山口県大津郡三隅町。プロフィールで筆者の出世地を知ると、美術に関心のある人ならみな愕く。あの香月泰男と同郷ですかと。
そう、いまは合併で長門市になっているが、香月が「私の地球」と呼んだ久原集落から山を越えた海辺の村で私は生まれた。子供のころの家の隣が香月の親戚だったので、私の描いた絵を香月に見てもらおうかと言われたが、まだ海のものとも山のものとも分からない時代で両親は固辞した。それでも伯母が魚の行商で香月家に出入りし、香月が上京するたびに手土産として持参した塩漬けのウニは、私の父が採ったものだ。
香月泰男は自らのシベリア抑留体験をもとに57点のシベリアシリーズを描いた画家で、その多くが山口県立美術館に収蔵・展示されている。また自宅近くにも香月泰男美術館が建てられ、シベリアシリーズが生み出されたアトリエが再現されえいる。合併後は三隅町から長門市に引き継がれた。
また長門市はもうひとりの巨星、童謡詩人・金子みすゞが生まれ育ったところで、記念館もある。そして、被爆者として反戦から文明批判までいった、わが師、造形作家・殿敷侃が活動の拠点を置いたところでもある。
その長門市の記事が沖縄、宮古島の地元紙に小さく載った。内容は市の新人職員を自衛隊で研修させるというもの。これを見て心の底から怒りを覚える。
さすが日本を戦争のできる国にしようと躍起の首相・安倍晋三のお膝元である。政権への迎合である。香月泰男や金子みすゞを観光資源とする市の職員が、自衛隊の研修から帰って、どの面下げて香月の絵や、みすゞの詩の前に立てるのか。市民へのサービス向上をいうのであれば、東京ディズニーランドにいったほうがよほどいい。
しかし、遠い沖縄・宮古島でよくこんな記事を載せてくれたという思いとともに、「なぜ」という気もしないわけでもない。(普)