それはまだ
わたしが生まれて間もないころのお話
母方の祖父は
自分で育てた野菜やお菓子なんかをもって
時々うちに来ていて
その時母が仕事で忙しかったりすると
必然的に私の面倒をちょっと見ていたよう
それでわたしが泣きはじめると
おむつ替えやミルクを与えたりするけど
それでも全然泣き止まないときは
背中におんぶして景色を見せに外に出ていく
そうして
電気屋さんの首振り人形で遊ばせたり
小学校の子供たちが遊ぶさまを見せたりするうちに
最寄りの駅に着いて
しばらくそこで行き来する電車を眺めさせていたけれど
わたしがようやく眠りはじめると
祖父はそろそろ家に帰りたくなり
そのまま私を連れて
電車で自宅に戻っていった
そこでゆっくり休んだわたしは
祖母や伯父夫婦に優しく世話をしてもらい
夜遅くなって母がバスで迎えに行く、なんてことが
時々あったらしい
それはわたしには全く記憶にないことなんだけれど
美しい秋の暮れゆく空を見ていると
何十年か前のこんな夕暮れに
祖父の背中のぬくもりにつつまれて
安心して眠りについたことがあったのかと思う
お酒が大好きで
いつもニコニコしていたやさしい祖父
そんな懐かしい思い出の中に
記憶にはない
まぼろしの背中もまた
わたしにとって大切な1ページになっている
遊びに来てくださって、ありがとうございました