コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

職業訓練学校の視察(4)

2009-05-25 | Weblog

視察団を率いているのは、ドッソ職業訓練相である。これは職業訓練学校にとってどういう意味があるかというと、いうまでもなく、またとない陳情の機会ということである。何と言っても大臣である。職業訓練に関する、中央政府の最高責任者である。これまでずっと放置されてきた、職業訓練の現場の問題を、大臣に直接訴えて、何とか改善を図りたい。そういう意気込みが、それぞれの職業訓練学校から伝わってくる。

当然ながら、事前に視察団の趣旨について連絡が行っている。各職業訓練学校にとって最も大きな問題である、実習機材がいかにひどい状態かについて、しっかり調査してもらい、うまくゆけば国際協力によってこの問題を解決してもらえるかもしれない。おそらく、ドッソ大臣の部下からの具体的指示もあったのだろう。どの職業訓練学校でも、故障した工作機械に、「故障中」とか「不稼働」と大きく張り紙をして、どれだけ悲惨な状態にあるかを、一生懸命訴える。

それで私たちは、壊れた工作機械の残骸だけが散らかる構内に、はじめのうち衝撃を受け、手足を奪われたような学校と生徒に強く同情し、何とかしなければならないと思ったのである。しかしながら、フェルケセドゥグ、コロゴ、カティオラ、ブアケと、北部地域の職業訓練所を順次回って、どこでも同じく機械の残骸が並び、どこでも同じく「故障中」の張り紙の羅列を見せられると、だんだんうんざりしてきて、同情から憤懣に変わってくる。

「故障中、故障中と今になって言うが、だいたい今まで10年もの間、こんな状態を何とかしてほしいと、訴えてこなかったのか。」
「工作機械なんだから、機械が動いているうちに、部品を自分で作るとか、何とか故障を直す工夫はなかったものか。」
そういう怠慢を疑うような声が出てくる。万力にまで、「故障中」と張り紙がしてあり、何が故障かと聞くと、金属の柄が折れたという。
「そんなのは、故障中じゃなくて修理不全だ。」
とにかく陳情すればいいというものではない。

ある職業訓練学校では、金属溶接の実習を私たちに見せてくれた。見せてくれたのはいいのだけれど、生徒たちは顔面にマスクもせずに、溶接を始めた。それも、私たちの目の前でだ。私たちの目も、一瞬つぶれる。ドッソ大臣が、ここの安全管理はどうなっているんだ、と怒り出す。主任の教師が出て来て、このとおりマスクを買う金さえないのです、と訴えるが、明らかに逆効果。

同じ学校で、木工の実習教室が、木屑だらけである。教室の床に厚く、木の粉が積もっている。主任教師がまた出て来て、木工の際に発生して空中を漂う木の粉を集める、集塵機が壊れているという。木の粉を回収できずに部屋に積もるし、生徒の健康に悪いのです、と説明する。集塵機を、新しいものに買い換えなければならない。その壊れた集塵機を見に行くと、もう埃だらけ泥だらけで、錆びも出ているし蜘蛛の巣が張っている。ドッソ大臣はまた怒り出す。いったいぜんたい、きちんと構内を清掃しながら使わなかったから、集塵機も壊れたのだろう。主任教師が叱られている。

そうはいっても、紛争の間、南部の経済や流通から途絶されてしまった北部なのだ。それに紛争中は職業訓練どころではない。やはり、職業訓練学校の側としても、補修も維持も、何も出来なかったし、気が回らなかったのであろう。そういう苦しい年月があったことを踏まえながらも、やはり自助努力や維持管理の大切さについては、釘を刺しておく。

そういう視察を重ねていたところであったので、ブアケから西に200キロ、コートジボワールの中部の都市マンコノ(Mancono)の職業訓練学校を訪れた私たちは、つい感激の声を上げてしまった。これまで何十台と見せられてきた、他の職業訓練学校では「故障中」の張り紙のついた台湾製の30年前の工作機械が、いくつもまだ稼働中だったのだ。

マンコノの職業訓練学校は、そもそも学校の設立思想からしてしっかりしていた。マンコノは、綿花や、カシューナッツの大産地。町の周辺には、大農園が広がっている。農業が町を支えているという考えから、ここでは農業機械に関連した職業訓練を行っているのだ。つまり、農業関連機器や、トラクターなどの補修に集中して、学生を訓練している。農業を進めていく上で、そうした機器が地元だけで適切に維持できるということが、とても重要なことなのだ。

「故障」とか「不稼働」とかいう張り紙は、ここでもたくさんあったけれど、その張り紙に混じって、「稼働可」という張り紙もあった。もう動かないはずの機械が、ちゃんと油も差されて動いている。もう私たちは、奇跡にでも出会ったかのように、戦前のクラシックカーが走るのをみて驚嘆するかのように、感心したのだ。こういう学校にだったら、新しい機械も任せられる。きっと、末永く維持管理していくだろう。学校の教師たちは、私たちが驚いているのをみて、驚いている。

やたらに故障中を訴えるより、こうしてきちんと維持管理をしていることを訴えてくれるほうが、こちらの琴線に触れるのだ。マンコノの職業訓練学校の校長が、私に言う。ここに一人ほど、驚くほど優秀な生徒がいる。彼をコートジボワールに置いておくのは勿体ない。先進国に連れて行って教育すれば、素晴らしい技師になる。日本に送って勉強させてやれないか。

こういう真面目な学校に、そういう風に訴えられると、何とかしてやれないかと、つい思うのである。だから、陳情といっても訴え方があると、つくづく思ったのだ。

(続く)

 ヘリでマンコノに入る

 背高の道化が歓迎してくれる(マンコノ校)

 背高の道化が踊る(マンコノ校)

 歓迎の美女たち(マンコノ校)

 構内に入る(マンコノ校)

 構内の作業台(マンコノ校)

 工作機械、整理整頓が行き届いている(マンコノ校)

 フライス盤は故障中(マンコノ校)

 この機械は動いている(マンコノ校)

 この機械も動いている(マンコノ校)

 これも稼働する(マンコノ校)

 トラクターの修理の実習(マンコノ校)

 実習用の日産エンジン(マンコノ校)

 分解実習用のトヨタ車(マンコノ校)


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