「今日の小さなお気に入り」 - My favourite little things

古今の書物から、心に適う言葉、文章を読み拾い、手帳代わりに、このページに書き写す。出る本は多いが、再読したいものは少い。

2014・05・17

2014-05-17 07:25:00 | Weblog


今日の「お気に入り」は、山本夏彦さん(1915-2002)のコラム集から。

永井荷風は少年のころ、新聞を読むことを禁じられていたというなぜ禁じられていたかというと、新聞にはウソが書いてあるウソでないまでも誇張してあるまちがったことや醜聞が書いてある
 大人にはそれがウソか本当か分るが、子供は分らない。だから大人は読んでもいいが、子供は読んではいけない
 荷風散人は明治十二年生れだから、少年時代は明治二十年代である。このころ新聞をとるほどの家では、まず子供には読ませなかった。昭和十四、五年になってもまだ読ませない家があったはずで、それはアンケートしてみれば分る。
 私は禁じられたものの一人であるだから新聞のすみからすみまで読んだ昭和初年の新聞は八ページぐらいだったから、読むことができたのである東京日日新聞(今の毎日新聞)の編集兼発行人は、相馬基という人だといまだにおぼえている新聞の奥付まで読んだのである
 当時の新聞はふり仮名つきだったから、小学生でも読めた読むなと禁じられていたから、勇んで読んだのである
 今は読めと命じられるから、読まないのである。戦後の小学校では先生が新聞を読めという。ことに社説や第一面を読めという。読んだ証拠に切り抜いて来いという。
 だから新聞ぎらいになったのである。テレビラジオ欄以外は全く見ない若者がふえたのは、読め読めと先生が強いたからである。
 今の新聞の文章は当用漢字以外を用いないから、読む気があれば誰にでも読める。新聞の文章がこんなにやさしくなったのは初めてだろう。明治大正時代の新聞は、むずかしい字句を平気で使った。かなさえふればいいのだから、いくらでも使った。
                              〔『月刊ことば』昭和53年7月号〕」

(山本夏彦著「とかくこの世はダメとムダ」講談社刊 所収)



新聞にはウソが書いてあるウソでないまでも誇張してあるまちがったことや醜聞が書いてある。」、大人にも禁じた方がいい、かも知れません。

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