高倉健の母への想い 1
僕が荒れ性であかぎれが切れたり、いろいろするってのよく知ってるんですよ。
任侠映画のポスターでね、入れ墨入れて、刀を持って、
後ろ向きで立っているやっでね、
全身の。肉絆創膏を踵に貼ってたんです、それを
「アッ、あの子。まだあかぎれ切らして、絆創膏絆貼ぃとるばい」って
見つけたのは、お袋だけでした。全身のポスター誰も気がつかない
「あんたがね―可哀想」
「そういえばね、あそこの幼稚園でプール造るっていうと、あなた寄付してあげなさい」
「お母さんね、俺、さっきから黙って聞いてるけどね、“もうそろそろそんなに何年も
やってんだから、あんたもいい役やらしてもらってね、そんな寒いところなんか行かないで
ああ、やっぱりお母さん有難いなって思ったんだけど、そしたら、幼稚園が何と
かだから、この前はお寺さんのあれが何とかだから、氏神様が何とかだから寄付しろとか
って。それ言っていることと、全然矛盾してるんじやないの……俺は仕事しないと金がで
きないんだよ。山の中だって、雪の山なんて、誰も行きたくないんだけど、そういうとこ
ろも行かなきや金にならないから行くんだから。で、“それは行かないようにしなさい〃
って、で、寄付は寄付でしなさい〃って、どっちなんだよ、言ってることが矛盾してる
じゃないか」
「・・・・・・・・・」
しばらくたってね……もう、四、五時間くらいたって、忘れてるころですよ。突然に、
「私もね、どっちの気持らも本当ですよ」
って、突然。もう五時間くらいたって全然忘れているときに、ずーっと考えてたんですね。
「どっちの気持ちも本当だって、だから幼稚園に寄付もしてほしいんだけど、雪の中を這
い回るの、それもいやなんだ’」
「・・・・・・・・・」
有難いですよね、母親って。