私は、10代の頃より、いわゆる通っている学校の「吹奏楽部」というものに所属しており、卒業後も20代前半までは実際に“吹奏楽”のプレーヤーとして活動しておりました。
その後、様々な理由から、徐々に吹奏楽から疎遠になって行きました。
そして、20数年の時が経った時、人生の紆余曲折に痛めつけられた“心の隙間”を埋めようと求めたのが、“吹奏楽”でした。
何でその公演を知ったのか、何で突然行こうと思い立ったのか、詳しい事は忘れてしまったのですが、およそ20数年振りに行った“吹奏楽の演奏会”は、忘れもしない改装前の東京芸術劇場、2010年(平成22年)7月30日に行なわれた「淀川工科高校吹奏楽部」の東京公演でした…。
あれから、5年近くの年月が流れようとしています。
その後も、ある意味“生きがい”として、様々なコンサートに伺い、このブログも書かせて頂くようになりました。
その間、色々な感動にふれ、私としては大変、幸せでございました。
そんなある日、短い期間で、根本的に吹奏楽と向き合える公演が2回続いたのです…。
ひとつは、前回(3/13)聴かせて頂いた「芸劇ウインド・オーケストラ」。
井上道義先生のポリシーのもと、“新しい観点”から吹奏楽を“考えさせられる”公演は非常に新鮮で有意義なものでした。
そして、もうひとつが今回、ご紹介する「ぱんだウインドオーケストラ 第4回定期演奏会」です…。
「ぱんだウインドオーケストラ」の存在は以前から存じ上げておりました。
最初は、どこかの演奏会でもらったチラシか何かで知ったのかなぁ?
団体名のネーミングがある意味、斬新でインパクトがありましたね。(同時に“違和感”も覚えましたが…。)
チラシをよく見なかったので、どこかの市民バンドかなと思っておりましたが、後に東京藝大の学生さん達だと知って、がぜん興味が湧いてきました。
1~2年前から演奏会に行く機会を狙っておりましたが、日程が合わず今回へと至った次第です。
プログラムの《プロフィール》を見ますと「ぱんだウインドオーケストラ」と言うのは、2011年4月に東京藝術大学に入学した学生さん達を中心に結成されました。
演奏や指揮は、もちろん、全ての運営を学生の皆さんのみでやっているとのこと。
ところで、楽団名の「ぱんだウインドオーケストラ」というのは、2011年に上野動物園に新しいパンダが来た事にちなんで名付けられたようです。(調べてみますと「リーリー」「シンシン」と言うパンダが来園しているようですね。)
結成当時の学生の皆さんも4年が経ち、卒業されるとのこと。
つまり、学生としては最後の演奏会。(“卒業公演”なんですね。)
気合いが入っていることでしょう。
楽しみです。
開演前に舞台上では“ウェルカムコンサート”がありました。
小編成を対象にしたアンサンブルを披露して下さいました。
「ぱんだウインドオーケストラ」は、演奏者の増減が可能な、いわゆる“フレキシブル”な小編成のための楽曲にも取り組んでいるようです。(CDも出しているのですね。『コンサートのためのフレキシブル・レパートリー』)
2015年(平成27年)3月18日、水曜日。
場所は、大田区民ホール・アプリコ大ホール。
開演です。
[演奏]ぱんだウインドオーケストラ
[指揮]石坂 幸治
[コンサートマスター]上野 耕平
1.PANDASTIC!/前久保 諒
2.フランス組曲 ~Suite Franҫaise/D.ミヨー
第1部〈ノルマンディ〉
第2部〈ブルターニュ〉
第3部〈イル・ド・フランス〉
第4部〈アルザス・ロレーヌ〉
第5部〈プロヴァンス〉
3.オール・デウーヴル ~Hors-d’œuvre/黛 敏郎(Arr. 長生 淳)
~休憩~
4.アルメニアン・ダンス パートⅠ ~Armenian Dances Part1/A.リード
1.あんずの木 Tzirani Tzar
2.やまうずらの歌 Gakavi Yerk
3.おーい、ぼくのナザン Hoy, Nazan Eem
4.アラガツ山 Alagyaz
5.行け,行け Gna, Gna
5.交響曲 第0番 ~Symphony No.0/B.ピクール
第1部〈太陽神「ラ」のファンファーレ〉
第2部〈泉にて――不死鳥の歌と踊り〉
第3部〈死と復活〉
第4部〈ヘリオポリスへの飛行――「ラ」の祝典〉
まずは、金管楽器数名の有志の方が舞台に出てきてファンファーレの演奏。
柔らかい温かみのあるサウンドは、否が応でも雰囲気を盛り上げます…。
そして、演奏が始まりました。
最初の曲は、「PANDASTIC!」。
作曲科の前久保諒さんの作品です。
第2回の定期演奏会で初演されて以来、演奏会の幕開けの曲として定着しているようです。
明るく、さわやかで軽快な曲でした。
それにしても、東京藝大の皆さんのサウンドは素晴らしい!
