映画で楽しむ世界史

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「愛と哀しみの果て」の何故

2011-02-11 09:05:35 | 舞台はアフリカ
2月9日NHKhi「愛と哀しみの果て」(Out of Africa)は、1985年のアメリカ映画。
監督はシドニー・ポラック。主演はメリル・ストリープ、ロバート・レッドフォード。
デンマークの作家アイザック・ディネーセンの小説「アフリカの日々」(1937年)に基ずく。


確かに素晴らしい映画。なりよりもケニヤの映像が美しく、また主演二人が適役・好演で、ある種陶酔に浸るような感じすら覚える人、女性も多いだろう。

しかしこの作品がアカデミー賞作品賞をとるまでに評価されたのは何故だろう。なにか表面だけでは分からぬ(特に日本人には)英米人の心の襞があるのではなかろうか。

欧米の植民地獲得競争の中でケニヤが侵食されるのは比較的遅く、最初はドイツ人宣教師が奥地に入ったようだが、植民地獲得の鍔迫り合いにかけてはドイツはイギリスにかなわない。

イギリスは民間人の力を借りて「イギリス東アフリカ会社」を設立し勅許を与える(1888年)。最終的には第一次世界大戦後、政府直轄の「イギリス領東アフリカ」に編成替えする(1920)。


そこでイギリスのやったことが「ホワイト・ハイランド」建設。

ケニアでも農業に適したホ土地を囲い込み、一攫千金を夢見る白人たちに牧場や農園用に分譲する。黒人たちはホワイト・ハイランドの外側の土地に強制移住させられ、白人のために牧場や農園で易く働かされる。白人は水源を抑え、黒人は水を買わざるをえないようになっていたという。

多分イギリスはホワイトハイランドを北欧の貴族・お金持ちにも分譲したのであろう。メリル・ストリープはデンマーク人で母親から多額の資産をもらっている。その旦那はスェーデン人貴族の次男坊だ。

そのホワイトハイランドでの白人たちの優雅な生活は映画に描かれているとおり。しかし後から考えるとこれは「大英帝国」の最後の愉悦。この後イギリスの国力は衰退の一途。第二次世界大戦後、特にスエズ危機ご植民地を次々と手放してゆく。

ケニヤでは1952年、土地の奪還と白人追放を掲げて「ケニア土地自由軍」が蜂起する。この「マウマウ団の反乱」にイギリスは大弾圧を試みるが、耐えきれる筈がなく、1964年「ケニヤ共和国」が独立する。

ものの本によると、このマウマウ団の反乱の主力は「キクユ族」となっているが、これはひょとして映画の中でメリル・ストリープがコーヒー園で雇って面倒を見てやる部族ではないか・・・考えるだけで感慨が深い。

もともとアフリカはヨーロッパ人にとって豊穣の土地のイメージがある。キリマンジャロをヘミングウェイのように見る人もいる。

そう考えると、この映画はヨーロッパ人、特に英米人にとって、何とも表現しにくい感慨・・・ある種ノスタルジア・・・ほろ苦さの混じったものを抱かせるのではなかろうか。

(了)

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