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衆議院選挙前に読む本*樋口英明裁判官「私が原発を止めた理由」

2021-10-23 22:15:28 | 知ろう福島のこと

  「私が原発を止めた理由」(元福井地裁裁判長・樋口英明:著)2021年3月11日初版本が出された本を読んでみた。

  裁判官の本分はその一つひとつの仕事が社会の一隅を照らすことにあるのかもしれません。しかしごくまれには、社会全体が進むべき道を照らす仕事が与えられることもあるのです。毅然としてその本分を尽くしてほしい。

  後に続く、裁判官の後輩にこのように書ける仕事に恵まれたと語る樋口裁判官。福井地裁の判事として2014年5月に関西電力原発原発3、4号機の運転差し止めを命じた。定年退官後は各地で80回ほど講演し、原発の危険を訴え続け、福島第一原発事故から10年となる今年3月に、原発への思いを込めた、上記の本「私が原発を止めた理由」を出して話題となった。

   読むと、素晴らしく明快に(原発を止める判決を出すのが福島原発後においては当然のことだった)と、運転差し止めを命じた理由を述べている。核心は、下の左の太字で言い表されている。印象に残った記述の要点を交えて、簡単にこのブログで紹介しておきたいと思う。

   

    ・ 原発の安全3原則

       「止める」「冷やす」「閉じ込める」が、どれかできれば安全だというのは間違い。福島原発事故では、核分裂反応を「止める」ことには当初成功したものの、電源喪失で「冷やす」ことに失敗。そのために「閉じ込める」にも失敗して、大量の放射性物質を出し、15万人の方が避難を余儀なくされた。どれか一つでも崩れると危険が迫ってくるのが原発だ。

    ・ 東日本が壊滅する危機だった!偶然の奇跡に日本が悲劇を免れただけ

      電源喪失で自動でのベントができず、手動で格納容器の圧力崩壊を防ぐためのバルブを開けに作業員を行かせようとしたが、2号機では高濃度の放射能で現場に行けず、2号機のベントを手動で開くことができなかった格納容器が爆発すれば、「東日本も壊滅」の可能性もあった!吉田所長も「自分の死」と「東日本壊滅」が脳裏をよぎったという。ところが、格納容器の一部に脆弱な部分があったのか、奇跡的に圧力破壊による爆発を免れた

      さらには、4号機は定期点検中だったが、電源喪失で循環水の供給がストップ。使用済み燃料貯蔵のタンクの水が干上がり、それが偶然の定期点検のために原子炉ウェルにたまっていた水がなぜか流れ込んで助かった。これが、干上がったままで大量の放射能が放出されれば、東京首都圏をも避難地域になった可能性もあった。さらに水素爆発が起こり、天井が抜けたことで、消防やヘリコプターでここに水を供給することができた。これが、奇跡の2つめだ。

      吉田所長などがいた免震重要棟。あの指揮官はじめ、多くの人が残って作業した免震棟は、2007年の中越沖地震で柏崎刈羽原発に3000カ所を超える損傷があり、ドアが開かないところもでた。それで、地震の際の免震棟の必要性が認識されて、刈羽原発を始め、福島第一にも震災の数ヶ月前にできたものだったもし、あれがなければ・・・

      そんな大事な免震重要棟を九州において福島原発事故の後でも、ないがしろにしようとした動きがあった。

    <現在、コスト面から、この免震重要棟にかわる施設でもかまわないという判断がでているが、前原子力規制委員会の田中俊一さんは「委員会は原発が規制基準に適合するかどうかを判断している。適合しているからと言って、安全とはもうしあげません>と言っている。だからこそ、命と生活と環境を守れるのが裁判所しかないことになっているのを裁判官には忘れないでほしい。

      「原爆と原発は双子の兄弟」と言われるが、原爆など核兵器は爆発させようとしない限り爆発しない。だが、原発は水または電気が失われれば人間のコントロールができず暴走。つまり、原発は原子力の「平和利用」ではなく「平和時にしか利用できない」もの。断水、停電、テロ、自然災害、火山、内乱、戦争・・・あらゆる危険を孕んでいる。「被害が自国だけに及ぶ」というのも原発。原発訴訟団の河合弁護士が「原発は自国のみにみけられた核兵器」との言葉は至言だ。

   *河合弁護士が裁判用に製作した動画を映画にした「日本と原発 4年後」「日本の再生」のyoutube無料公開は、このブログで繰り返しお薦めしているが、ココから。

   ・ 一般住宅より耐震性が原発の方が劣っている?(上の本の抜粋の第4)

