「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

いのちがけ  Long Good-bye 2024・03・06

2024-03-06 05:23:00 | Weblog

 

  今日の「 お気に入り 」は 、戦国武将が主人公の

 時代小説の 一くだり 二くだり 。備忘のため 、抜

 き書き 。

  引用はじめ 。

  「 『 では ―― では 、佐久間さまは犬死にで
   ござりますか 』
  『 犬死になどない 』
   利家はするどく言い切った 。『 もののふは 、
  いつもいのちがけじゃ 。そなたとて 、そう
  であろう 』 」

  ( ´_ゝ`)

 「 元康は屈託のない笑顔となって語りかける 。
  『 許されよ 。当家のものは 、他国の方に壁
  をつくるくせがござっての 』そこでことば
  を切った元康のまなざしが 、にわかに翳りを
  おびた 。右の拳が吸いこまれるように口もと
  へはこばれ 、かふかふ 、という耳なれぬ音
  が 、しずまりかえった広間にひびく 。家臣
  たちが 、そっと面を逸らした 。
   長頼は 、異様な生きものでも見るような思
  いで 、眼前に坐す若者を凝視する 。爪を嚙
  んでいるのだ 、と気づいたとき 、ようやく
  元康が語を継いだ 。
  『 ・・・ 長らく 、小そうなって生きてま
  いったゆえ 、な 』
   そのことばが胸のうちによみがえったのは 、
  役目をおえ 、岡崎城の大手から退出したあ
  とのことである。」 

 「『 ―― 小そうなって生きてまいったゆえ ・・・ 』
  あのとき 、わかい領主はそうつぶやいていた 。
  家臣たちに事寄せてはいたが 、あれはやはり 、じ
  ぶん自身のことでもあったろう 。
   ――  が 、いまや 、この大きさはどうだ 。」

  ( ´_ゝ`)

 「 だれにでも 、気にくわぬ相手というものがある 。
  村井長頼 ( ながより ) にとって 、それは奥村
  助右衛門家福( すけえもんいえとみ )という
  ことになろう 。ふたつ齢上にすぎぬが 、あるじ
  利家の兄・利久に仕える筆頭家老である 。
   そこも何とはなし気に入らぬ 。ほかにも 、お
  のれより上背があるとか 、細面で秀麗といって
  いい風貌ちをしているとか 、癇にさわるところ
  を挙げればきりがない 。 物言いが尊大である 、
  ということもおおきい 。」

  ( ´_ゝ`)

 「 『 十年さき 、わしはこの世におらぬ 』
   つかのま息がとまった 。いつもの冗談
  かとおもったが 、ふざけている気配は
  なく 、かといって深刻めかしているわ
  けでもないようだった 。
  『 どこかおわるいので ・・・ 』
   ようやく 、それだけを口にする 。あ
  るじはいくぶんさびしげに 、かぶりを
  ふった 。
  『 どこも悪 ( あ ) しゅうはない ・・・
   されど 、余人には見えずとも 、少し
   ずつ 、ほんの少しずつ 、この身のお
   とろえゆくが分かる 』そこまでいって 、
  ことさら大げさに顔をしかめてみせる 。
   ・・・ 」

  「『 ま 、わしはこのまま逃げきれそうじゃ
   がの 』」

  ( ´_ゝ`)

 「  ―― 気のせいというものはない 。
   と長頼は信じている 。感じたものには 、
   なにかしら 、理由がある 。それをおろ
  そかにしなかったから 、いままで生きて
  こられたのだろう 。」

  ( 砂原浩太朗著『いのちがけ 加賀百万石の礎』

   講談社刊 所収  )

  引用おわり 。

  ( ´_ゝ`)

