夢のさき (八月十三日)
槙の木は軒の高さに切られいて切りくちふかく夏空を突く
槙の木を網戸をこえてわが肌をこえて向こうの網戸へ風は
八畳のたたみの部屋にごろりんところがるわれに風はやさしも
どこからかメールが来たということを知らせる音が鞄にこもる
明日楽しみにしていますっていう言葉をぴゅんと遠くへ飛ばす
夢のなか (八月十四日)
少年はややうなだれて目をつむる光のページをひらいたままで
蛍光灯のひかりのなかに濡れているトンネルの壁でこぼこしてる
外つ国のひと乗るバスにいて思う「世界は言葉」という言葉を
おけそくはお供え餅のことと聞く焼けば食えると言われてもさて
ルサンチマンルサンチマンって何だろうみな笑うからわれも笑った
机いっぱいに甘い飲みもの置かれいて氷は全部溶けてしまえり
チョコバニラねじねじソフトクリームよケータイ短歌お堅い短歌
ビネガーとオイルは振ればまざりあうケータイ短歌かんたん短歌
手を振れば左右にふればさようならバスの硝子は透きとおってる
歌の数かぞえあげれば百と五首「目が怖かった」と少女は言った
忘れ物何かあるような気がしてるあのカフェのあの椅子の上には
今日のことおばあちゃんにはよく喋るそして少女は夜にねむるよ
夢のあと (八月十五日)
突然の雨ふりだせば留守番のわれはせんたく物とり入れる
コーヒーは自分でいれよと言われいていつものように自分でいれる
とりどりの紙を綴りを読み返すまがうことなく「世界は言葉」