半紙
北原白秋「朝」
●
朝
よかったな、雨が霽(は)れて、
涼しいな、
朝のお茶もいいものだな、
ほう、小さな栗の毬(いが)だな、
まだ、青いね、
おや、ありやさいかち虫だね、
もうきちきちやつてるぞ、
ほう、墓石に陽が射したね、
ほう、緑だ、
すばらしい緑だ、
おい、菊子、菊子、
飯だ、飯だ。
●
何か書く詩はないかと思って岩波文庫「北原白秋詩集・下」をパラパラ見ていて見つけた詩。
白秋39歳の、1923年刊行の「水墨集」という詩集に収録されています。
白秋の若い頃の詩は、するどい感覚による豊麗な表現が目立ちますが
この辺になると、ずいぶんと枯れてきています。
ほとんど、日常のつぶやきみたいで
今なら、さしずめツイッターですかね。
「菊子」というのは、白秋の確か3番目の妻の名。
「おい、菊子、菊子、飯だ、飯だ。」なんて、今どきは、とても言えないセリフですけど
決して威張っているというのではなく
「上機嫌」な白秋の息づかいが伝わってくるようです。