厚くて、やわらかな音なのだけれども、キラキラ感が半端じゃないです。
以前に聴かせて頂いた「東京藝大ウィンドオーケストラ」の演奏会の時も思ったのですが、東京藝大の皆さんのサウンドは、他の音大にない良い意味で“特異”で素晴らしいサウンドを持っています。
なお、作曲者の前久保諒さんも会場にいらしてました。
さて、2曲目は、ミヨーの「フランス組曲」です。
フランス各地の『民謡』や『伝統的な素材』を取り入れた楽曲。
音色もガラッと雰囲気が変わって、より温かみが出てきたような。
あらためて思うのですが、個人の技量がすこぶる高い!
各セクションのサウンドが楽器として“交わり”、また、ハーモニーとして“交わり”、融和された世界をつくり上げておりました…。
少し、こじんまりとした感じもしましたが、それは決して演奏がマズイわけではなく、“演出”の成果だと思った次第。
実にノーブルな演奏でした。
次は、プログラムの演奏曲目を見た瞬間、とても興味を持った楽曲「オール・デウーヴル」。
黛敏郎先生の作品で長生淳先生が吹奏楽にアレンジされたとのこと。
そして、このアレンジが17年前に行なわれたにもかかわらず、未だに演奏されたことがないらしいのです。
この日、「ぱんだウインドオーケストラ」が演奏することによって“吹奏楽版”の“世界初演”になるのだそうです。
もともとはピアノ曲のようですが、なぜ、“吹奏楽版”が17年もの間、日の目を見なかったのか?
プログラムに載っていた音楽プロデューサーの磯田健一郎氏のコメントに“答え”がありましたので、ザックリと説明させて頂きます。
17年前、磯田氏はご自身の仕事の集大成として、ある企画を思いついておられました。それは、黛先生の“管楽オーケストラの作品をまとめ”、日本の代表的な指揮者、岩城宏之先生のタクトでCD化するというものでした。
そして、その中の1曲として、「オール・デウーヴル」がありました。
吹奏楽への編曲は、三善晃先生に“楽器用法を絶賛された”長生先生“しかいないだろう”と言う事で話は進んでいました。
ところが、収録の段階になって、黛先生のご遺族から“待った”が、かかってしまった。
それで、CDの計画も頓挫し、この「オール・デウーヴル(吹奏楽版)」も“お蔵入り”となってしまったのです…。
今回、この曲が初演されるにあたって、おそらく関係者の相当な御尽力があったことと推察いたします。
そして、演奏を聴かせて頂いた、我々観客は本当に幸せ者です。
「オール・デウーヴル」は、黛先生が東京藝術大学の前身の東京音楽学校の学生であった1946年の作。
全2楽章から構成されており、第1楽章が“ブギウギ”、第2楽章が“ルンバ”の要素で構成されています。
聴いてみて、ビックリしましたねぇ。
ジャズやラテンの雰囲気を保ちながら、きちんとクラシック音楽になっている。
と言って、ガーシュインみたいな感じではなく、もっとアカデミックで芸術性が高い。
不協和音や変拍子だらけなのですが、うまく既存の音楽と混じり合っていて聴いているだけで楽しくなる曲でした!
演奏も素晴らしかった!
特に団員、ひとりひとりの表現力には驚嘆です。(ソロ・パートなどは、ものすごかった!特にコンサートマスターの上野耕平さんは、「第6回アドルフ・サックス国際コンクール第2位」という輝かしい実績を持っているだけあって、素晴らしかった!)
この曲は楽譜を出版しているのでしょうか?
それとも、これから出版の予定があるのでしょうか?
