「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

安乗の稚児 2008・07・29

2008-07-29 14:55:00 | Weblog
今日の「お気に入り」は、伊良子清白(1877-1946)の詩「安乗(あのり)の稚児」。

  志摩の果(はて)安乗の小村(こむら)
  早手風岩をどよもし
  柳道木々を根こじて
  虚空(みそら)飛ぶ断(ちぎ)れの細葉

  水底(みなぞこ)の泥を逆上げ
  かきにごす海の病(いたづき)
  そゝり立つ波の大鋸(おほのこ)
  過(よ)げとこそ船をまつらめ

  とある家(や)に飯(いひ)蒸(むせ)かへり
  男(を)もあらず女(め)も出(い)で行(ゆ)きて
  稚児ひとり小籠に坐り
  ほゝゑみて海に対(むか)へり

  荒壁の小家一村
  反響(こだま)する心と心
  稚児ひとり恐怖(おそれ)をしらず
  ほゝゑみて海に対へり

  いみじくも貴き景色
  今もなほ胸にぞ跳る
  少(わか)くして人と行きたる
  志摩のはて安乗の小村
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