  久しぶりに 、読み応えのある時代小説に出会えた 。

  時代小説は 、現代の若者には 、だんだん読むのが

 つらくなってきているのではなかろうか 、と思う  。

  原作として映像化された後 、中高年だけでなく若年

 層にも若干読者が広がるという市場構造なんだろうか 。

  多少とも 時代背景 や 史実 をかじってないと 、面白

 味も 半減するに違いない 。吉川英治に始まって 、

 山岡荘八 、山本周五郎 、海音寺潮五郎 、池波正太郎 、

 司馬遼太郎 、藤沢周平 、・・・ を読み継いできた世

 代に受容される書き手になるのは大変だ 。

 

 ( ´_ゝ`)

  閑話休題 。

  小説の主人公 、 村井長頼 じゃないが 、

  ながく宮仕えしていると 、同僚 、上司に「 好かぬやつ 」

 の 一人や二人 必ずいる 。表立った諍いがある訳でもなく、

 格別の恨みごとがある訳でもないが 、なんとなく「 気に入ら

 ない 」、「 反りが合わない 」、「 あいつより先に死にたく

 ない 」という気持ちが 心の片隅にないではない 。

  相手もそう思っているかも知れないから 、おあいこだ 

  かつての「 好かぬやつ 」の大半は 、鬼籍に入っている 。

  作家は 、小説の中で 、前田利家をして こう言わしめている 。

  「 ま 、わしはこのまま逃げきれそうじゃがの 。」

  「 墓へ入れば 、いくらでも休める 」。

 

 

 ( ついでながらの

   筆者註:「 村井 長頼( むらい ながより )は 、戦国
       時代から江戸時代初期にかけての武将 、前
       田家の家臣 。本姓は平氏( 桓武平氏 )。
       家紋は丸ノ内上羽蝶 。通称は又兵衛 、長八
       郎 、豊後守 。嫡男に 村井長次 。

       生 涯
        天文12年(1543年)に生まれ 、はじめは
       織田氏家臣の前田利久に仕える 。

        永禄2年(1559年)から永禄4年(1561年)
       にかけて 利久の弟の前田利家が織田家から
       追放されていた時に長頼も従い 、永禄12年
       (1569年)に 織田信長の命により 利久に
       代わって弟の利家が前田家を継ぐと 、それ
       に従って利家の家臣となった 。

        以後 、常に戦場でも共にあり幾度もその盾
       となって救っており 、利家からは通称である
       又左衛門から『 又 』の字を拝領するほど信
       頼され 、石山本願寺攻め 、金ヶ森城攻め 、
       長篠の戦いなどで数多くの軍功をあげる 。
       利家が加賀国に封じられて大名になると家老
       となり 、奥村永福らと共に加賀藩の基礎を
       築いた 。慶長4年(1599年)に利家が死去す
       ると長頼は隠居したが 、加賀征伐を行おう
       とした徳川家康に対して 、前田利長が母の
       芳春院を人質に差し出すと 、長頼も芳春院
       に従って江戸に下った 。

        慶長10年(1605年)10月26日 、江戸で死去
       した 。享年63 。

       人 物
        前田利家から『 髭殿 』と呼ばれるほど 、
       立派な髭をたくわえていたといわれている 。

       演じた人物
        女たちの百万石 演:長門裕之
        加賀百万石〜母と子の戦国サバイバル 
                演:石倉三郎
        利家とまつ〜加賀百万石物語〜 
                演:的場浩司

       村井長頼を主題とした作品
         小説 
         砂原浩太朗『いのちがけ 加賀百万石の礎』
         講談社、2018年、ISBN 978-4-06-220952-6 」

        ( ´_ゝ`)    

       「 砂原 浩太朗 ( すなはら こうたろう 、
        1969年 - ) は 、日本の小説家 。兵庫
        県神戸市生まれ 。

        略 歴
         早稲田大学第一文学部卒業 。出版社
        勤務を経て 、フリーのライター・編集
        者・校正者になる 。

         2016年に『 いのちがけ 』で第2回決戦!
        小説大賞を受賞し 、作家デビュー 。

        以上ウィキ情報 。  )

 

 

 

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 嘘も方便  Long Goo... | トップ | いきがい  Long Goo... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事