政治の季節【稗史(はいし)倭人伝】

稗史とは通俗的な歴史書等をいいます。
現在進行形の歴史を低い視点から見つめます。

鳩山辞任…日本郵政の社長は誰が決めるか・3

2009-06-13 07:02:17 | 麻生太郎
「民間会社の経営に政治は口出しすべきではない」というような理屈が罷り通っている。
石原伸晃・竹中平蔵はじめ多くの連中が言っていたが、麻生まで言いだしている。
言っている連中はその愚かしさに気がついていないか、あるいは知っていてそれを通そうとしているのだろう。
日本郵政は株式の100%を国が保有する国有会社である。
株主名義は財務大臣になっているが、実質的には政府が保有していることになる。
しかし、真の問題はその先にある。

民間会社である株式会社の最高意思決定機関は株主総会である。
しかし日本郵政の場合、政治が口出ししないということになれば、株主総会はまったく機能しないことになる。
株主総会は取締役会の追認機関にしか過ぎないということになる。
前2回の投稿でわたしは、日本郵政株式会社が委員会設置会社であることを指摘してきた。
現在日本郵政には九人の取締役がいる。
この取締役の内の五人が指名委員会を構成している。
指名委員会の権限は取締役の選任と解任を株主総会に提案することである。
しかし、株主総会が取締役会・指名委員会の追認機関に堕していれば、彼等の決定・提案は最終決定と同様の意味を持つ。
彼等は永遠に取締役であり続けることができる。
そして指名委員会によって選任・再任された取締役会が実際の業務にあたる執行役を指名し、その中から代表執行役(社長)を決める。
これは株主総会の承認さえ要らない。

日本郵政株式会社法
 
第二条  政府は、常時、会社の発行済株式(株主総会において決議をすることができる事項の全部につき議決権を行使することができない株式を除き、会社法(平成十七年法律第八十六号)第八百七十九条第三項の規定により議決権を有するものとみなされる株式を含む。以下この条において同じ。)の総数の三分の一を超える株式を保有していなければならない。

附則
第三条  政府は、その保有する会社の株式(第二条に規定する発行済株式をいい、同条の規定により保有していなければならない発行済株式を除く。)については、できる限り早期に処分するよう努めるものとする。


日本郵政の株式総数の三分の一以上は、政府が保有しつづけなければならないとした上で、残りの株式については「出来る限り早期に処分するよう務めるものとする」とだけ規定している。
去年前半までの数年続いた株の上昇局面においても、相場を冷やすという懸念から、NTT・JR・JT等の政府保有株の売り出しが出来ないでいた政府に、郵貯銀行・かんぽ生命に加えて日本郵政本体の株式売りだしなどいつになったらできるのかまるで見当もつかない。
つまりいつになったら株主総会が一般の民間企業並に機能するか、まったく予測できないのである。
政治が経営に口出ししないということであれば、株主総会不在のまま取締役会はまったく好き勝手な経営ができるということになる。
しかも最終的には政府保有が義務づけられた三分の一の株式が取締役会の決定を無条件で支持するということになれば、たとえ株式売り出しが終わった後でも、相変わらず株主総会が取締役会を抑制することはほとんど不可能なままである。

現在の取締役が指名委員会を構成し、自分たちの再任を永遠に決定し続ける。
彼等は自分たちで構成する”報酬委員会”で自分たちの報酬を決める。
同様に”監査委員会”も取締役で構成されている。
監査に当たる監査法人も自分たちで選び、まずいことが生じれば、責任は執行役に取らせる。
政府の口出しがなければ、日本郵政の現在の取締役たちにはこれだけのことができるのである。

鳩山を辞めさせたことで、麻生はとんでもない”悪しき前例”を作ってしまったのである。


ついでに鳩山辞任の茶番劇にも触れておきたい。

鳩山辞任は結局予想通りの結末である。
罷免と思っていたが辞任というところが、わたしの予想とちょっと違ったが……。
鳩山は最後まで突っ張ってこそ男になれたのに。
どうやら麻生と会う前に筋書きはできていたのだろう。
午前の麻生との会談ではまだ決着はついていなかったようだが……、

