで一緒に
いこうじゃないの!
「いくには少し早いけど、
旅は道ずれ、世は情け。
みんな揃って楽しく渡ろう、
三途の川」
ってなもんだ。
開き直ったその日を境に
不要不急の外出を止めて、
家に閉じこもっては、
夕餉の晩酌を際限もなく続け、
酔った挙句は夜遅くまで、
大音量の音楽三昧に、
酔いに興じて、今宵が最後とばかりに
ろれつの回らぬ歌まで唄い、
近所の迷惑顧みず、
眠り就くまで繰り返す。
そんな日がしばらく続いて
呆れ果てた親父の嫁が言った、
「もし、これでいったら、死因は飲み過ぎ。
開き直ってなんかいなかったら、
死に急がずに済んだものを・・」
その言葉には一見、
身体を思いやるように感じるが、
腹は違う。
「どうせいくのなら、
さっさと一人でとっとといって
もらおうじゃないの!」
それから、何日も何日も
飲めや歌えは夜毎に続いているが、
どっこい、親父は今夜も生きている。
その親父が言った、
「最近、身体の調子が良いみたい」
嫁の期待に沿うことのないまま、
春日村に、桜が咲いた。
「The Lady Is a Tramp」
彼女は気まぐれ
唄:エラ・フィッチラルド
&
フランク・シナトラ