ゴッドファーザーは文句なしに素晴らしい。
しかしこれを1部2部だけ見て、単純なマフィア映画や親子の骨肉映画ぐらいにしか見ないなら30-40%、移民流入によるアメリカ社会の成立ちを見たとしても60-70%しか楽しんだことにならない。要は、ゴッドファーザーの故郷シチリアの歴史を少しわかって、3部まで見て始めて100%楽しんだと言えるのではなかろうか。シチリアなしではまさに画龍点睛を欠くのである。(映画で楽しむ世界史 43章ほか)
第1部で、マイケルがシチリアで結婚するが新婦が車ごと吹き飛ばされるシーンがあるが、シチリアを単なるイタリアの一地方などと単純に見てはならない。一体マフィアの大物を輩出するシチリアとはどういうところなのか。
シチリア史はほぼ総てのヨーロッパ史の裏側に立つ。ここを統治した民族、文化は、①ギリシャ、②カルタゴ、③ローマ、④ゴート、⑤ビザンツ、⑥イスラム、⑦ノルマン、⑧ドイツ、⑨フランス、⑩スペイン等、ほぼ総てのヨーロッパ人種に及ぶ。
細かい点は別にして、最大傑作はヴァイキングの末裔ノルマン人がシチリアを統治したこと。ノルマン人は8世紀末頃からフランスのノルマンジーに上陸し、そこで完全にフランスに同化し、キリスト教普及の尖兵のような役割を果たす。やがてその一派が再び海に出てジブラルタル海峡から地中海に進出し、シチリアにたどり着く。そこでイスラムやビザンツ勢力を一掃し、一大王国を築くに至る(ナポリも併せ支配する)。
そこで大事なのは、ローマに鎮座する教皇との関係。中世ヨーロッパの最高権威はローマ教皇、各国王様は教皇に面従腹背・・・王様の領土支配には教皇のお墨付きが必要、これに手向かうと他の王様に攻め入られる、教皇はその権威をちらつかせて教皇領の管理と軍事を仰せ付ける。
結局シチリア・ナポリは、王国を認めてもらう代わりに教皇お側第一の直属軍的存在となる。その証拠に十字軍の最前線に立つし、負けて帰ってくる兵、と言っても気位だけは高いキリストの兵隊の収容にもあたる。きれい事しかない教皇庁の裏の側面を一手に受け持つ、暴力やお金が絡むのも当然である。(第3部でローマ法王庁のお金を巡る争いが描かれるのもムベなるかなである)
教皇の権威が失墜した後も、事あるごとにドイツ(神聖ローマ帝国)フランス、スペインなどの争いに巻き込まれ・・・シチリアの人々は何が何だか分からない、王様なんて税金だけ取り立てて最も役に立たない、結局為政者が当てにならないから、土地に根を張ったボスが非合法的に支配する。
要するにそういう土地柄なのである。シチリア領民のなんともいえない悲哀を描いたオペラは「シチリアの夕べの祈り」。更にはゴッドファーザーⅢの中で一貫して流れる「カヴァレリア・ルスティカーナ」。そしてイタリア独立運動にあたって、没落するシチリア貴族(かっての十字軍貴族?)を描いた映画「山猫」。
イタリアの独立でやっとイタリア国民としての格好はつくが、貧しくて生活は出来ない、時あたかもアメリカの膨張期、食い扶持を求めてアメリカに渡る。 映画ゴッドザーザーはこれだけの背景を背負って成り立っている。
あのニノ・ロータの哀愁に満ちたメロディーはシチリア史に大きなページを加えたに違いない。シチリアへ行ったなら「ヨーロッパ文化の交差点」に立ち、カルタゴとの戦場やノルマン人が築いたと言われるパレルモの宮殿等々「歴史」を見てきたいものである。
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