カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

マザー・アバゲイル。

2013-12-06 22:40:39 | Weblog
マザー・アバゲイルという老婆は、いつもしづかに穏やかに優しい唄を口ずさんでいるそうです。


いろんな民族の神話に出て来るモチーフのひとつ、「私たちそれぞれにとっての帰るべき〈家〉はいつでも灯りを点して私の帰りを待っている」を思い起こさせる一節で、興味深いです。。


 スティーヴン・キングの長編小説『ザ・スタンド』(文春文庫、深町眞理子訳、全五冊)の第2冊、295ページから。以下、引用させて頂きます。

 ☆彡

 (前略)
 --ねえ、にいさん、だれがあんたをそこに釘づけにしちまったんだい?
 その老女はギターを赤ん坊のように膝に抱き、もっと前に出てくるように、手真似でニックに合図をする。ニックは進みでる。そして老女に言う、ただあなたの歌うのを聞いていたいんだ、ただそれだけさ。歌うことはとても美しいことだから。
 --なに、歌うのなんて、神様のおふざけのひとつさ。あたしなんか、いまじゃ毎日のように歌ってる・・・・ところで、あの黒い男のこと、どう思う?
 --なんだかぞっとするんだ。すごくこわい男だと・・・・
 --にいさん、こわがるのはたいせつなことだよ。夕暮れに見るただの木でも、見るべき方向から見れば、こわいのが当然なのさ。みんないずれは死ぬ人間なんだからね、神様のおかげで。
 --だけど、どうすればあの男にノーと言えるんだろうか? いったいどうすれば・・・・
 --あんた、どうやって息をしてると思うんだい? どうやって夢を見るのかい? だれにもわからないことさ。だけどね、あんた、困ったらあたしに会いにおいで。いつでもいいよ。あたしは皆からマザー・アバゲイルと呼ばれている。この辺りではたぶんいちばんの年寄りだと思うけれど、それでも自分のビスケットぐらいならまだ自分で焼けるよ。いつでもあたしに会いにおいでな、にいさん。お友達も連れてくるといい。
 --だけど、どうすればこんなところから抜け出せるのか教えてもらいたいんだ。あなたなら知っているはずだ。いったいどうすれば・・・・
 --おやおや、まだ気にしているのかい。そんなこと、だれにもできやしないのさ、にいさん。ただ頭をあげて、最良のものを探していけばいい、で、気が向いたら、マザー・アバゲイルに会いにきなさい。あたしはここにいる、たぶんね。もうこの頃は、年を取りすぎてあまり動き回らないことにしている。だからいつでも会いにおいで。あたしは間違いなく・・・・

 --ここに、間違いなくここに・・・・
 すこしずつ、すこしずつ目覚めが近づいてき、それとともに、ネブラスカの空気、玉蜀黍(とうもろこし)畑の匂い、マザー・アバゲイルの皺だらけの黒い顔は、しだいに薄れて、遠のいていった。現実世界がそのあとに徐々に入り込んできた。その転換はまるで、それまでの夢にとってかわるというものではなくて、夢の上に覆いかぶさってすっかり隠してしまったという感じだった。(後略)

 ☆彡

 無性に惹かれます。
コメント
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