原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

美女美女、好きーっ!

2015年06月05日 09時26分51秒 | 自然/動植物
美女が大好きなのは一人の男として理解できると思うが、野鳥がなぜ?と思う人がいるかもしれない。実は「美女が好きだ」と鳴き叫ぶ野鳥がいるのである。鳥の名はセンダイムシクイ。ウグイス亜科の野鳥である。ウグイスによく似ているので時折私も間違える。名前を聞くと仙台を拠点とする野鳥に聞こえるが、まったく関係がない。「チヨ、チヨ、ビィー」と鳴く声が名前の由来や美女と深くかかわるのである。それほど昔から愛されている野鳥ということなのだ。

聞きなし、という言葉を知っているだろうか。なしは「做し」と書き、聞いて作るという意味となる。意味不明の言葉を日本語に置き換えて覚えやすくする。
例えば、犬の鳴き声を「ワン」というのもその一つ。What time is it nowを「掘った芋いじるな」と言い換えるようなこともそうだ。ちなみに、いじるなという言葉は北海道弁。触るなという意味。多分これを発想した人は北海道生まれの人だろう。タモリが番組の中で空耳アワーというコーナーをやっていた。英語の歌詞の一部を日本語に置き換えて愉しむというもの。あれと同じように、鳥の鳴き声を意味のある日本語に置き換える遊びでもある。


センダムシクイの名前もまたその鳴き声から生まれた。この野鳥の「チヨ、チヨ、ビー」を「鶴千代君ーっ!」と聞いてしまった人がいた。よほどの歌舞伎ファンだったに違いない。この鶴千代君とは、歌舞伎の演目の一つ「伽羅(めいぼく)仙台萩」に登場する若君のこと。歌舞伎に詳しい人なら分かると思うが、足利家の執権仁木弾正が画策したお家のっとり騒動。それに巻き込まれた悲劇の人が鶴千代君。野鳥の声が若君を忍び泣き叫ぶ声に聞こえてしまった。ムシクイ仲間の中からこの鳥にだけ仙台がついて、センダイムシクイと命名された。誰もが歌舞伎をよく知っている時代につけられたものである。
しかし、現代では歌舞伎の演目や昔の物語はほとんど忘れかけられてしまった。鶴千代君など知る由もない。その経緯など関係なく、名前にセンダイが残されて現代にいたっている。その代わり、かの鳥の声を聞きなす新しい言葉も生まれている。「疲れたビー」、「焼酎いっぱい、グィー」などがそうだ。そしていま、私的に最も受けているのが「美女美女、好きーっ」なのだ。不思議なことにこの鳥の鳴き声を聞くと、本当にそう聞こえてくる。思わず「その通り、俺も好きだよ」と応えたくなる。


聞きなしによる野鳥の声はたくさんある。ホトトギスの『特許許可局』、『てっぺんかけたか』、ウグイスの『法ー、法華経』などはもはや古典。コジュケイの『ちょっと来い、ちょっと来い』もよく知られている。ツクツクボウシやブッポウソウは鳴き声がそのまま名前になった。聞きなしで野鳥を愉しむ方法もある。

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