広まれば、ものすごく流行りそうな曲です。(市立柏高校が演奏したら面白そう…。)
それにしても、作曲された1947年とは、昭和22年ですよね。
戦後の混乱の中、学生でありながら、このような素晴らしい曲を書くとは…。
黛先生は、偉大です!!
休憩のあと、心地よい余韻にひたっていたら、後半が始まるようです。
最初は、打楽器の皆さんのトライアングルによるパフォーマンス。
しっかりとした技術があってこその演奏でした。(非常に楽しめました。)
後半の口開けは、お馴染み「アルメニアン・ダンス パートⅠ」です。
今年は、作曲者のアルフレッド・リードの没後10年ということもあり、各地でリードにまつわるコンサートをしているような…。(例えば、4/5にTKWOが東京芸術劇場で“オール・リード”のプログラムをやるみたいですね。)
この曲は、皆さんご存じだと思いますので、グダグダと説明はしません。
ただヒトコト、感想だけ。
私は今まで、数多く生演奏の「アルメニアン・ダンス パートⅠ」を聴いてきました。
それを前提に申し上げるのですが、今回の演奏は、私の聴いた中では「ベスト5」に入る“名演”でした。(もちろん、プロも含めてです。)
うまく言い表せないのですが、率直に表現すると、技術を超えた“気持ちが伝わってくる演奏”。
そんな気がしました…。(表現が下手でスミマセン。)
続いて、「ぱんだウインドオーケストラ」の“制作”の担当である伊藤啓太さんが舞台に登場し、挨拶をされました。
このバンドに対するアツい思いが部外者の私にも強く感じられました。
最後の曲は、ピクール「交響曲 第0番」。
この曲は、2004年にベルギーの「聖セシリア吹奏楽団」の委嘱によって作曲されました。
テーマは、「聖セシリア吹奏楽団」のシンボルである“不死鳥”の伝説なのだそうです。
ところで、私は、ピクールさんという人を知りません。(ここが、ただの吹奏楽ファンのオヤジの悲しいところで、もっと、いろんな音楽的知識があれば、この拙いブログを読んで下さる皆様にたくさんの情報を伝えることが出来るのに…、といつも、歯がゆく思います。ただ、今は、インターネットと言う素晴らしい“ツール”があるので、助かってます。)
調べてみますと、バルト・ピクール氏、1972年にベルギー生まれと言いますから、まだ、40歳過ぎたばかりの方ですね。
この日、演奏された「交響曲 第0番」の他に「ガリア戦記」「地獄の踊り」といった曲が有名のようです。(私は、聴いた事がないので、youtubeで鑑賞させて頂きます。)
演奏は、期待通り、素晴らしいものでした。
何度も言いますけど、本当に個人の技術力が高い。
だから当然、“表現力”もしっかりしています。
いや、“表現力”と言うよりも、“演技力”と言った方がいいかも。
あまりに演奏に引き込まれて、曲の印象が記憶に残らなかった“浦和のオヤジ”でした…。
これで、プログラム上の演奏は終了しました。
そして、アンコール曲。
上記の写真の2曲です。
最初は、吹奏楽のコンサートで定番の「宝島」。
フュージョンのインストゥルメンタル・バンド、T-SQUARE(作曲当時は、THE SQUARE)の和泉宏隆氏の作曲で、真島俊夫先生が吹奏楽に編曲したことによって爆発的にヒットした楽曲です。
当然、とても、楽しい演奏でしたが、ノーブルさは漂っていましたよ。
そして、ここで、指揮の石坂幸治さんの挨拶。
石坂さんも「霧島国際音楽賞」を受賞されていたり、今後の活躍を期待される方です。
本当に「ぱんだウインドオーケストラ」を好きなんだなあと思う挨拶でした。
そして、学生としての、最後の「ぱんだウインドオーケストラ」に想いを込めて2曲目のアンコール曲が紹介されました。
それは、第53回(2005年)全日本吹奏楽コンクール課題曲「マーチ『春風』」。
何でも、「ぱんだウインドオーケストラ」が第一回目の演奏会の第一曲に演奏した曲なんだそうです。
ステキな演奏でした…。
「ぱんだウインドオーケストラ」は、今後は、年数回の演奏会を目標に活動するようです。
学生とは違う立場になる方が多くなるのでしょうが、これからも高レベルの演奏を聴かせて頂ければ幸いです。
「ぱんだウインドオーケストラ」、忘れられない団体になりました…。