麦畑

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

日時計の軸(2)

2013-03-17 00:30:56 | 歌集『日時計の軸』

 日時計の軸(2)    鈴木麦太朗


 庭草

えのころぐさいぬたでとてもかわゆいよコリン星から来たのだろうか

一年中そこにかしこに生えてきてすぎなどくだみやつらはにくい

今日庭の草むしりせよとわれ言われ言われたとおり草むしりする

どくだみもえのころぐさもいぬたでもすぎなも引いてひとつの袋へ

ぜにごけはなにも悪さをしないから家の北側に住まわせておく


 風に笑った

まどろみの君のまぶたのなかにある見たことのない月のうらがわ

塗りたてのあなたの椅子の傍らに僕は静かに立っているのだ

公園でシャトルコックを打ちあってわずかばかりの風に笑った

ふりそうな感じののちに雨はふり芋の葉っぱをつよく打つのだ


 ふくろうの書店

ふくろうの書店は希望に満ちているラジオ講座のテキストならんで

いつのまにか靴下の穴はつくろってあって私は恥をかかない

コピー用紙に裏と表のあった頃はもっと丁寧に仕事をしていた

どちらがわ向けて置くのが正しいか二階の窓のドナルドダックは


 水玉ふたつ

太陽と大地と海は調和するミックスナッツの袋のなかで

問屋街ゆけばほこりの匂いする華やぐ魂を鎮めるごとく

湯につかりしたたりそうでしたたらないしぶとい雫のすがたを見てる

バスタブのへりのわずかな平面の水玉ふたつ指でつないだ


 冬の日

日のあたる部屋に座っているひとが時のうつろに止まって見える

電気屋に横付けをしたトラックからテレビがいっぱい出てきてこわい

自転車のカギをなくしてしまったらかついで運ぶしかないだろう

この街の西にそびえる電波塔 塔の根元のきわどい細さ

すれちがう小学生の声は言う「かえんほうしゃじゃなくてころせる」

とたん板さびた床屋の北がわの外階段に雪 とけのこる

みあげればああおぼろ月ホテル街の坂道はまだぬれている


 未完の夢

草花の名前を知らない僕の目にとなりの家の庭の紅い実

押入れにまさかのためにたくわえてある紙箱がしめっています

ひとしきり恐怖にふるえたるのちに震度2くらいだろうとか言う

ぎこちなく日本人がしゃべるときスーパーインポーズはのけぞる感じ

笑ってはいけないけれど笑っちゃうみたいに湧くよ泉の水は

木星を味わいながら見るだろう甘くすっぱい未完の夢を


 ふたり

ひとり言みたいにあれはヒヨドリと言ったら君はそうかと言った

わずかの間横一列にならんだがばらけてしまったカルガモ四羽

牛乳はまだあるかって聞かれても君より詳しく知るはずもない

十年後あなたはどこにいるのかと聞いてる君こそどこにいるのか

くりかえし同じ話しをするだろう二十年後の君と僕とは


 無 題

余震やら余震の余震やらがきて回転椅子のうえにふるえる

自動車のエンジン音にもびびってるいつもゆれてるような気がする

むこう百年忌み嫌われてしまうだろうシーベルト氏とベクレル氏とは

がんで死ぬひとはふえてもいつか死ぬひとはふえたりへったりしない

身ひとつで生きていけると思いつつもおびえる僕は募金を惜しむ

平等にお金をくばることなんてできるはずなどないのだけれど

日本をべろんとひっくりかえしたら爽快ならんああ白昼夢

また冬はまごうことなくめぐりくる東日本に雪をふらせる

あたたかくなるなら雪はそしてまたとろりとろりと溶けるのだろう


 はなれない影

朝がたの空に見えてる白いまるそれは月です月せまりくる

せまりくる月はおおきくなってゆくとなりの星に住む僕の目に

まひるまの短い影は僕の影 僕にまとわりはなれない影

はなれない影をくっつけふらふらと芥子の花咲くひるまをあるく

冷蔵庫ぱかっと開けて永遠のつめたい風をうけていたいよ

いたいよと言えばいつでもひとりにて痛みは僕のからだの一部


 夏のかけら

扇風機にあーって声をぶつければあああああああ夏のかけらだ


 犬の記憶

信号を待ってる僕に犬は寄り足のにおいを嗅いでくれるよ

ジーンズの裾はいかなるにおいする犬に聞いたらわかるだろうか

あたたかなけもののにおいするだろう寄りくる犬のにおいを嗅げば

目が合えばしばらく見つめあう僕ら欲しがるような目をしてきみは

信号が青になったら僕はゆく白いしましまわたり向こうへ

信号が青になったらきみはゆく赤いリードに引かれるままに

やわらかな道をはだしで歩きたいしろつめくさの生えてる道を

ひややかなけもののにおいするだろう毛に包まれた僕のからだは


 おぼろ月夜

太陽に手足はないが顔はある顔はときどき渦巻いている

いちまいの葉っぱをあたまに乗せたならおぼろ月夜にやさしくなれる


 さるすべり咲く

紅よろし白もよろしのさるすべりどっちつかずのわれを笑えよ

ふる雪よもえる炎よさるすべり立ち木は花の色をえらんで

さるすべり咲くこの道の信号は急ぐわたしを長くとどめる

あわあわと花房垂れてさるすべり幹のまだらはうつくしからず

さるすべりの花のかけらはたまりおり車道と歩道を分かつところに

耐えがたき夕闇来ればこの街はこの街路樹は色をうしなう

笑いつつ小学生はゆくだろうさるすべり咲く朝の歩道を


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