カームラサンの奥之院興廃記

好きな音楽のこと、惹かれる短歌のことなどを、気の向くままに綴っていきます。

メモです

2010-04-06 07:40:56 | Weblog
 メモです。。。



 暗かった。すべてが暗かった。町は、さきほどまで霧に包まれていて、その名残りの霧の残滓が空気中に滞留していた。遠い森の方角から鈍重な獣の咆哮らしき声が聞こえたような気がしたが、あるいは空耳だったのかもしれぬ。田名土(ためいど)徹の自転車のライトは、薄明るみを帯び始めた国道のアスファルトを照らして進んでいた。一晩中ペダルを漕ぎ続けた脚の筋肉の疲れはそろそろ極限に近づいたようだった。

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 波呂海(はろみ)ヨミナはフラスコの中でぶつぶつと湧き上がる泡を見ていた。そこは波呂海農園の奥、「魔術師のアトリエ」とヨミナが勝手に名づけた、昔、ヨミナの曾祖母が薬草置場に使っていた小屋で、東側の大振りの窓に沿ってにヨミナお気に入りの大きな木製の机と木椅子があった。明け方、グローフェの「大峡谷」のレコードを掛けながら窓の外を日が昇る様子を見るのが、ヨミナは大好きだった。

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 すべての物語は、誰にも気づかれない薄明の中から始まるのです。
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