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一日一書 226 虹の断片・木原光威

2013-10-22 22:06:45 | 一日一書

 

木原光威

 

最上川の上空(じょうくう)にして残れるはいまだうつくしき虹の断片

(斎藤茂吉)

 

 

「まくりの書展」で入手した木原先生の作品です。

これからときどき、入手作品をご紹介していきたいと思います。

 

 

この歌は斎藤茂吉の晩年の短歌集「白き山」の中の一首。

 

 

昭和21年、茂吉は山形県大石田に1年程住んでいたのですが

その折りに詠まれた歌です。

そのとき茂吉は64歳。なんと今のぼくと同じ年齢です。

「日本詩人全集10 斎藤茂吉」の年譜には次のような記述があります。

 

昭和21年(1946)2月、金瓶(かなかめ)を去って山形県大石田の二藤部(にとべ)方の離家に移る。握飯をもち、つまごをはき、敷物用のさんだわらを抱えて最上川のほとりを歩く。最上川は茂吉の少年の日からの忘れがたい故郷の川であった。老いた茂吉の心に再び創作意欲が燃え立った。3月、肋膜炎にかかり、5月上旬まで病臥。

【注】金瓶〈山形県南村山郡堀田村大字金瓶・茂吉の出生地。茂吉は昭和20年の4月に、ここに疎開していたのです。〉つまご〈草鞋の先や全体につける藁製の覆い。また、それをつけてある草鞋。多く雪道に用いる。「爪子」「爪籠」などと書く。〉さんだわら〈米俵の両端に当てる円いわらのふた。さんだらぼうし。さんだらぼっち。〉

 

 

茂吉は昭和26年に69歳で亡くなっていますから、

まさに大石田で過ごした時期は晩年といえるでしょう。

それにしても、

64歳の茂吉を「老いた茂吉」と書くあたり、

時代を感じますねえ。

この「日本詩人全集10 斎藤茂吉」の出版は昭和42年。

この頃は、64歳というのは十分に「老いた」人間だったのですね。

う~ん。

 

この「大石田時代」の歌を集めたのが歌集「白き山」です。

 

 

木原先生の作品は

「虹の断片」の4文字を大きく配置して

その下に、小さく歌の全文を書いています。

 

「虹の断片」という表現からは

消えゆくはかないイメージが思い浮かびますが

木原先生は、むしろ力強く書いています。

「虹」「断」の文字が左から右上へと

ゆるやかな弧を描き、虹を連想させます。

「断片」でありながら、いや「断片」であるからこそ

うつくしい。

晩年の茂吉もいわば「生の断片」を生きているというような意識が

あったのかもしれません。

 

活字で読むだけでは伝わってこない

歌の心が

この書にはあふれています。

 

 

この歌の碑が大石田にあるそうです。

こちらをご覧ください。

 

〈作者の了解を得て掲載しています。画像の無断使用・転載はかたくお断り致します。〉 

 


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