      関西電力の大飯原発は、最初は405ガルの耐震設計基準で設計され、樋口さんが判決を出した時点でも700ガルまでそれを上げて、大丈夫と言っていた。でも、これはコンピューターのシミュレーションで、一般住宅の住友林業の家は3406ガルに耐えるという。つまり、大地震でなくても、ありふれた地震でも原発は危うい。2000年以後の20年間でも1000ガル以上地震動をもたらした地震は30回あった。地震は、場所によって地震動は大きくなる。

      大飯原発は震度6弱でも危なく、震度7では絶望的になる・・・。建設から25年以上たった原発の耐震基準がどんどん上げられているが、原発は、原子炉だけでなく、配管、配電設備も安全のために不可欠。ところが、耐震基準が一般住宅とは別物に考えられることで、ごまかされ、緩くなっている懸念がある。配管、配電の耐震性を上げるには太い配管に変えたりしないといけないはずだが、配管はすでに放射能汚染されていて、取り替えが容易でない。…なんとも耐震性の強化が頼りなく信頼できるか疑問が残る。

  ・我が国は,4つのプレートの境目にある世界で唯一の国。世界の10分の1の地震が日本で起きている(気象庁のココから)国内に地震の空白地帯がない

      *マグニチュード6以上の地震の20%が日本付近で起こっているというデータも一番下に転載しておきました!!!

  ・なぜ、多くの裁判官が原発の差し止めを認めないのか。

    忖度?政権からの圧力? 裁判官は文系。専門技術の問題については、権威ある人の意見に従い、単純に理性と良識で判断すれば当たり前の判決が出せない。最高裁での伊方原発判決で、「裁判所は原発の安全性を直接判断するのではなく、規制基準の合理性を判断すればいい」としている。でも、原子力委員会でもうけられた規制基準が合理的か、そこに疑いがある。

  ・自動車事故だって多いのだから自動車も止めるか?と原発を止める話になるという人がいる。

    でも、現実的に考えて、自動車を今すべて止めたら、社会は救急車もなく失業者も増え、立ちゆかない。でも、原発は、危険だということが分かっていて、暴走の危険性を福島事故で学んでいる。止めるべきもの。自動車とは違う。

  ・経済性の問題をいう人もいる

    だが、憲法では命を守り生活を維持するという「人格権」(憲法13.25条)が電力会社の「経済活動の自由」(22条1項)より優先されると定めている。

  ・CO2の問題で、原発が有益というウソ。

    原発は地球温暖化の最も大きな要因の一つ。ウラン燃料は大量の熱エネルギーを出し、発電には3分の1しか使われない。残りはそのまま熱として海に捨てられる。海水を温める。原発には「海あたため装置」の別名もある。

  ・原発推進派は、「化石燃料は国富を失う」というが、「たとえ貿易赤字がでようが、豊かな国土こそが大切で、これを取り戻せなくすることが国富の損失。(原発の方が国富を失わせた)

  ・左遷されたとは思っていない

   自分は、信念をもって勇気ある裁判をして、名古屋家庭裁判所に異動になったと語られたりしても、左遷されたと思っていない。裁判所全体が政権の意向に忖度しているというのも、結構、忌避の申し立てを柔軟な対処で自分が高浜の仮処分の担当の時も、兼務という形で続けさせてもらった。

  ・理性と良識という土俵で闘えば勝てる

   組織には、良心的で能力の高い人も、本分がわかっていない人も、良心的でなかったり、能力の低い人もいる。高い実績のある裁判官が最高裁にいくのがいいと思うが、政権に近い人がなっているのは、おかしい。でも、だから最高裁でひっくり返されるなら他の裁判所の決定は無意味ということもない。実際運転差し止めの仮処分だってできる。国民の後押しも必要だが。控訴審では、自分の判決がひっくり返された。相手方の土俵の中で闘うと間違える。原告代理人弁護士が、しっかり原発の危険性を裁判官に知らしめて、専門技術のところでなく「理性と良識という土俵」の上で闘えば、勝てる。

 自分の責任が分かっている人は分かっていない人より遙かに幸せだと思う。自分は、その責任を果たせた幸せな裁判官生活を送ることができた。「無知は罪、無口はもっと罪」

 裁判で担当し知った原発の危険性を、知ったのにみなさんに告げないのは重い罪になると思った。そして、この本を読んでしまったあなたにも責任が生じます。

   最後は、このキング牧師の言葉で締めくくられていました。

 「究極の悲劇は悪人の圧政や残酷さではなく、それに対する善人の沈黙である。結局我々は敵の言葉ではなく、友人の沈黙を覚えているものなのだ。問題に対して沈黙を決め込むようになったとき我々の命は終わりに向かい始める」

  The ultimate tragedy is not the oppression and cruelty by the bad people but the silence over that by the good people.

               参考:国土技術研究センターより転載(ココから)

  

 

 


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