映画で楽しむ世界史

映画、演劇、オペラを題材に世界史を学ぶ、語ることが楽しくなりました

ヴィスコンティ監督「夏の嵐」

2010-12-26 18:43:45 | 舞台はギリシャ・イタリア

イタリアの貴族監督ヴィスコンティ生誕100周年

今週から、NHKのBSでヴィスコンティ100周年記念のシリーズ放映。

 初回の「夏の嵐」、イタリアの作家の「官能」という小説を題材にしたもの。

しかし巨匠ヴィスコンティが描きたかったのは「官能」自体というよりも、長い苦難の末にやっと統一に向かうイタリアの歴史、それを特にヴェネツィアの最期に凝縮したかったのではなかろうか。要するに古いイタリアへの挽歌。

冒頭の場面のバックで演じられているのは、ヴェルディのオペラ「(イル)トラヴァトーレ(=吟遊詩人)」。オペラの筋書きは、男女の三角関係と復讐劇が絡む愛憎劇だが、この時期、ヴェルディ(Verdi)の名は、初代イタリア国王となったヴイットーリオ・エマニュエル・2世(Vittorio Emanuele il Re d’Italia )の頭文字と一致し、イタリア人の愛国心を煽る。

 

ストーリーは省略するが、この映画の背景は一言でいって「普墺戦争」。

ナポレオンが登場したことでヨーロッパ各地のナショナリズムが目を葺き始める。そして、特に国家統一が難しいのがイタリアとドイツ。

先にイタリアがガッリバルディなどの活躍により、1861年に「イタリア王国」が成立するが、このときヴェネツィア、ローマ教皇領、更には後に「未回収のイタリア」と呼ばれるトリエステ、イストニア、チロルなどはまだイタリアに統一されないまま残される。

一方ドイツはビスマルクが出て、国家統一へ遅れを取戻すべくいろいろ仕掛ける。(①ハプスブルグのオーストリアを切離す、②フランスの干渉を排するため)結局ドイツは、3つの戦争、①対デンマーク戦争、②普墺戦争、③普仏戦争を経て、1871年「ドイツ帝国」を成立させる。

「夏の嵐」はこのうち、1866年の普墺戦争をバックとする。この戦争は「7週間戦争」と称せられるほど短期間にドイツ(プロシャ)完勝で終わった戦争。そこでイタリアはプロシャ側について参戦し、永年の宿敵オーストリアの頚木を脱しヴェネツィアをイタリアに帰属させる。この年の出来事を少し整理すると・・・

 

 ① 6月9日、 プロシャがオーストリアを挑発すべくホルシュタインを併合。  

   6月16日、オーストリア・ザクセンがハノーファーに侵攻し戦争勃発。

② 6月20日、イタリアはプロイセン側につき、オーストリアに宣戦布告。

③ 7月3日、 チェコで「サドウの戦い」、モルトケ率いるプロシャ軍が勝ち  普墺戦争の大勢を決着させる。

④ 8月23日、プラハで普墺講和条約締結、ドイツ統一から墺を除外する他。

⑤ 10月3日、ウイーンで伊墺講和条約締結、イタリアがヴェネツィア併合。

イタリア領土内での戦い「クストーザ丘陵での戦い」は多分8月上旬、それを挟んで、燃え上がった主人公伯爵夫人のリヴィアとオーストリア将校フランツ・マーラーとの恋。

 

 原作の小説抜きでは不確かだが・・・下衆の勘ぐり・・・ヴェネツィアは16世紀以降、その歴史的優位を無くしていくに従い、風紀の乱れが激しく、ある意味での「男性天国」となっているところ・・・そこの伯爵夫人が、セリフ通り「貞淑に徹してきた」とすれば、オーストリア軍将校にたぶらかされて、身も心も狂ってしまったということ。

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