「罷免されても信念曲げない」 日本郵政社長人事で鳩山総務相 (NIKKEI NET 6/12)
鳩山邦夫総務相は12日午前の閣議後の記者会見で、麻生太郎首相が日本郵政の西川善文社長を再任させる方向で調整する意向を固めたとの報道に対して、「首相からは何もない」と述べた。そのうえで「(罷免されても)そんなことで信念曲げたら男ではない。首相は分かって下さると信じている」とした。さらに「私の主張が受け入れられず、もし内閣の方針が西川氏続投なら、タイミングによって罷免あるいは辞任は十二分にありうる」と語った。


すでにトーンダウンしていた。
それまでは”なぜ辞任しなくちゃいけないのか”
”落としどころなんてない”
と息巻いていたのが、”辞任”という言葉を自分から持ち出している。
どこやらから説得を受けていたのかもしれない。
二度目の会談で辞表提出。

鳩山総務相を更迭 (nikkansports.com 6/12)
鳩山邦夫総務相(60=衆院福岡6区)は12日午後、日本郵政の西川善文社長の進退問題をめぐり、麻生太郎首相と官邸で会談し辞表を提出、受理された。首相は、鳩山氏が西川氏続投方針を受け入れない考えを示していることを受け、事実上の更迭に踏み切った。


”更迭”にしろ”罷免”にしろ上からの命令でその職を辞めさせることである。
”辞任”は自分のほうから辞めることである。
”辞表”を書いた以上、”辞任”である。
鳩山としては、無理矢理書かされた辞表である、と言いたいだろうが、”腰砕け”と言われてもしょうがない。
”事実上の更迭”という表現は、麻生・鳩山双方にとって都合のいい表現である。
鳩山にすれば、抵抗した末での”疑似更迭”。
麻生にすれば”決断力を発揮した更迭”
しかし、決断したなら”罷免”しなければならない。
麻生にはその”罷免”ができなかった。
ずいぶんと裏から表から鳩山に辞表を書かせようと努めたものと思われる。

中山国土交通相のときもグズグズと処分出来ずにいて、辞任でけりをつけた。
中川財務大臣の時でさえ辞任である。
鴻池官房副長官の議員パスを使っての不倫旅行でさえも罷免できなかった。
そいつらと比べて、鳩山を罷免できるか。
鳩山は総務大臣としての職務に忠実なだけであった。
その鳩山を罷免するならば、その理由を説明しなければならなくなる。
麻生には鳩山罷免の理由を国民に向かって、国民が納得できるような説明はできない。

西川をとって鳩山を切った理由は明らかである。
西川続投を決めている日本郵政の指名委員会・取締役会と喧嘩する訳にはいかなかっただけである。
西川更迭も喧嘩両成敗も、はじめから麻生の選択肢には入っていなかったのである。
財界全部を敵に回すなんてことは、麻生には恐ろしすぎる想像である。



くどいようだが、日本郵政の取締役及び指名委員会の構成を記しておく。

取締役兼代表執行役社長(CEO)
西川 善文  三井住友フィナンシャルグループ元社長。元全国銀行協会会長、

取締役兼代表執行役副社長
高木 祥吉  金融庁長官・2004年4月 内閣官房郵政民営化準備室副室長

社外取締役

牛尾 治朗   ウシオ電機株式会社代表取締役会長
奥田 碩    トヨタ自動車株式会社取締役相談役
西岡 喬    三菱重工業株式会社相談役
丹羽 宇一郎  伊藤忠商事株式会社取締役会長
奥谷 禮子   株式会社ザ・アール代表取締役社長
高橋 瞳    青南監査法人代表社員
下河邉 和彦  弁護士

指名委員会

西川 善文  
高木 祥吉  
牛尾 治朗  
奥田 碩   
丹羽 宇一郎 

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