コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

野党の決起行動

2010-05-15 | Weblog
昨年11月末に行われるはずであった大統領選挙が、先延ばしになってもう半年になるのに、未だにいつ行われるのかさえもはっきりしない。振り返れば、ワガドゥグ合意(2007年3月)以降もう3年以上も経って、まだこんな煮え切らない状態にいる。

人々の我慢は、いったいいつまで持つのだろう。そのうち、政治指導者に対して、政治責任を問う動きが出て来るのだろうか。あるいは誰かが、国民の心の中にある不満を代弁するようなかたちで動き出し、再び政治的な騒乱が始まってしまうのだろうか。この国は、1999年のクーデタといい、2002年の紛争勃発といい、2004年の反仏暴動といい、思わぬ時に、思わぬ展開で、そうした騒乱に陥ってしまった過去がある。大使館として、警戒を怠ってはならない。私は、情勢悪化の兆候がありはしないかと、日々注意深く、世の中を観察している。

そうしたなかで、すでに3月ころから、野党側(ベディエ元大統領の「民主党(PDCI)」と、ウワタラ元首相の「共和連合(RDR)」が中心)が、大統領選挙の実施を求める決起行動を、5月15日に全国規模で行う予定だ、と宣言してきている。これはいよいよ、そうした不満の爆発の場面を迎えるのか。その日付が、だんだんと近づいてきた。

野党側は、平和的な示威である、と言ってはいる。しかし、コートジボワールではこうした示威運動で人々が街に繰り出すと、ほぼ必ず乱闘騒ぎが始まり、軍や官憲が鎮圧しようとして、何人もの血が流れる事態になる。それが引き金になって、乱暴者が暴れ出す。店が略奪にあい、事務所や家々が放火される。タグロ内相が、野党側の青年部など、決起行動の実行部隊の責任者と、直接会ってしばらく延期するように求めた。野党側は、タグロ内相の要請をきっぱり拒否した。どうも本気で決起行動に打って出る、つまり政府側との衝突も覚悟しているようである。これは十分警戒しなければ。

なぜ5月15日なのか、というと、ひとつの理由がある。それは、政府が今年5月27-28日に、一世一代の国際会議をアビジャンで開催する準備を進めているからだ。アフリカ開発銀行の総会である。アフリカ開発銀行は、もともとアビジャンに本部を置いていた。ところが、コートジボワール紛争が始まったために、2003年9月に、チュニジアの首都チュニスに避難した。今は、アフリカ開発銀行の人々は、チュニスの暫定本部で仕事をしている。それを、紛争も終わったのでアビジャンに戻したい、という政府の悲願である。

アフリカのみならず、世界中から、高いレベルの代表団がやってくる。そうした人々に、コートジボワールの紛争はもう過去の話になったのだ、アビジャンは平静で安定しているのだ、と示したい。そして出来れば、本部をふたたびアビジャンに戻すという決定がほしい。そういう意図から、会議場を整備し、ホテルを全面改装し、道路の舗装をやりなおし、空港の施設を新装し、客人たちを迎えるためいろいろと準備をしてきている。

もちろん、大統領選挙を終えて、いわゆる「危機からの脱出」を果たしてみせれば、アフリカ開発銀行本部のアビジャン復帰は当然の話だったのだ。本来であれば、2010年5月という今の時点では、大統領選挙も終わっているはずであった。だから、政府は昨年の総会で、次の総会をアビジャンで開くことを申し出た。今回の会議で、華々しくアビジャンへの本部復帰が宣言されるはずだった。ところが、大統領選挙は実施できず、いまだに暫定政府が続いている。そのような中でも、政府はアビジャン復帰を訴えたい。

その大事な会議の開催10日前に、アビジャンで街中が混乱に陥るような騒擾が起こったらどうなるだろう。政府の面目は丸つぶれになる。だからこそ、野党側では、決起行動の効果は高いと考えられたのだ。野党側は、バグボ大統領が、大統領選挙に向かうことを何だのかんだのといって回避している、と見ている。だから示威行動を通じて、つまりアフリカ開発銀行総会の成否を人質にとって、バグボ大統領から、大統領選挙実施への言質をとりたい。そういう作戦で、この時期に決起行動を実施するという日程を組んだのである。

決起行動の回避や延期に向けて、バグボ大統領側から、さまざまな働きかけが行われた。しかし、野党側の姿勢は固い。今週月曜日(5月10日)には、ついにバグボ大統領自ら、ベディエ元大統領の自宅を訪れ、何とか考え直してくれ、と働きかけた。しかし、ベディエ元大統領は、示威行動を5月15日に行うことは譲れない、としてこの要請を拒否した。これはいよいよ衝突不可避である。

「土曜日(15日)だけじゃないですよ。野党の実行部隊からは、翌週の少なくとも火曜日(18日)までは、アビジャンを機能不全に陥らせるという声が挙がっている。来週は、ほとんど仕事にならないだろうね。」
今週になってから、各省庁の人々と会うと、だいたいそういう話をしている。アビジャンで仕事にならないということは、アフリカ開発銀行総会も、運営上の大きな問題をかかえることになる。

そうして心配が募って、いよいよあと3日後に迫った。野党系の新聞が、突然大きな活字で報じた。
「決起行動は、延期」
延期、ということは、5月15日以降の混乱はないということである。ほっと胸をなで下ろすとともに、これはまた、急展開だ。野党の内部で、いったい何が起こったのだろう。あれだけ決起行動に突入だと威勢が良かったのに、引っ込みが付くのだろうか。急いでいろいろ取材してみると、そこに至った事情が少しずつ判明してきた。

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