地雷

事の発端は、あのバカ車だった。

彼は、数年前に焼身自殺をするために自分の車に
火をつけた。

海の近くの駐車場で、灯油をまき、火をつけた。

しかし、直前に飛び出し本人は無事。

それまで、大事に乗っていた車だけが焼失した。


今でも思う。

あの時がターニングポイントだったんだって。

あの時、躁でおかしくなった彼をどうにかして入院
させていれば…。

あまりの事態に、私は呆然とし、燃え盛る車の残像が
いつまでも残り、消防車のサイレンに苦しんだ。

義両親は入院させることをよしとはせず、彼の言うままに
新しい車を買い与えた。

そうやってやってきたのが、私の言うバカ車。

レース仕様の車だったらしく、購入当初はエアコンもついて
いなかった。

修理個所も多々出てきて、それもブレーキや足回りなので
直さないわけにもいかず…。

その割に彼以外誰も乗らなかった。

たばこ臭いのと、マニュアル特有のガツガツした走りとサスペンションの
悪さで、怖いから。

スピードもかなり出るし、何より、ハンドルを握る彼が怖かった。


そのバカ車が、ある日なかった。

家の駐車場には、車屋さんの代車が置いてあった。

「何？、また車出したの？」と聞くと

「前にも言ったじゃん、～が故障したから返るし、タイヤもバランスとって…。」


まったく聞いていなかったし、何より支払いはどうするのか？？？


「ちょっと待って、支払いどうすんの？」と聞くと

「カード払い。」って。


彼はそれまでに、このバカ車にカード払いで借金を作っていた。

最初は6万円くらい。

A就労が決まっていたので、そのくらいならと事前に承諾していた。

が、そのあと10万の借金をした。

これは無許可。

さらに、10万と言いつつ、結局は20万だった。

で、これが3回目。


「ふざけんなさっ！まだ1回も給料ももらってないのに、いくら借金

　作ってんの？

　もうカードやめろって言ったじゃん！！！」


「だって…俺お金ないから…。」

「お金ないなら、余計に使うなさっ！！！」


彼は単純な修理だけではなく、ウィングやマフラーや格好つけにお金を
使っていた。

それが許せななかった。

1銭も稼いでいないのだ。

稼いでいるどころか、いつから、いくらもらえるのかもわからないのだ。

それなのに、すでに50万近い借金作るって…。

まぁ、この病気にはよく聞く話だけれど…。

血が逆流しそうだった。

やっと、仕事ができてまともになってきたのかと思っていたのに、
浮気騒動がやっと収まったと思ったら、今度は借金問題。

車じゃなくて、やっぱりこいつがバカなんだって思った。

「はたいていいよ。」

彼が言った。

実はこれも地雷だった。

今までも、おかしなことをしたときに彼を平手打ちしたことがあった。

彼はそれをLINEのお姉さんたちに、語っていた。

イラって。

被害者ぶって、人をDVみたいに言いやがって！って。

あんたが悪いことするからでしょがっ！

あんたを叩いて、すっきりしたわけじゃないから！って。


覚えているだけで、5発くらい。

だから、きっと10発以下くらい。

娘の前でも。


「なんで、借金なんて作るの！」

「なんで、学習できないの！」


って、両腕をつかんで揺さぶって責めた。

単純に、今回の借金だけじゃなかったんだろうと思う。

それまで、溜めに溜めていた何かが一気にあふれたんだと思う。

悔しくて、悲しくて、望みがなさ過ぎて、自分がかわいそうで。


大荒れだった。


そして、私の地雷が爆発した翌朝、彼の地雷が爆発した。