Il film del sogno

現実逃避の夢日記

エイプリール・フール

2024-04-01 21:11:06 | 日記
4/1(月)曇り時々小雨
生涯で最もドラマチックな一日だったのだが、自分で日記に記すのも芸がないので、以下、ひっかけた相手(メガバンクの古参女子行員)の立場になって私小説風に記しておきたい。
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今年の卯月朔日(ついたち)は月曜日だからキリが良い。
年ごとに早まっている気がする桜の開花情報は寒の戻りが通せんぼをして停滞していたが、駅前の桜並木はようやく咲き始めた。
週末が見頃か。春爛漫とはこの時期にしか使われない言葉だろう。

新任支店長の朝礼(訓示)も、前期の不振を吹き飛ばして心機一転、頑張ろう、とリセットを強調する。前任者はパワハラをホットラインでチクられて四国の僻地へ飛ばされたと聞く。昭和時代の指導や教育は通用しない。時代である。もともと銀行のローテーションは早いので違和感はないが・・。

1月から新NISAが始まり、3月には日銀がゼロ金利政策を解除。
個人を顧客とするわが部隊も大いなる期待をかけられている。
国内の個人預貯金は2千兆円を超えていると云われている。
何とかその一部を各種金融商品(国債・保険・投信など)に誘導せねばならない。
目標予算は仰ぎ見る富士山のように高い。

4月1日・月曜日・午前10:00。
先月中旬に電話で事前予約した本日最初の顧客は時間通りに受付にやって来た。ここ3年以上定期預金の残高が動いていない個人客である。
データセンターから情報を入手して、上長からは早急なアプローチをしろと指示をされてようやく来店アポを取り付けたのが先月15日の金曜日だった。

現れたのは特段特徴らしきものもない還暦前後の小柄な初老の男性である。
銀行員になって30年以上。人を見る目には多少の自信がある。
服装はグレーのフリースにインディゴブルーのジーンズ。
足元は履き古したナイキのスニーカー。
正直、富裕層には程遠い雰囲気と風袋である。
勧誘の際に受話器から聞いた明るい声音と違い、眉間に皺を寄せて気難しい顔をしているのが少し気になった。

個室に案内してテーブル越しに対面。
名刺を差し出して『先日はお電話で失礼致しました』と、挨拶。
相手も手慣れた手つきで名刺を出しながら『実は・・・』と仰天すべき事柄を語りだした。
渡された名刺を見ると大手総合電機メーカー勤務らしい。
但し苗字は同じだが名前が違う。
『わたくしは****の弟です。兄は先月20日(春分の日)の朝、自宅の風呂場で倒れているのを兄嫁が発見しました。救急車で富士見台の順天堂病院へ搬送されましたが手遅れでした。心筋梗塞です。こどもふたりは海外と九州におり、独立しておりますので唯一の兄弟であるわたくしが、先週末から兄嫁と遺品の整理などをしておりました。卓上のカレンダー、スケジュール帳にも本日の予定が書き入れてあり、さらには〇〇さん充ての封書が挟んでありましたので、本日持参した次第です』
『お兄様とは、お電話で今後のライフプランを踏まえて定期預金の運用など、当行として何か御提案させて頂きたいと本日の面談予約を頂戴しておりました。電話口では本当にお元気そうだったのに・・・お悔やみ申し上げます』
『元々オツムほどではないにしろ体は丈夫な方ではなく、精神面でも職場の人間関係で鬱病を発症して休職していた時期もありました。身内の恥を晒すようで気が引けるのですが、甲斐性もないのに呑む・打つ・買う、と三拍子揃ったお調子者で金銭にもルーズなところもありました。まぁ死ねばみな仏ですがねぇ・・。』と、薄く笑っている。                                                                                                                                                                                                                             

渡された大き目のクラフト紙の封書には筆ペンと思われる癖のある筆跡で【▽▽銀行XXX支店 〇〇さま】と書かれていた。
中身は短冊状のメモ用紙が一枚。
【目の前にわたしの親族を名乗る男がいると思うが要注意 本人確認をすべし】
との文言が、明朝体の大き目のポイントで印刷されていた。

向かいの男はどれどれと無遠慮にメモを覗き込んで
『本人確認が必要ですか? これで良いかな』
と云って財布から免許証らしきカードを抜いて提示してきた。
ひげ面の写真は紛れもなく本人であるが、氏名欄にはポストイットと思われる付箋紙が張ってあり、氏名・四月 馬鹿 と手書きされている。

一瞬で事態を把握して相手を睨もうと顔をあげると、死んだはずの当人が、テーブルに両手をついて平蜘蛛のようにひれ伏している。
5秒ほどで顔をあげると『今日はエイプリルフールですよね』とシレっと云って悪戯小僧のように破顔した。
『その名刺、息子のです。返して頂けます?』
もうお互い笑うしかない。
これはお詫びのしるしです、と差し出したのは手作りらしき桜餅だった。
これからしばらく昼休みの話題は自分の頓馬な話になるだろう。
和菓子などクソくらえ。早退してビールを飲みたい!

コメント
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