原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

誘惑、ニュウナイスズメ

2012年06月19日 08時00分00秒 | 自然/動植物

 

天候がどうもすっきりしない。蝦夷梅雨が始まったのかと思いながら、久しぶりに山の中へ。ポツリポツリと雨も降りだした。大きな木の影に雨宿りのつもりで身を潜めていると、ツィーツィーとけたたましい鳥の声。見上げた枝にニュウナイスズメがいた。だが嘴に何かを銜えているためか、鳴き声がこもったグー、グー。しかし、けたたましい鳴き声が山に響き渡る。周りに他の仲間がいるらしい。虫を銜えたニュウナイスズメはどうやらメスらしい。あまり動こうとせず、うろうろするだけ。雛鳥に運ぶ餌なら、いち早く巣へ行くはず。何をしているのか、しばらく様子を見ることにした。

 

ニュウナイスズメは木の穴を住処とする。キツツキがあけた古い穴などは格好の住まいだ。この近くに巣があり、そこに帰りたいのだが、私がうろうろしているので巣に帰れないでいるのだろうか。そうなら気の毒なので、私が移動することにした。少し動いて様子を見てみると、やはりそのままあまり動かない。けたたましい声の主は姿は見えないが、相変わらずわめき散らしている。

ようやく、声の主が姿を現した。ニュウナイスズメのオスであった。オスはメスの周りをせわしなく動き回る。メスは餌をくわえたまま、オスが近づくと背を向ける。そうしたやり取りが四五回続いた。どうやら、オスはメスの銜えた餌に興味津々という風情。しかし、メスはまるでじらすように背を向ける。なるほど、これも誘惑の一種なのかと、想像力が増幅する。

自然界では一般的な求愛は、オスの方からメスに仕向けるもの。だとしたら、これはかなり自然界の法則に反した行いと言える。最近、人間界では草食系の男子が増加して、むしろ女子が積極的にアプローチする時代になったとか。ひょっとすると野鳥にもそんな時代が来ているのかもしれない。そう思って様子をみていると、まさしくそんな感じがしてきた。

メスの周りを飛び回るオスのけたたましい鳴き声がそれを物語っているようにも思えて笑いがこみ上げる。メスはまるでこれ見よがしに餌をちらつかせて、枝を行ったり来たり。ついにオスは意を決したようにメスのもとへ。その瞬間を待っていたかのようにメスは飛び立った。二つの鳥影は寄り添うように森の中へ。どうやら誘惑は成功したようだ。

 

(オス(右)が近付くと、背を向けるメス(左))

とまあ、これは人間の単なる想像話。実際は二つの鳥(たぶん夫婦)に、どんな事情があったのかは分からない。実際、この時期が彼らの愛の季節であることはたしかである。彼らは一つの餌をめぐって激しいバトルとなったかもしれないし、愛の巣に帰って愛児に餌を分け与えたかもしれない。まっこと、余計な妄想であるが、ここはニュウナイスズメの誘惑話として終結したい。

メスが仕掛けた餌に飛びつく、オス。これはまさにニュウナイスズメのハニートラップ。しかしオスたちはワナと知っていながら突き進む。オスとは何とも愚かで哀れな生き物なのだろう。我が身を振り返りながら、吐息がもれる。

(左がメス、右がオス) 

*ニュウナイスズメ:スズメ科スズメ目スズメ属。森や林に生息。住宅街に住むスズメとは生態が異なる。冬は暖かい南へ飛び立つ渡り鳥でもある。和名のニュウナイスズメ(入内雀)の由来には三つの説がある。1)、スズメにある黒点がないことから、ほくろの古名である、にふ(班)が無い雀ということから班無雀(にふないすずめ)。2)、新嘗雀(にいなめすずめ)がなまって呼ばれるようになった。これは柳田國男も説であるとか。3)、平安時代の貴族、藤原実方が東北に左遷されたまま客死する。彼は左遷を恨み、雀に転生して宮中に忍び込み、米を食い荒らしたという伝説から、宮中に入る雀、入内雀となった。

2と3の話から、ニュウナイスズメは米を食い荒らす害鳥というイメージが強く、有害鳥として狩猟鳥の対象にもなっている。しかし、町に住む習性のないニュウナイスズメによる害の実態はほとんどないと言われている。


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2 コメント

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チョッといい話! (numapy)
2012-06-20 14:36:59
鳥の世界では、フウチョウ類など♂が♀に求愛するケースが多いようですが、大型ネコ科の野獣たちは、♀が♂を誘いをかけるケースが多いようです。
いわゆる媚を売る、というやつ。かつてウチの猫は(大型じゃないけど)不肖ワタクシにコナをかけてきました。
ウチのドラ猫(二本足で歩いてる…)も思い出してみればそんな気もします。(これは内緒ですよ)いやはや…。
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誘惑に弱いのが男か、やっぱり。 (genyajin)
2012-06-20 16:20:34
プロポーズは男から、などいうのは案外、仕掛けられた話かもしれませんね。そのように仕向けられているとも気付かず、おれがやらなくちゃ、と男気を奮い立たせてしまう。
世の中の男たちはそんな風に操られているのかもしれませんな。とすると、それはそれでいいのかも。それで平和が保てるのなら。
だまされる男というのも粋なもんかもしれません。そんな男族の世界は、子宮でものを考える女族には理解不能の世界です。そう考えて開き直りましょう、ご同輩!
あくまでもここだけの話ですが。
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